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初めてのお酒

 試験が無事に終わり僕達は第四階位、中級の冒険者になる事が出来た。

 長いようで二年と言う最速と言える速度で中級に上がる事に出来た僕達はカナデさんと共に喜びを分かち合う事にした。

 場所は小屋で、首都で祝賀会を開いた時のようにお菓子を用意した。

 カナデさんもお祝いにとお酒を持って来てくれた。

 あまり飲むイメージが無かったので驚いたが、どうやらカナデさんは一応飲めるらしい。

 ただ弱いので一人の時は飲まない様にしていたんだとか。

 まだ未成年の身で飲む事に抵抗はあるが、そもそもこの国に年齢制限はないので飲む事自体は問題ない。

 カナデさん自らコップにお酒を入れて配り乾杯の音頭を取った。


「それではぁ~、昇位試験合格とナギさんの魔眼習得にかんぱ~い」

「かんぱーい」

「乾杯」


 それぞれコップを掲げてからお酒に口をつける。

 お酒を口の中に含くむと違和感にん?と小さく首を捻り、飲み込んでみてとある疑惑が湧いてくる。

 確認の為にもう二三度同じ事を繰り返す


「……」

「ナギさん? お口に合いませんでしたか?」


 多分僕は今すごく微妙な顔をしている。


「フェアチャイルドさんは平気?」

「はい……お酒駄目ですか?」


 僕の飲んだお酒は濃い麦茶色の泡がないカナデさん曰くごく一般的で広く愛されているアイラと言うお酒だ。


「うん……なんて言うか苦いのも駄目なんだけど、アルコールの味なのかな? 変な味と喉に残る焼けた感じが嫌だ……」

「はわ~。意外ですねぇ。アリスさんはお酒駄目ですか~」


 カナデさんはお酒に一口付けた後お菓子をパクパクと食べ始め、時折お酒を少しだけ飲むというのを繰り替えしている。


「みたいですね……すみません。折角用意してもらった物なのに」

「いえいえ~、お気になさらないでください~」

「ぴーぴー」

「きゅー」

「え、ナスとヒビキもお酒飲んでみたいの? うーん。じゃあ僕の残り飲んでみる?」

「ぴー!」

「きゅー!」

「じゃあ口開けてね」


 魔法を使いふたりの口の中に一口分のお酒を垂らしてみる。

 

「ぴー!」

「きゅぃ……ぺぺ」


 ナスはお気に召したようだがヒビキは駄目だったようで吐き出してしまっている。

 ヒビキには口直しにお菓子をあげておこう。


「カナデさん。ナスは大丈夫みたいなので分けてもいいですか?」

「もちろんですよ~」

「だって。よかったね」


 早速ナスの食器を取り出してお酒で満たす。お酒は樽であるので余裕はあるだろう。


「ぼふぼふ」

「ああ、アースも欲しいの? じゃあまずは味見してからね?」


 アースが遅れて来たのは用意した果物を食べていたからだ。アースが大きく口を開くと食べかすが残っていた。後で歯磨きだな。

 アースの一口は大きいから樽から直接拳ほどの量を取りアースに飲ませる。


「ぼふ……ぼふぼふ」


 まぁまぁらしい。おかわりは要求せずアースは残った野菜を食べ始めた。


「アースさんも駄目なんですか?」

「いや、駄目っていうか単純に好みに合わなかったみたい。魔素の苦みの方がおいしいって」

「なるほど。美食という事ですね」

「まぁそんな所だね……ってカナデさん大丈夫ですか?」


 いつの間にかカナデさんの顔が真っ赤になって眠たげに瞼が落ちそうになっている。


「はい~。ふわふわしていい気持ちですよぉ~」


 まだ一杯目のはずだがもう酔っているのだろうか。

 フェアチャイルドさんは平気な様子で二杯目を継ぎ足している。


「フェアチャイルドさんはお酒気に入った?」

「はい。苦みがお菓子の甘さを引き立てていい感じです」

「そっか。じゃあ僕も試してみようかな」


 ナスとヒビキにお菓子を渡しつつ僕もお菓子と一緒にお酒を飲んでみる。

 ……うん。口の中が甘ったるくなったら口直し的な感じでお酒を飲むという感じでいいだろう。

 だけどそんな方法を取っても僕はお酒は美味しく感じられずちびちびと飲むしかなかった。


 時間が進むとカナデさんは二杯目のお酒の途中で寝入ってしまった。仕方ないので毛布を掛けて寝かせてあげる事にする。ご両親には今日は僕達の所で泊まる事を伝えていたみたいだからこのまま朝になるまで寝かせても大丈夫だろう。……いまはまだ夕方だが。

