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旧友

 ローランズさんが住んでいる場所は、首都でアールスが住んでいた所とデザインは違うが同じアパートメントの一室を借りている。

 部屋番号を確かめて戸を叩くとすぐに女の子の声が返ってきた。


「どなたですかー?」

「あっと……ナギです。フェアチャイルドさんもいるよ」


 そう扉越しに言うと中からトタトタと駆ける足音が聞こえてきて扉が内側に向かって開いた。

 そしてローランズさんと目が合う。


「あぇ?」


 ローランズさんの口から変な音が出る。


「あー……えーと、久しぶりだね」

「えっ、ナ、ナギさん?」

「うん……こんな格好してるけどナギです」


 横に立っているフェアチャイルドさんの顔を見てみると、まるでドッキリが成功したと言わんばかりに得意げな顔をしている。


「えっ、ど……ええ?」


 ローランズさんが扉の隙間から顔を出してフェアチャイルドさんの姿を確認する。


「ほ、本当にナギさん? どうして女の子の格好してるんですか?」

「無理やり着せられた」

「フィア、とても似合っているでしょう?」

「う、うん。似合ってるけど……まさかこんな格好で来るとは思わなかったから驚きました」

「だよね」

「首都で買った服なんです。そろそろ着れなくなるでしょうから着納めにと思ったんです」

「たしかにナギさんの胸周りとか目立っちゃっていますね」

「え? 本当?」


 確かに背中が張ってしまって胸の下辺りが張り付くようなきつさを感じているけれど、まさか周りから見ても分かるほどなんて。やばい。すごく恥ずかしいぞこれ。


「レナさんは丈が足りてないみたいですね。ああ、一年で随分と背が伸びたんですね。昔はナギさんと同じくらいだったのに」


 そういうローランズさんは背だけではなくいろいろと大きい。


「フィアも……随分大きくなりましたね」


 フェアチャイルドさんの声がなんだか低く含みを持ったいい方のような気がしたがそれはきっと気のせいだろう。

 ローランズさんの背や胸は僕やフェアチャイルドさんよりも大きい。元々ローランズさんの方が僕達よりも大きかったから別に驚く事ではないんだろうけど。

 当然僕は少し顔を上に向けないと視線が合わない。


「それとその子供は?」


 ようやく存在に気づいたようでローランズさんはライチーに視線を向けた。


『わたしはライチー!』

「妖精語……この子がレナさんの精霊ですか?」

「はい」

「えと……『初めまして。フィラーナ=ローランズです。フィアって呼んでくださいね』」

『わかったー!』

「サラサさん。ディアナさん。二人も挨拶してください」


 フェアチャイルドさんがそう言うと両腕に嵌った二つの腕輪からサラサとディアナが出て来た。


「初めましてローランズさん。私がサラサよ」

「私がディアナ」

「どうも。お二人もフィアとお呼びください」

「分かったわフィア」

「フィア。レナスの友達でいてくれてありがとう」

「え?」

「私達ずっと精霊の森にいて離れ離れだったから、レナスの事心配してたのよ。だからありがとうって言ったの」

「そうだったんですか……いえ、お礼を言われるような事ではありません。それが友達って事でしょう?」

「うふふ。その通りね」

「それでも礼儀は必要。親しき仲にも礼儀あり」


 挨拶が終わると二人は再び腕輪の石の中に引っ込んでしまった。


「さて、立ち話もなんですし中へどうぞ」

「もう暗くなる時間だけど大丈夫?」

「はい。ベルがまだ帰ってきていないので、夕飯の支度がまだなんです」

