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初めての遺跡調査 後編

 夜明け前星空を見上げシエル様と話をしながら僕は時間を潰していた。

 なんとなく早く起きて目が覚めてしまったんだ。

 野営では寝る時いつもナスがそばにいるのだけど昨晩はお香の匂いが残っていたので今は近くにはいない。

 いないから目が覚めてしまったのかもしれないな。

 護衛対象であるマスカルさんとオールマインさんはテントの中で眠っている。

 カナデさんは匂いがついていないから僕の代わりにナスとヒビキにくっついている。ぐぬぬぬっ。

 フェアチャイルドさんは僕のそばで寝ているけれど野営の時はくっついては来ない。これは何かあった時にくっついていたらすぐに対応できないからだ。さすがにそこは弁えているという事だ。

 精霊達は野営場所の周囲をぐるぐると見回っている。

 わざわざ人の姿の部分を動かす必要はないはずなのだけど、本人たちはその方が気分が出るようだ。時折ライチーが飽きてふらふらとどこかに行きそうなのをサラサとディアナが止めるのを見る事が出来る。

 僕も蜘蛛の巣を張り警戒はしているが周辺に動物の気配はない。

 魔獣達に恐れをなしているのかそれとも精霊達のお陰か。なんにせよゆったりと朝を待つ事が出来る。



 日が昇り準備を終えるとフェアチャイルドさんはマスカルさんと一緒に遺跡の中へ入って行く。今日は僕は外でオールマインさんのお手伝いだ。

 遺跡の中はもう動物はおらず安全だから僕が行く必要はない。それよりもオールマインさんから柵を作る手伝いをお願いされ、それを僕が受けた。

 そして、マスカルさんを一人にするわけにもいかないので遺跡に興味津々のフェアチャイルドさんについて行ってもらう事になったんだ。一応何かあればすぐに戻ってくる事になっている。

 カナデさんはと言うと昨日と同じく引き続き周囲の警戒を魔獣達として貰う。その際にヒビキがカナデさんに抱っこして欲しそうだったが、カナデさんは両手が塞がるのはまずいと言ってやんわりと断っていた。……もっとも、その時のカナデさんは苦渋の決断を強いられているような顔をしていたが。


 ……とにかく今僕は柵作りの手伝いをしている。

 最初は大きな木の杭を空き地を囲むように等間隔に重い木槌で打ち立てていくだけの簡単な作業だ。

 慣れない作業ではあったけれどそれでもお昼前には杭で空き地を囲む事が出来た。後はこの杭に木の板を釘で留めれば柵は完成だ。だけどその前にお昼にしよう。

 遺跡の前にいる連絡係のディアナに声をかけてからお昼の支度を始める。

 料理の途中にフェアチャイルドさんは戻ってきた。

 戻ってきた彼女の顔はなんだか上機嫌に見える。そんなに遺跡を調査出来た事が嬉しいのだろうか?

 その疑問は食事の最中に解かれた。食事の間フェアチャイルドさんはマスカルさんに教えて貰った遺跡の知識を興奮気味に僕に語ってくれた。

 興奮気味な所為か少々早口だった為僕の頭では半分も内容が入ってこなかったがフェアチャイルドさんの説明を聞いていたマスカルさんはまるで教え子の成長を喜ぶかのように満足げに頷いていた。

 元は避難所、今はお墓として扱われている遺跡で不謹慎かもしれないが依頼を受けてよかった。

 アールスと一緒にいる時とは違う、自分のしたい事を心のままに行なっている時の満ち足りた表情をしている。

 やはり彼女は将来考古学者になるのがいいのではないだろうか?

