転生したら・・・
僕が死んだ理由は大したものではない。漫画や小説、フィクションの世界ではよくある理由。けど現実ではたぶんそうそう出くわさないようなそんな理由。
学校への登校途中僕は車に轢かれそうになった男の子をかばい死んでしまった。
未練はあるけれど不思議と後悔はしていない。たぶん声が死に際に男の子が助かったと教えてくれたからだろう。
子供を救えた。転生した後その事実が僕に自信をくれた。この世界で強く生きていこうと思えたんだ。
ただ一つの事実が今の選択を大いに後悔させたけれど。
僕が今いる世界には魔王がいる。魔王に少しでも対抗するために国の各都市には学校があり、学校には七歳になる年になったら通う義務がある。たとえそれがどんなに遠い村だとしても。
さすがに学校がある都市以外から通う事になる子供には国から援助が出て寮に住む事になるのだけれど、そんな年ごろの子供を親元から離して大丈夫なんだろうか。
今僕は六歳。年が明けたら僕は一番近い都市グランエルの学校に通う事になるが、実際にグランエルに行くのは年が明ける前だ。
僕の他にも友達が一人一緒にグランエルに行く事になっているのだけれど、その子はもう覚悟ができているのか親から離れる事に躊躇いは感じられなかった。
「ナギ、またここにいたの?」
僕を呼ぶ声に振り返ってみるとそこにはグランエルに一緒に行く僕の友達がいた。
名前はアールス=ワンダー。リーフグリーンの髪を風で顔にかからないよう抑えながら僕に微笑みかけてくる。
男っぽい名前だけれどれっきとした女の子だ。親が魔物に子が殺されないようにと願掛けで男っぽい名前にしたらしい。
その名に反して村で一番とかわいらしい女の子に育っていると言われているけれど、実は名前負けしないほど中身はタフに育ってる。
「うん。もうすぐこの景色も見れなくなるからね」
僕はいま村の柵の上に乗っている。この辺はまだグランエルに近く、軍や冒険者達による魔物退治や野生動物の駆除が進んでいるため危険なんて無いけれど、用心の為の柵だ。そんな所に座っていれば怒られるのは当然と言える。
僕はこの柵の上から見る草原の景色が好きだ。風で草花が揺れて太陽の光が反射し、虫達の美しい合唱が聞ける特等席だ。
「またおじさんに怒られるよ?」
「いいさ。この景色を見られるなら怒られるなんて大した事じゃない」
「本当ナギって変わってる」
とはいえアールスを相手するのに上からは失礼だ。僕は柵から降りてアールスの傍へ行く。
僕がそばによるとアールスは突然僕の手を取った。
「アールス?」
「ナギ、二人でこの村に帰ってこようね」
「え?春季と秋季休暇には帰って来られるんじゃないの?」
春季、秋季休暇というのは早い話子供が田畑の手伝いをする為の長期休暇だ。
ここが僕のいた世界と違う所なんだけれど、この世界では春と秋以外では学校には長期休暇はないらしい。食料や薪が減りがちな冬には学校にいてもらった方が都合がいいんだろう。
「そういう意味じゃなくて、卒業した後にって事!」
「あ、ああ。そういう意味ね」
学校は六年制で十二歳まで都市で暮らす事になる。その後もっと専門的な学問を学びたい時は高等学校へ行き、兵士になりたい場合は兵士訓練所へ行き、冒険者になりたければ冒険者自由組合という場所で登録をすればいい。それ以外……つまり家業を継ぐなら家に帰ればいい。
一応僕は冒険者志望だけど、アールスはどの道に進むんだろう。
「そういえばさ、アールスは学校卒業したら何になりたいの?」
「もちろん冒険者! 冒険者になって色んな場所を旅するの!」
「じゃあ僕と一緒だ」
「ナギは昔っから冒険者になりたいって言ってたもんね。ねっ、どうせだから二人で一緒に冒険しない?」
「うん。いいよ。アールスと一緒ならどこでだって楽しそうだ」
「でしょ!? まぁ女の子二人旅ってのもちょっと心配だけど」
「それだったら学校で仲間を探せばいいさ」
……そう、今世の僕は女だったのだ。これが僕が選択を後悔した理由だ。心は男のままで女になるってどんな拷問!? 僕さすがに男に抱かれたいと思わないよ!? 百合か? 神様は僕に百合を願っているの? でも僕男だからね。中身男だからね! ああ、結局一度も使われなかったマイサンよいずこに。
「どうしたの? ナギ。さっきから変な顔して」
「いや、僕男に生まれたかったなって思ってさ」
「またそれ? いい加減諦めなよ」
諦めようにも諦めきれないよマイサン。
ああ、女の子と普通の恋がしたかったな。