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初めての遺跡調査 中編

『ナギー、そのまがったさきにマナがいっぱいあるの』


 頭蓋骨を被ったマルピラと会ってから三度曲がった先の曲がり角をライチーは指差して言った。

 僕は短剣を持った手の方で後ろの皆に待つように合図を出し音を立てないようにゆっくりと曲がり角に立ち顔だけ出してその先を確認する。

 曲がり角の先はずっと直線が続いているようだがライチーの光が届いている範囲には何も見えない。

 蜘蛛の糸を暗闇に向けて放つと、光が途切れる前の場所で止まった。

 僕は曲がり角から顔を引っ込めて距離を取る。


「多分魔獣か魔蟲がいるね」

「なんと……」

「魔獣ならもう僕の方に気づいてると思うから魔蟲である可能性が高いけど……」


 僕の方から魔獣の事が分からない、と言うのは本当に不便だ。

 どちらにせよ魔獣や魔蟲は一応第四階位でも相手にする事があるのでここで確認も取らずに引く、と言うのはあまりよろしくないだろう。

 本当ならカナデさんに相談したい所なんだけど。


「どうしますか?」

「とりあえず僕が松明を持って暗闇の所の様子を見に行く。皆はここで待っていて」

「大丈夫ですか……?」

「ライトシールドの魔法石を持ってるから、事前にかけとけば一度だけは攻撃を防げるよ。僕に何かあったらすぐに逃げる事。

 精霊は出来れば先に外にいる皆に知らせて欲しいかな」

『わかったー』


 そう言って僕は短剣を腰の鞘に差し、背中の背負い袋から木の棒を、脂をしみこませた布を腰に付けたブリザベーションのかかっている小袋から取り出し二つを合わせてから燃やす。

 松明を使うのは魔力(マナ)の節約と松明の火は明かりにも武器になるからだ。いざとなれば相手に向かって投げ捨てればいい。

 次に腰に付けた小物入れからは魔法石を取り出しライトシールドを使う。


「フェアチャイルドさん。僕の背負い袋にヒビキを入れてくれるかな」

「は、はい」


 精霊は濃い魔力(マナ)の中に入ると消耗する。しかし、普通の生き物や魔獣は濃い魔力(マナ)の中に入っても問題はない。

 だからこそ僕よりも大量の魔力(マナ)を保有しているヒビキがいれば魔力(マナ)を圧縮させて濃度を上げれば精霊術士のように魔法をある程度防ぐ事も出来るんだ。その代わり魔法を使うのがものすごく不便になるけれど。