 フェアチャイルドさんは三杯目で顔が赤くなってきたが正気は 保ったままでナスにお菓子を与えてくれている。

 ナスは飲む勢いが早かったので僕が待ったをかけた。

 お酒は一気に飲むものではない。急性アルコール中毒が怖いし、身体にどんな変調をきたすか分からない。だからゆっくりと飲むように諭した。

 だけど正直僕は魔獣は何を口にしても完全に分解して栄養に回してるんじゃないかと思ってる。だってこの子達アイドルかのように排泄しないんだもん。

 とはいえ油断は禁物。何があるか分からないのが肉体の不思議という物だ。


 フェアチャイルドさんが四杯目を空にすると僕にしだれかかってきた。

 どうやら酔ってしまったらしい。四杯も飲めれば十分強い気もするのだがどうなのだろうか? 基準が分からない。

 さらにフェアチャイルドさんはお菓子を食べる手を留めて僕の胸元に顔を埋めてくる。


「ど、どうしたの? フェアチャイルドさん」

「ん……なぎさんのおむねやわらかいです……」

「ま、枕欲しいなら持って来るよ?」


 一度宿まで行かないといけないけど。


「だいじょうぶです……わたしはこのままで……」

「……まぁいいか」


 昔はよくこうやって体調を軽く崩して不安になってたり咳で夜中に起きちゃったフェアチャイルドさんを抱きしめていたっけ。


「ナス、ヒビキ。残りのお菓子はカナデさんの為に取っておくからここまでね」

「ぴー」

「きゅいー」

「お願いヒビキ」

「きゅぃ……きゅー」


 残念そうに下を向くヒビキの口元を拭いてあげる。

 拭き終わるとヒビキはカナデさんの所へ行き胸元へもぐり込もうとした。

 カナデさんはくすぐったそうに笑った後寝ぼけた様子で瞼を開きヒビキを確認すると自らヒビキを抱き寄せた。これでヒビキは安心だろう。

 片づけたいけどフェアチャイルドさんが抱き着いて来ていてやりにくい。

 しかもなんだかずっとフェアチャイルドさんにくっついていたライチーが恨みがましい目でこちらを見てくる。

 ごめんねと謝るとライチーは無言のままフェアチャイルドさんから離れ僕の背中に乗っかってきた。


『レナスの代わり』

「あはは……ライチーがそうしたいならいいよ」


 とりあえず片手でフェアチャイルドさんを抱きしめたままライチーとお喋りしつつ時間をかけ少しずつ片付けた。

 終わる頃には気づくとフェアチャイルドさんも可愛らしい寝息を立てている。フェアチャイルドさんの寝顔を見ると本当に癒される。


「ぴーぴー」

「え、まだ飲みたいの? 仕方ないな……」


 幸いお酒は液体だから手を使わなくても注ぐ事は出来る。

 僕はお酒を操り移動させる途中でふと思いついた。


「ねぇナス。お酒をマナポーションにしたらどんな味になるかきにならない?」

「ぴー!」

「んふふ。じゃあやってみようか」


 僕は魔眼の効果を発動させる。

 初めて魔眼が発現した時のように視界は青くならない。

 あれは自分の魔力(マナ)を見ていたので青くなってしまったんだ。

 魔眼の効果をちょっと調整すれば見える範囲を指定する事が出来るのだ。

 僕は今は宙に浮かべたお酒の周囲の自分の魔力(マナ)だけを可視化するように調整してある。ナスによるとこれに慣れると無意識に情報の取捨選択ができるようになるようだ。


 僕がマナポーションを作るのにわざわざ魔眼を使うのには理由がある。

 お酒と僕の魔力(マナ)を混ぜ合わせマナポーションが出来る過程が魔眼のお陰でよくわかる。

 ただ漫然とかき混ぜるとマナポーションの濃さにムラが出て味にも影響が出てしまうようだ。

 濃淡についてはナスは昔から気づいていた事みたいだが味に直結するとは思わなかったようだ。

 魔眼を得てからマナポーションを初めて作った時に濃淡が出来ている事に気づき均等に混ぜ合わせて魔獣達にあげた所今までにない高評価を得る事が出来た。

 僕には相変わらず味は分からないんだけどね。やはりマナポーションの味が分かるのは魔獣の舌の作りが人間と違うからだろう。


 出来上がったお酒のマナポーションは濃かった麦茶色にさらに深みが増している。

 ナスの食器に移すとナスはまず匂いを嗅いでから飲み始めた。

 最初は先ほどまでと同じように舐めて。だけど次第に舐める速度が上がり、ついに口を直につけて飲み始めてしまった。


「ナス。ナス。ゆっくり飲まなきゃ駄目だよ」

「ぴーぴー」

「え、そんなに美味しいの?」


 どうやら苦みに深みが出て甘みを引き立たせているようだ。


「でも駄目だよ。急いで飲んじゃ」

「ぴぃ……」

「あと、今日の所はそれで最後ね。カナデさんが持ってきてくれたのにあんまり飲めてないんだから残しとかなくちゃ」

「ぴー……」


 まさかナスがここまでお酒好きになるとは思わなかった。

 確認すると樽の半分近くがもうなくなっている。


『おさけっておいしーの?』

「僕は美味しいとは思わなかったけど、フェアチャイルドさんにカナデさん、それにナスにとっては違ったみたいだね」

『どんなあじなのかなーきになるなー』


 ライチーは樽の中を覗き込み何度も同じ言葉を繰り返す。

 精霊は物を食べない。味覚もない。共有できる感覚が無い。

 何度も何度も返す言葉を探しても答えが見つからなかった。

 やがてお酒を見るのに飽きたようで樽から離れる。


「ああ、閉めておかないと」


 樽の蓋を閉める為にフェアチャイルドさんを剥がし樽へ近寄る。

 蓋を閉めた後フェアチャイルドさん用の毛布を荷物から取り出しフェアチャイルドさんにかけようとすると起こしてしまったようで目が合った。


「ん……ナギさん……」


 眠そうにしながら再び僕に抱き着いてくる。

 今度は胸ではなく僕の肩に自分の頭を置いて再び眠りについてしまった。

 昔を思い出し背中をとんとんとあやす様に四本の指で軽い調子で叩くとフェアチャイルドさんの身体が脱力し僕に彼女の体重が圧し掛かってくる。

 だけど重くはない。大きくなったフェアチャイルドさんだが僕は彼女の体重位軽く支えられる。

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