何も言えなくて
二年生の時はマスクを作った後は特に何事もなく過ぎ去って行った。
変わった事といえば僕の趣味に裁縫が加わった事位だろうか。神聖魔法も新しいのを一つ貰い神聖魔法のレベルが二つ上がった。
新しい魔法は指向性の光を放つ『サンライト』。
サンライトは言ってしまえば懐中電灯みたいな物だ。ライトが生活魔法なのに何故今更こんなものが? と思ったらこれ魔力の量を操作して敵に神聖属性のダメージを与える事が出来る範囲攻撃魔法らしい。
神聖魔法のレベルはがっているけれど未だに体力を分け与えると言う魔法は覚えられていない。
おまけに魔力の増える量も減ってきている気がする。
シエル様に聞いたら僕の周りの魔素が薄くなっているようだ。
二年生の最後の方で習った事だけど、人が魔力を扱えるのは魔素があるからだとか。
魔素は魔物から発せられる毒のような物であり、許容量以上の魔素を受け続けると肉体が変化し異形へと変わってしまう。それが魔獣といわれるモノ達だ。
魔素から身を守る物が魔力だ。魔力があるからこそ人は許容量以上の魔素をカットできる。
しかし、魔素は魔力の素でもある。生き物は魔素を吸収し魔力に変換している。
魔力の限界量を増やそうと思ったら魔力がない状態で魔素を身体に馴染ませ、馴染ませた魔素を『魔力を生み出す魔核』という物に変えなくてはならない。
その魔核という物は一体何なのかは分からないが魔法を研究している者達間で確かにある物として名付けられ語られているらしい。
魔核は魔素とは別の物。じゃないと生き物は魔素をそのまま体内に取り込んでいるのに異形と化していないのはおかしい、魔獣の存在と矛盾してしまう、という事から矛盾を解決させるためも存在が魔核と呼ばれるようになったって訳だ。
話が少し逸れたけれど、そんなわけで魔力の限界量を増やすためには魔素が必要なのだけど、シエル様が感知できる範囲では魔素の量が減っている為、僕の魔力の量が増えにくくなっているらしい。
魔素は魔物がいなければ生まれない。そして、グランエルが出来てからこの辺りは魔物の被害は少ないらしいから魔素が補充されないんだろう。どうしたものか。
シエル様が時々期待するように改造を進めてくるのが少しうざい。
その話を聞いたのは年が明けて間もないある日の事だった。
「……」
アールスは目と口を開けたまま硬直していた。
僕も話を聞いて動けなかった。
目の前の女性はは悲痛な表情をしてアールスを抱きしめる。
「ナギ……」
アールスが少しずつ僕の方を向く。
「しんだってなに……?」
アールスの小父さんが死んだ。流行り病ではない事故でもない。動物に殺されたわけでもない。魔物に殺された。
今から一週間前。東の前線基地が魔物に突破され複数の部隊単位の魔物達が領地へ侵入したらしい。
それは今では冒険者や都市にいる兵士達の手によって魔物達は壊滅された。
しかし、魔物達は近隣の村を手分けをして滅ぼしながら侵攻したため、小父さんや僕のお父さんは魔物達から逃げる人達を守るため殿隊を買って出たらしい。
農民とはいえ幼い頃から学校で戦闘訓練を受けているため戦えない者はいない。むしろこういう時の為の教育なんだ。
リュート村は一番グランエルに近い場所にあったため、魔物侵攻の報を受けてすぐに逃げ出した人達に被害はなかった。
だけど、逃げるのはリュート村の人達だけじゃない。お父さん達は他の村の人達の脱出を助けるために殿隊に参加したんだ。
兵は準備の為に動かすのに一日遅れた。冒険者達は実力ある物は皆出払っていて戦力となる者は少なく固まって動くしかなかった。だから、お父さん達のいる殿隊の救出に時間がかかってしまった。
僕のお父さんは重傷を負い片腕を失っていたが、王都から創造神ツヴァイスの神官がやってきて殿隊に参加した者で欠損などの重傷を負った者は完全に治してくれるらしい。代金は国持ちだ。
兵や冒険者達は元々重傷は負っていなく自前の回復手段で回復したため特になし。報奨金は殿隊と同じく出るはずだ。
……けど、小父さん含め亡くなった人は帰ってこない。もう何をしても戻ってこないんだ。
僕はアールスの『しんだってなに』の問いに答えられなかった。どう答えればいいんだ……。
きっとまたどこかで小父さんは生まれ変わる。そういう世界だ。けどそれが何だって言うんだろう? 死んだ事には変わらない。もう会えない事には変わらない。
僕は陰鬱とした気分のまま避難所から寮に戻った。
アールスは……小母さんがいる。今の所は大丈夫だろう。けどリュート村の人達はいずれ村に帰る事になる。その時アールスはどうなるんだろう……。
2016年7月14日本文を加筆・修正しました。