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 アイネとは結局話す機会はなく、別れの言葉も交わせないまま僕達はグランエルを発った。

 まず最初に向かうのは僕の故郷のリュート村だ。

 アースに乗りわずかな時間で村に辿り着いた。

 通りかかる村人に挨拶をしつつ実家へと向かう。

 家には掃除をしているお母さんとナスのぬいぐるみで遊んでいるルイスがいた。

 ルイスは相変わらず僕の顔は忘れていたけれどナスの事はちゃんと覚えていたようでナスに会えた事をとても喜んでいた。

 僕はお土産にティマイオスで購入した木彫りの人形をルイスに渡すと微妙な顔をされた。もしかしたらナスのぬいぐるみのような物を期待していたのかもしれない。ごめんね、女の子の人形で。こういうのが好きだと思ったんだ。

 とはいえ人形を受け取るとルイスはナスのぬいぐるみに女の子の人形を乗せて得意げに皆に見せてきた。

 ルイスも大きくなったらナスの背に乗るんだろうな。

 ナスのぬいぐるみは大切にされているようで、お母さんが毎晩一緒に眠っている事を教えてくれた。

 それと去年僕が作った氷の球はまだ健在だった。どうやら村の神父様にブリザベーションをかけ直してもらったらしい。

 ルイスにヒビキを会わせるとふたりの相性は良かったらしくあっという間に仲が良くなった。

 さすがにルイスにはヒビキはまだ重いらしく抱っこすらできなかった。

 光の魔法を使ってナスの旅の話を映像化してルイスに見せるとこれが大好評だった。

 興味を持ったお母さんにやり方を教えるとの超現実主義の美術品のような物が出来上がったが慣れればすぐに上手くなるだろう。

 大きくなったルイスに一年の長さを感じながら里帰りを堪能した。

 そして、翌日の別れの際またルイスがまたナス達と別れたくないと言って泣いてしまったが、それもまたお母さんが宥めてくれたので僕達は無事旅立つ事が出来た。


 リュート村の次に向かったのがフェアチャイルドさんのルルカ村だ。

 途中移動途中の狼の大軍を見つけたが、アースを恐れたのか進路を変えて遠くへ逃げてしまった。

 もしかして狼の移動はジーンさんの言っていた魔物の巣に関係しているのだろうか?

 念の為村で狼の大軍の事を教えると感謝され、中級の冒険者であるカナデさんが軽い調査のお願いをされた。僕とフェアチャイルドさんはまだ第二階位なので野生の動物関係の依頼は受けられないのでカナデさんだけだ。

 その為少しその村で滞在する事になった。

 カナデさんの調査に僕もついて行こうかと聞いてみると、カナデさんは少し悩んだ顔を見せた後ナスだけを連れていく事を条件に同行を許可してくれた。

 何故ナスだけなのか? それはアースはその巨体で目立つし他の動物を威圧してしまうから調査には向かず、ヒビキは下手に騒がれると邪魔になるし、調査に役立つ能力も特に有していないから足手まといになる事を危惧したのだ。

 ナスならば鼻や耳が聞くので調査には持って来いだし、情報のやり取りも僕がいれば問題ない。

 調査に向かうならば僕とカナデさん、それにナスさえいれば十分という事だ。

 なのでフェアチャイルドさんにはアースとヒビキの面倒を見て貰う為にお留守番を頼んだ。

 するとフェアチャイルドさんは頬を膨らませて無言の抗議をしてくる。

 何も言わないのはきっと彼女自身も自分の役割を分かっているからだろう。

 感謝の気持ちを込めて頭を撫でると彼女はすぐに笑顔になってくれた。

 調査は明るいうちに行うため村で一夜を過ごし朝早くから僕達は狼の軍団を見た平原へ向かう。

 調査の内容は三日間平原を調査して狼の軍団の規模の調査と移動をしているのならどこに向かうのか。そして出来れば移動の原因を見つける事。

 初めての調査という事で練習がてら僕はカナデさんの指示に従い風下から草原を進む。

 ナスの能力を使っても匂いまでは消せないし、魔法で風を操っても範囲と魔力(マナ)には限界があり結局は匂いは風に乗ってしまう。無駄な小細工はせずに自然の力を借りるのが一番だ。

