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遊び

 翌日、試験に備えての訓練を早めに終えて小屋に戻ってアールスを待ち、やってきたアールスに昨晩の約束の事を話すと覚えがないようで不思議そうに聞き返してきた。


「遊び? そんな約束したっけ?」

「寝ぼけてたから忘れたのかな。どうする? 遊びに行く?」


 そう聞くとアールスは身体を揺らし焦らすように言った。


「えー。どうしよっかなぁ。私そんな子供じゃないしなぁ。勉強もしなきゃだしなぁ。んー……ナギ達が遊びたいっていうなら遊んでもいいけど?」


 僕から顔を背けつつも期待するかのように僕達の方をちらっちらと見てくる。

 素直になれない難しいお年頃なんだろう。


「うん。僕はアールスと遊びたいな」

「んもー。仕方ないなー」


 素直な気持ちで答えるとアールスは仕方ないという顔をしつつ口元を引くつかせている。


「うふふ。私もアールスさんと一緒に遊びたいです」

「レナスちゃんまで~仕方ないんだからぁ。じゃあ何で遊ぶ? 私お店見たいな」


 口では嫌そうにしながらも口元は緩み切っている。


「きゅーきゅー」

「ヒビキも一緒に遊びたいって」

「きゅー!」

「ぴー! 僕も!」

「ナスもかー。アースはどうなの?」


 アースに近寄って軽く叩いてみるが反応はない。完全に寝入っているようだ。


「完全に寝ちゃってるみたいだね」

「じゃあ起こすのは悪いかな?」

「だね。ナスとヒビキが一緒に行きたいなら公園に行こうと思うけどどうかな?」

「いいよ。えへへ。ふたりともいっぱい遊ぼうね」

「きゅ~」

「アールスと、一緒に遊ぶ、嬉しい!」


 魔獣達を伴って僕達は近くの公園へ向かった。

 公園は木々で囲まれていて、木々の間を縫うように存在する遊歩道を進めば開けた場所に出る。そこに人は少なくナスが少しくらい駆け回っても大丈夫だろう。

 広場に着くとアールスは早速ナスとヒビキに追いかけっこをしようと持ち掛けた。

 ふたりは当然のように喜んでアールスからの誘いを受けた。

 アールスは僕とフェアチャイルドさんを誘ってきたが、僕は一応ナスの額の角の事もあり見守る為に辞退をした。

 アールスが不満そうにしたが追いかけっこの範囲を決めてはみ出ない様に見張る審判役も必要なのだと言うと納得してくれた。


 危険が無いように少し離れた所に移動して皆の追いかけっこを眺める。

 去年もアークに来た時に追いかけっこを何度もやってるけれど、やはり昔とは比べ物にならないほどアールスの動きはいい。

 足の速さではさすがにナスに手加減されているけれど、指定された範囲ぎりぎりでの攻防で見せる反射速度はナスを上回っているかもしれない。

 ヒビキは飛び跳ねればナスに匹敵する速さを出せるがいかんせん動きが直進的すぎる。ナスに容易くよけられてしまう。

 でも本鳥はとても楽しそうだ。

 そんなふたりを上手く誘導しているのがフェアチャイルドさんだ。

 彼女は他のふたりよりも体力が無い事を自覚しているからか走り回るのは最小限にしている。

 アールスとフェアチャイルドさんがナスを追い立て誘いこみヒビキの突進力を利用し一気に捕まえに行かせると……見せかけ二人がナスの退路を塞いで捕まえようとする。基本はこんな感じだ。

 時折役割が変わったり全員で一斉に捕まえに行ったりと忙しない。

 かわるがわるやってくる追跡者の猛攻をナスはよくもそれだけ避けられる物だと僕は感心するばかりだ。

 ナスの動きに反応できるのはアールスだけだ。なので主にフェアチャイルドさんやヒビキを避けて逃げるのだけど、時偶にまるで挑戦するかのようにアールスの脇をすり抜けていく。

 この追いかけっこは当然の事だが暗くなったらそこで終わりだ。果たして今のナスを捕まえる事は出来るだろうか?

 日没の時間までは一時間もないから体力の心配はない。一番体力のないフェアチャイルドさんもそれ位なら十分に動けるくらいに体力はついている。


 決着はまさに日が要塞の陰に隠れつつある時についた。

 ナスがフェアチャイルドさんの腕から逃れた隙を狙ってアールスがナスを捕まえた。

 ナスを捕まえたアールスは顔をナスの身体に埋めている。

 近寄ってみると盛大にもふっているようだった。ナスがくすぐったそうに鳴いている。


「アールス、それくらいにしてあげて。もう暗くなるからナス達を小屋に戻さなくちゃいけないんだから」

「ん~。もうちょっと」

「ぴ~」

「全くもう……仕方ないな。ところでヒビキは……」


 ヒビキの姿を探すと、何とも珍しい事にヒビキはフェアチャイルドさんが抱っこしていた。

 最初抱っこされた時は嫌がっていたのにどういう心境の変化だろうか?


「ヒビキ、フェアチャイルドさんに抱っこしてもらってるんだ?」

「きゅーきゅー」


 偶には硬いのも悪くないとか言っている。絶対に通訳はしないでおこう。


「重いです……」

「あはは……僕が持とうか?」

「お願いします」


 苦しそうに顔を歪めているフェアチャイルドさんからヒビキを受け取る。

 僕に抱かれたヒビキはすぐに体重をかけてくる。


「きゅ~」

「さて……アールス。そろそろ帰るよ」

「ん~……あっ、今日の勉強どうする?」

「もちろんお邪魔しにするよ。その前にこの子達小屋に戻しに行くけど」

「ナス達連れて行っちゃ駄目?」

「それはさすがに小母さんの許可ないとまずいんじゃないかな」

「うー……ナスから離れたくないなぁ」

「ぴー……僕も、アールスと、一緒、行きたい」

「じゃあ家まで連れて行って、小母さんに聞いてみようか。家にいるかな?」

「今日は特別なお仕事はないはずだからいるはずだよ」

「うん。じゃあ一緒に家まで行ってみて、駄目だったら僕が小屋まで送り返すよ。

 フェアチャイルドさんもそれでいい?」

「もちろんです。私に拒否する理由はありません。ナギさんの思うようになさってください」

「じゃあそういう事で……行こうか。ナス、ヒビキ」

「ぴー!」

「きゅきゅ~」


 こうして僕達は魔獣達を連れてアールスの家へ向かう事になった。

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