 機会があれば遺跡関連の依頼を積極的に受けたい所だ。


 お昼ご飯を食べ終わると少しの休憩の後フェアチャイルドさんはマスカルさんと一緒にまた地下へと潜っていった。

 僕は柵作りの続きだ。

 杭に空いた穴に板をはめ込み、さらに杭と板に合わせて空けられた穴に木製のくぎを打ち込む。

 木製の釘と聞くと意外に思うかもしれないが、この国は金属の釘は使われておらず木材を使った建築などでは主にほぞ組と言う加工された木材同士を組み合わせる方法が使われている。

 ほぞ組で作られる柵は、柵と柵のちょうど中間地点で噛み合う様に計算され作られている。

 中には少し深く打ち過ぎたりずれたりした杭があって噛み合わなくなる所もあったが、そういう所は魔法でちょちょいと杭を持ち上げて高さを合わせる。

 この作業は杭を打ち込むよりも早く終わった。


 しかし、柵作りはこれで終わりではない。

 噛み合わせた部分に補強の為に被せる杭を打たなければいけないのだ。

 空が暗くなってきたがやれる所まではやっておいた方がいいという事で杭を打ち込んでいく。

 途中ディアナに呼ばれ何があったのかと聞くと、小部屋に小さな穴が開いていて、そこから生き残ったゴキブリが出入りしているのをライチーが発見したらしい。

 巣穴だろうか? カナデさんと相談し念の為にライチーに無理のない範疇で調べてもらうよう頼んだ。

 もしかしたらどこから来たのか分かるかもしれない


 日が暮れる時間になると作業を中断しディアナに夕食の当番であるフェアチャイルドさんを呼び戻してもらう。

 ついでにライチーの調べている穴はどうなったのか聞くと、相当長い穴らしくゴキブリの邪魔もあり時間がかかって調べ切れていないようだ。

 ライチーはむきになって一人で調査を続けているみたいだ。精霊の核はフェアチャイルドさんの指輪についている石にきちんと残っているから心配はいらないそうだ。




 ライチーの調査は翌朝に終わった。核から離れられる限界まで調べてくれたらしい。

 簡単な穴の地図を作り見せてくれた。

 ゴキブリはもぐらのような地中を掘り進む動物の通り道を利用して遺跡までやって来たようだ。通り道にいくつもの動物の骨を発見したらしい。

 穴は基本的に東から伸びてきているが幾重にも枝分かれを重ねてた上にいくつも崩落した形跡もあって調べ切れなかったと嘆いていた。

 結論としてはゴキブリがどこから来たのかは分からない。分かっているのは東の方向から来たんじゃないかと言う漠然としたものだ。

 これでは報告しても仕方がないだろう。


 ライチーの話の後今日もまた作業と調査と見回りに各々別れる。

 昨日の続きで残った杭を打ち終えるとお次は罠の設置をする事になった。

 罠と言っても簡単な物で、自動発動型の風を起こす魔法石を音を出す事が出来る箱の中に入れ柵の外側に置いておくだけだ。

 自動発動型ならいちいち人が魔力(マナ)を込めなくても近くに魔力(マナ)を持った動物が寄って来るだけで発動される。

 というかアースが下手に近づくだけで一斉に鳴り出してしまったのにはまいった。

 魔法にはこんな使い方もあるのだな。風車や水車にも応用が出来るだろう。飛行船にも使えるだろうか?

 箱を置くだけなので杭を打ち込むのと合わせてお昼前に全ての作業を終える事が出来た。

 調査の進展具合をディアナと連絡係を交代したサラサに聞いてみると、残り四分の一と言った所らしい。

 意外と時間はかかっているが、今日中には調査も終わるだろう。




 依頼が終わり、都市へ戻ると僕達は組合に早速依頼の達成とゴキブリの魔蟲が大量に出てきた事を伝えた。

 報告を聞いた受付の人はゴキブリが大量に出たという話の所で小さな悲鳴を上げた。

 どこで大量に発生したのかは謎だったがゴキブリが入って来たと思われる穴は念の為に塞いでおいた事も報告するとぎこちない営業スマイルでねぎらいの言葉をくれ、マスカルさんの口添えもあって追加報酬を貰える事になった。

 また何かの動物が穴を繋げてくるかもしれないが、さすがにそこまで僕達は責任は持てないし、それは専門家に考えてもらう事だ。

 今回の件が六年前の事が発端だとしても僕達にこれ以上調べる方法はない。

 僕達の仕事はここまでだ。

 組合を出た僕らは宿を一晩借りてからグランエルに向けて都市を発った。

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