「ヒビキ、僕は自分の魔力(マナ)の範囲を狭めるから、僕とヒビキを自分の魔力(マナ)で覆いつくしてくれる?」

「きゅー」

「あっと、ヒビキにもライトシールドかけて置かないとね」


 ライトシールドは一回だけどんな攻撃も防ぐ事が出来る結界を自分の身体の周囲に張る神聖魔法だ。それこそ小石の投擲から巨大な岩の落石だって防げる。

 ただ欠点なのが小石だろうが結界に当たれば割れる事と毒は魔法だろうと何だろうとは防げないという事だ。

 意外と使いにくい魔法なのだが、かけておくのとかけておかないのでは大違いだ。

 何かがぶつかり結界が割れた際にはきちんとパリンと鳴ってくれるバリアの鏡のような魔法なのだ。


 ヒビキにもライトシールドをかけた後僕はなるべく音を出さない様に気を付けて暗がりへ足を進める。

 そして、気づいてしまった。暗がりの正体に。

 盾を構えたまま松明を暗がりに近づけるとずざざざっという音と共に影が後退し土の壁と地面、天井が姿を現す。


「おおぅ……」


 松明の僅かな光も照り返さない真っ黒な細い楕円形の姿。逃げ遅れた奴の姿を僕は見逃さなかった。

 僕は刺激しない様にゆっくりと後退し皆の所へ戻る。


「どうでしたか?」

「やばいのがいる」


 僕の言葉にフェアチャイルドさんとマスカルさんの間に緊張が走った。


「た、多分ライチーの光に驚いて集まったんだと思う。その所為で魔力(マナ)溜まりが出来たんだ……」

「ナギさん……何が、いたのですか?」

「多分魔蟲だと思うんだ……魔蟲の、ゴキブリが壁や地面、天井にびっしりと……」


 僕の言葉にフェアチャイルドさんとマスカルさんは悲鳴を上げた。平気なのはライチーとヒビキだけだ。サラサとディアナは石の中にいるから分からない。


「ライチー、魔力(マナ)溜まりはここだけじゃないよね?」

『うん!』

「じゃあ光を消したり点けたりして一か所にまとめる事は出来る?」

『やってみる!』

「なるべく広い通路に誘導してね?」

「集めてどうするんですか?」

「マスカルさん。この遺跡内で火を使うのは危険ですよね?」

「そ、そうだね……あまりやってほしくはないかな。燃え移るものは無いけど、壁や天井が燃えると崩れる危険性があるし、燃えた後の空気の換気も大変だからね」

「そうですよね。かといって駆除用のお香もないから外に逃がすかしてから駆除するしかないんじゃないかな」

「駆除はするのですね」

「流石にあの数のゴキブリの魔蟲は見逃せないよ」


 この国にいるゴキブリは雑食だ。しかも寿命のない魔蟲。

 魔蟲の行動原理は魔獣と違って魔蟲になる前の習性に従っている。下手をすれば際限なく食料を食べ続け森一つが無くなる、なんて事は珍しくない。

 普通は魔蟲は繁殖出来ないから数が増えない為そんなに脅威になる事はないんだけど……。

 暗がりに潜んでいるのは光を嫌がる習性があるからだ。光の反射を抑えるその身体は暗がりでこそ発揮する。闇に隠れ身を潜める為にそういう習性になったんだろう。


「なんでこんなに増えてるんだろ?」

「どこから集まって来たんでしょうね。もしかしたら……六年前の魔物がどこかに潜んでいる?」

「……あの時の魔物がまだ残ってる……」


 六年前を思い出すとあの頃のアールスを思い出し胸がざわついてくる。

 まだ残っているとしたら……見つけ出したい所だけど実際は難しい。


「可能性はあります。ただ、この遺跡に潜んでいる可能性は低いと思いますが」

「その理由は?」

「精霊達に聞いても魔素は感じなかったみたいですし、そもそも依頼が出されたのはここ最近の事。調査自体は昔から定期的に行われていたはずです。

 恐らくマルピラがここに入り込んできたのは入口が壊れていたからと言うのと、ゴキブリと言う食料が豊富にいるからではないでしょうか?

 ゴキブリが溜まっていたのが入口が壊れる前なのか後なのかはまでは分かりませんが」

「ああ、なるほど……。なんにせよ魔蟲に関しては組合に報告しなくちゃ駄目だね」

「はい」

「マスカルさん。一度ゴキブリに対処する為に遺跡を出ますが構いませんか?」

「もちんだとも」


 方針が決まると僕達は外へ向かった。ライチーだけは遺跡の中に残ってもらいゴキブリを誘導する役目を担ってもらう。

 外に出ると僕達は早速事情を皆に説明する。するとカナデさんが顔面蒼白になって立ち眩みを起こしてしまった。さすがに蛇とかは平気でもゴキブリは無理なようだ。

 僕の考えた作戦はこうだ。

 入り口にナスに雷霆の力で電気の結界を張って貰い、中にいるライチーに外にゴキブリ達を追い出してもらう。そして入り口に張られた電気によってゴキブリを駆除するという物だ。

 入り口の上には光を遮る為に僕が黒いライトで覆っておく。こればっかりはナスの力では範囲が足りないから僕かライチーがやるしかなく、ライチーは今遺跡の中で頑張っているのだから僕がやるしかない。