 ちなみにナスはもう野生を忘れているらしくカナデさん曰く警戒していない時は動物にあるまじき無防備さだそうだ。でもそこが可愛い。


 カナデさんに指導されながらの三日間は特に目だった成果を得られず過ぎた。

 狼の大軍は今は平原の西の方におり、村には近いが目立った動きを見せない。

 もしかしたらアースを見たせいで今は動いていないのでは? とカナデさんは推測していた。

 そうなるとアースがいなくなるの待ってまた移動を始めるつもりなのかもしれない。

 移動の原因に関しては食料が無いからではないかと考えられる。

 平原から野生の動物の姿があまり見かけられなかった。大軍を養うにはこの地は向いていないだろうという結論を僕とカナデさんで出した。

 もしも狼の大軍を養う余裕がある土地を周辺で探すとしたらナビィ養殖用の森位だろう。

 しかし、その森は村に近く警戒している人間が必ずいる為狼達は昼間は立ち入る事が出来ない。

 もしかしたら夜間に森に狼が入ってしまうかもしれないから忠告はしておく。


 こうして無事に調査を終えた僕達はフェアチャイルドさんと合流しルルカ村へ急いだ。

 久しぶりのレーベさんは壮健な姿を見せてくれた。

 ルルカ村では特に変わった事は起こらず、フェアチャイルドさんは一年ぶりにレーベさんに甘えていた。

 甘えたと言っても、旅の話をしたり一緒の部屋で寝たくらいでおすまし顔は崩さなかった。

 けれど、どんなにすました顔をしていてもレーベさんと一緒に居られる事に喜んでいるのは誰の目から見ても明らかだった。

 一応狼の大軍がこちらの村の方にやってくるかもしれない事だけは村長さんに伝えておく。

 レーベさんと別れ、ルルカ村を出発するとダイソンへの旅路の途中にあるウルキサスという都市に寄る為北へ上る。

 ウルキサスは首都からの南に下り二つ目にある都市で、首都と南の大森林のちょうど中間の辺りに存在している。

 そこの訓練所にカイル君はいる。観光がてら挨拶をしようと言う訳だ。

 ちゃんと事前に手紙は書いており、手紙に書いた到着予想日にはちゃんと間に合った。

 しかし、待ち合わせの場所にカイル君はいなかった。

 どうしたのかとカイル君の住んでいる兵舎に向かおうかと悩んでいた時、カイル君の知り合いと名乗る男の子から手紙を渡された。

 手紙には会えない事に対する謝罪とその理由が書かれていた。

 どうやら訓練である遠征に二日前に出てしまったらしい。なんとタイミングの悪い事だろう。

 遠征は一ヶ月は続くらしく、さすがにそんなに待ったらパパイの時期を逃してしまう。

 手紙を持って来てくれた男の子にお礼を言うとカイル君との関係を聞かれたので素直に幼馴染だという事を伝えた。

 なんだか意味ありげな視線で男の子は僕とフェアチャイルドさんの事を見てくる。いやらしい目、ではなく玩具を見つけたような含みの持った感じの目だ。

 女の子二人が会いに来たんだからそりゃ面白い話になるよね。これは遠征から帰ったらカイル君からかわれるな。

 振った事を伝えたらそれはそれで余計な燃料になりそうなので僕からは口にはしないでおく。

 念の為に男の子に名前とカイル君とはどういう関係なのかを聞いた後僕達は待ち合わせの場所を離れ宿屋を探してくれていたカナデさんと合流した。

 後ろ髪を引かれる思いでウルキサスを出ればダイソンまでは真っ直ぐの道のりだ。


 ダイソンが近づくにつれてフェアチャイルドさんに落ち着きが無くなっていく。

 そんなにもパパイが楽しみなのかと思うとまだまだ子供らしく見えてほっこりとしてしまう。

 そしてダイソンに近づくという事は自生しているパナイの花が見えてくるという事だ。

 一年ぶりのパナイ。しかし、去年よりも来るのが少し遅れたせいか花に元気が無いように見える。

 ライチーもパナイの花を心配そうに見ているが、受粉を終えたパナイは後は枯れ行くのみ。自然の摂理故仕方ない。

 ライチーと一緒にアースの首の上で僕達は感慨にふけりながらダイソンの周りにあるパナイ畑を見下ろす。

 相変わらず精霊達が手入れをしているようだ。僕達を遠巻きに見ながらもすでに枯れた花を刈り取っている。

 ダイソンの中に入るといつも通り魔獣達を預けてからパパイを売っているお店へ急いだ。

 急いだかいがあったのかパパイはまだ残っていた。呼び込みの店員さんが今年最後のパパイだと張り切って宣伝していた。運がいい。

 中身を選ぶ時フェアチャイルドさんは少し迷った様子を見せたが、僕が三人で分けようかと聞くと喜んで頷いてアップルを選んだ。

 僕とカナデさんは喜ぶフェアチャイルドさんに和みつつ、フェアチャイルドさんが悩んでいたアップル以外の果物を選んだ。

 去年と同じ公園に行き僕達は長椅子に座り、飲み物を用意してからパパイを三等分にする。

 割って分ける為厳密に大きさを揃えるのは難しかった。なので一番大きい欠片は選んだ人の物という事になった。

 そして、パパイを食べている間フェアチャイルドさんが僕の顔を見つめてきた。

 なんだろうか? と疑問に思いながら食べていると、フェアチャイルドさんが僕の頬に欠片がついてると言って、僕の頬から欠片を取って自分で食べてしまった。

 フェアチャイルドさんの頬にもついているんだけどな。

 僕はちょっとした意地悪な気持ちと、ほんの少しの下心で同じ事をし返した。

 するとフェアチャイルドさんはパパイを喉に詰まらせてしまったのか激しくむせてしまい、お茶を飲んでどうにか落ち着かせた。

 驚かせてしまっただろうか? 悪い事をしてしまったな……。

 彼女を介抱し驚かせた事を謝ったが彼女は僕の謝罪を受け取らず気にしなくていいと言ってくれた。

 もう少し僕の事怒ってもいいのにな……彼女の優しさに甘えないようにしないと。

 パパイを食べ終わった後、今年も僕達はカナデさんとは別れて宿屋を探す事になり、去年フェアチャイルドさんに料理が美味しいと言っていた宿屋を思い出しつつ探し何とか見つける事が出来た。

 観光都市だけあって宿屋が何件もあり見つけるのに苦労した。

 しかし、フェアチャイルドさんは去年美味しいと言った料理の事を全く覚えていなかった。

 天にも昇るとか言っていたと思うんだけど……さすがに一年も過ぎれば忘れてしまう……物なのか? もしかしてパパイの印象が強すぎたのだろうか?

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