「やっぱりベルナデットさんが作ってるの?」

「そういう約束で一緒にこちらまで来ましたから」


 中に入ると部屋は広く台所と居間、そして寝室がきちんと分かれていた。

 内装も高級感あふれる物ばかりで十三歳の子供の部屋とは思えない。

 居間にある椅子に座るよう促され腰を下ろすとローランズさんが早速質問をしてきた。


「手紙にはいつまで滞在するかは書かれていませんでしたが、どれくらい滞在する予定なんですか?」

「ゆっくりと観光するつもりなんだけど、見て回るとしたらどれくらいかかるかな?」

「そうですね……ゆっくりと言うのなら三日位はかかると思います」

「それじゃあ王都を出るのは五日後くらいにしようか?」


 あまり王都から出るのが遅くなってもカナデさんのグライオンへの出立が遅れてしまうだけだ。

 フェアチャイルドさんに同意を求めると彼女は頷いてくれた。


「それでいいと思います」

「じゃあそれくらいで。ところでベルナデットさんって食事処で働いてるんだよね? 夕食時にお店を離れられるの?」

「あくまでも修行ではなく非正規雇用のお小遣い稼ぎみたいなものですから問題ありません。

 勿論忙しくなると考えられる時期になるとベルさんも帰りが遅くなりますが」

「なるほどね。ちなみに忙しくなる時期って?」

「お祭や年末年始の時ですね。お祭は夏と秋に行われるので今の時期は遅くなるという事はありません」

「そっか……じゃあ安心して料理を頼めるんだね」

「その通りです」

「それでベルナデットさんの腕は上がった?」

「それはもう!」


 ローランズさんはまるで自分の事を話すかのように軽やかにベルナデットさんの料理について語り出した。

 まさに手放しで褒めているローランズさんの姿に僕もベルナデットさんの料理に興味が湧いてくる。

 僕はこの一年で作れる料理の種類は増えたけれど、腕前が上がっているかどうかは自信がない。一度師匠に今の僕の腕前を見て貰いたい気持ちも、今の師匠の腕前を確かめたい気持ちもある。

 ローランズさんがベルナデットさんの事を語っている間に玄関が開く音と女の子の疲れた声が聞こえてきた。


「ただいまー……ってあれ? あっ! レナ! 来てたんだ!」

「お久しぶりですベル」

「久しぶりー! それと……えーと、誰?」

「わざとだよね?」

「あはは、ごめんごめん。ナギさんがそんな格好してるの初めて見たから。それでその女の子は? レナの妹?」

「違います。精霊のライチーです」


 ライチーが挨拶をするがどうやらベルナデットさんは妖精語が全く分からないようで首を傾げていた。フェアチャイルドさんが簡単に通訳した後、サラサとディアナも出てきて自己紹介を終えたらすぐに引っ込んでしまった。

 どうしてこんなにすぐに引っ込むのかとフェアチャイルドさんに聞いてみると、狭いからだそうだ。

 確かにこの部屋は広いと言ってもあくまでも二人で住むには、だ。

 ライチーを含めてすでに五人いるのにさらに二人増えたら飛んでても狭苦しく感じるかもしれない。

 納得して頷いた後ベルナデットさんが僕とフェアチャイルドさんをじっと見て比べている事に気づいた。


「どうしたの?」

「その髪自分でやったの?」

「違うよ。フェアチャイルドさんにやって貰ったんだ」

「私のはナギさんにやってもらいました」


 何故か得意げに鼻を鳴らすフェアチャイルドさん。

 彼女の今の髪は編み込まれている。

 編み込みと言っても本当に簡単な物で両サイドの髪を後ろ髪より後ろで一つに結び、その結んだ毛束を後ろ髪と毛束の隙間に三回通した後、後ろ髪にも同じ事をして最後に最初の毛束を後ろ髪にできた隙間に通して形を整えただけの簡単な髪形だ。