 雷霆の力で生み出された電気は維持に魔力(マナ)を使わないで神聖魔法に使われる神の力を使うのでどんなに相手が魔力(マナ)を保有していても問題にならない。

 念の為にサラサも中に入ってライチーの援護をしてもらうよう頼むと、サラサはもんの凄く嫌そうな顔をした。

 どうやらサラサもゴキブリが嫌いらしい。代わりにディアナを推薦された。ディアナはまぁ苦手ではあるが我慢できない事はないらしい。

 どうやら完全に平気なのは魔獣達とライチーだけのようだ。平気どころか魔獣達はゴキブリを食べてしまうかもしれない……くれぐれも食べない様にと注意しておく。


 ナスによって半球状に展開された電気の結界を確認するとフェアチャイルドさんに目配せをして作戦を開始してもらう。

 数十秒後、黒い塊が勢いよく遺跡の入り口から出てくる。

 予定通り出て来たゴキブリは高電圧によって動きを止めた。

 密接していたから連鎖的に入り口から出てきていないゴキブリも死んだのか黒い塊はすぐに動きが無くなった。


「……す、すごいですね」


 フェアチャイルドさんの引きつった声が聞こえてくる。


「フェアチャイルドさん。ゴキブリはどうなったかな?」

「すべて動きを止めたようです……」

「そっか。残ってたとしても数匹程度かな……」

「あの、ナギさん。大量の死骸は一体どうするんですか?」

「どうするってそりゃ……」


 僕は水球を生み出しゴキブリの死骸へ向ける。


「水で運んで埋葬するつもりだよ」


 水に浸かった死骸を落とさない様に操り持ち上げる。


「ひ、ひええ~~~~」


 遠くに逃げていたはずのカナデさんの悲鳴が聞こえてくる。水の中に浮かぶゴキブリの死骸とか確かにあまり見たくはない光景だろうな。


「本当なら自分の手でやるべきなんだろうけど……時間がないからね。ごめん」


 数回に分けて死骸を森の中へ運ぶ。

 いずれは森の動物が食べて処分するだろう。

 死骸の処置を終えると僕達は再び遺跡の中へ入ってライチーと合流する。

 ゴキブリを駆除したおかげで遺跡全体を明るく出来るようになったとライチーは得意気に話した。

 マルピラの位置も完全に把握しているようだ。ライチーは遺跡の地図を光で作り出しマルピラの現在位置を赤い点で教えてくれる。

 確実に成長しているな、ライチー。

 そろそろ時間も怪しくなってきたので僕達はライチーの地図が示している赤い点を避けて一番奥へ歩みを進める。

 一応ライチーに蓋の空いた棺の存在を聞くと少し遠回りになる部屋にあると答えた。

 それを聞いて相談してから僕達はその部屋へ向かい三つ並んだ棺を確認した。

 蓋が開いているのは三つのうちの一つだけだ。中には骨が散らばっていて頭蓋骨以外なにかが無くなっているのか素人目には分からなくなってしまっていた。とりあえず頭蓋骨は無かったので中に入れておく。


「意外と棺少ないんですね」

「他の部屋にあるけれど、元々ここで死んだ人は少なかったみたいなんだ。

 逃げ込んできた人が少なかったのか、大進攻の後他の土地に移ろうとしたのか……資料なんてないからね、何もわかっていないんだ」

「そうなんですか……」


 蓋をきちんと閉じた後部屋を出る。

 一番の奥まで行くとマスカルさんは荷物袋からお香を取り出した。

 お香は乾いた草をヒビキの半分くらいの大きさの壺に半分ほど敷き詰めた物だ。早速火をつけると白い煙がもくもくと立ち上る。

 強い香草の匂いだ。僕は料理とかで使うから平気だがフェアチャイルドさんは懐かしのマスクを取り出し久々に身に着けている。


「きゅぃ……」

「ん? ヒビキも嫌いな匂いなの?」

「きゅぃきゅぃ」

「そっか。じゃあ僕の傍においで。風で匂いから守るから」

「きゅ~」


 足元にやって来たヒビキの周りに風を生み出し匂いが来ないように魔力(マナ)を動かす。

 ここ以外にもまだ置かなければならないからヒビキにはもう少し我慢してもらう事になる。

 マスカルさんの指定通りに同じ物を置いた後は僕達は急いで遺跡を出た。

 そうしてしばらく待つとマルピラが勢いよく遺跡から逃げ出してきて、まるで後を追うように白い煙も出て来た。

 煙が収まるのを待ちライチーに中の様子を探ってもらうと、まだ数匹煙が回りきらなかった部屋に残っていた。

 その残ったマルピラも僕が脅しをかけて遺跡から追い出す事に成功した。

 ここまでを終える頃には外はすっかりと暗くなっていたので調査はまた明日という事になった。

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