 簡単な割に見栄えがいいので僕は結構気に入っている。


「いいなぁ。レナのかわいいなぁ。ナギさんのもフィアに似合いそう」

「んふふ。簡単だから教えてあげようか?」

「いいの!? やたっ」

「実際にやって見せた方が分かりやすいんだけど……フェアチャイルドさん。一度髪解いてもいい?」

「もちろんです。ナギさんが編んでくれたのですからいくらでも編み直してください」


 そう言ってくれたので僕は早速フェアチャイルドさんの髪を解いた。

 ベルナデットさんとローランズさんが背後に回ってくる。

 今朝と同じ手順で編み直すと背後の二人から溜息の音が聞こえてきた。


「すごいです。これどこで習ったんですか?」

「首都で流行ってたんだ。簡単だけど見栄えがいいし、応用もしやすいから楽しいよ」

「へー、たとえば?」

「じゃあもう一度解くね」

「はい」


 いくつかのアレンジを見せると今度はローランズさんが髪の長いベルナデットさんを実験に使い僕が見せた物とは違うアレンジを見せてくれた。

 初めて見た物のはずなのに、数種類のアレンジを見ただけで新しい物を作れるとは……ローランズさんの応用力は高いな。やはり経営者に必要な能力なんだろうか?

 そうこうしているうちにいい時間になっている事に気づいた。


「ナギさん。そろそろ……」

「そうだね。それじゃあ僕達はそろそろ帰らせてもらうよ」

「えー、もう?」

「ベルナデットさんはこれから夕飯を作るんでしょう? これ以上お邪魔できないよ」

「あっ、そうだった! じゃあ明日は家で夕飯食べに来なよ。えと、ウィトスさんだっけ? その人も呼んでさ」

「いいの?」

「材料を人数分買わなくなるといけないんだけど……」


 ベルナデットさんの視線がローランズさんの方へ動く。


「さすがに私では五人分の材料を持つのは……」


 ローランズさんは静かに首を横に振り否定した。


「護衛の人に頼んだら?」

「何のための護衛だと思っているんですか」

「護衛がいるのですか?」


 フェアチャイルドさんが部屋を見渡すが人影はない。寝室の部屋の扉はしまっているが僕が確認したところ特に怪しい魔力(マナ)はない。


「隣の部屋に住んでいて、外に出る時はいつもついて来てもらっているんです」

「そうなんだ……そう言えば精霊との契約はどうしたの? 学校で契約してた精霊には切られた?」

「はい。ですがレナさんの勧めで精霊の森で新しい精霊の方と契約しなおしましたので自衛には問題ありません」


 そう言ってローランズさんは左手首にはめられている腕輪を右手で触った。


「でも恥ずかしがり屋でなかなか外に出てくれなくて……声をかけてはいるんですがどうしても嫌だと」


 紹介されなかったのはそれが理由か。


「あはは、嫌がってるなら無理に紹介しなくていいよ」

「本当すみません……」

「いやいや。それじゃあ……えと、明日の材料は僕達が買って来るよ。何の材料必要か教えてくれる」

「ほんと? えとね~」


 ベルナデットさんが材料を挙げるとローランズさんがすぐにメモを取った後そろばんを取り出して球を弾きながらメモに新たに書き足していく。

 そして書き終えるとメモに使った紙を僕達の方に見せるように差し出してきた。


「これが材料の今の相場です」


 僕が紙を受け取り確認をする。


「それと……ベル」

「はいよ。持って来ておいたよ」


 ベルナデットさんはじゃりじゃり言っている袋をローランズさんに渡した。

 ローランズさんはその袋の中から銀貨を一枚取り出してフェアチャイルドさんに渡した。


「これは私とベルの分の材料費です。少し多いでしょうけど、皆さん達の分の材料費に入れておいてください」

「そんな、悪いよ」

「ナギさん達は旅をしていて何かと入用でしょう? 友達として受け取って欲しいです」

「……ローランズさん」

「フィア、ありがとうございます。ナギさん。ここは素直に受け取っておきましょう」

「そうだね。ありがとう」


 頭を軽く下げて改めてお礼を言い、そのまま僕達はいい加減長くなったのでお暇させて貰った。

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