二年生になったら
年が明ける前に新入生がやってきた。
今年は誰も欠けることなく十二人が寮の扉をくぐる事が出来たらしい。僕はその事を聞いて内心胸を撫で下ろした。子供が亡くなったなんて聞きたくないもんね。
年が明けると寮の部屋割りが変わった。僕はケビン君とデュラン君と一緒の部屋になりアールスとフェアチャイルドさんとは別々の部屋になってしまった。
クラスもそうだ。学年が上がるとクラス変えでフェアチャイルドさんと離れ離れになってしまった。代わりに……というのだろうか? 今年はケビン君とラット君が同じクラスになった。
学年が上がったせいか元々勉強が苦手なのか授業が始まってからケビン君は毎日頭を抱えて授業を受けていた。
その様子があまりにも可哀想だったので僕が勉強を教える事になった。授業について行けるようになればいいけど。
そうそう、学年が上がった事によっていよいよ生活魔法以外の魔法を覚える事になった。担任は引き続きハイマン先生だ。
生活魔法以外の魔法は第一階位魔法から第十階位魔法まであり、第一階位から第三階位までが初級、第四階位から第六階位までが中級、第七階位以上が上級と分けられている。
僕達が最初に習うのは第一階位魔法だ。
第一階位魔法からはどうやら魔法陣が必要になるらしい。
魔法陣といっても地面に描いたり紙に描いた物を使うわけではない。
いや、もちろん描いた物を使ってもいいらしいけどね。グランエルを覆っている結界は実際地中に描かれた魔法陣によって展開されているらしいし。ちなみにどうやって地中に描いたかと先生に聞くと、魔法で描かれたと答えた。
魔法陣を描くのは人間の持つ魔力だ。魔力で魔法陣を描き魔法の名前を唱えれば発動する。実に簡単だ。
簡単だ……けど、その魔法陣を描くのが問題だ。第一階位の魔法陣自体は簡単な図形なんだけど、魔力操作が出来ないと使えないのだ。
……まぁ二年生になった時点で魔法を専攻している子で魔力操作できない子はいなかったけれど。
補講だけを受けているアールスでも魔力感知を覚えている。
魔力操作さえできれば発動させるだけなら第一階位魔法は簡単だ。個人の好みによって属性の得手不得手が決まるくらいで、誰にでも使えるという点ではたぶん生活魔法と大差はない。
あるとしたらそれは効率位だろう。
例えば火の魔法の第一階位魔法のうちの一つに『ファイアーアロー』というがこれは火の矢を飛ばす魔法だ。
魔力操作が未熟な物は矢の形にはならないけど、それでも火の玉が飛んで行くというのはライターでやろうとすると非常に多くの魔力が必要となる。
僕は魔法の属性に関しては特に思う所がなかったためどの属性も満遍なく使う事が出来た。……だけどそれは逆に言ってしまえばそれは特に秀でたものがない、という事に気が付いたのはしばらく経ってからだった。
好きな属性がある子はその属性が上達するのが早い。好きこそものの上手なれという言葉があるが全くその通りだと思った。
僕も好きな属性を見つけるべきだろうか? でも僕は正直属性がどうこうよりも魔力を操作している方が楽しい。
この頃では自分の魔力が目で見えるようになってきた気がする。まだ薄ぼんやりとだが目で見えるようになってから楽しさは加速していた。下手をすれば休日一日をそれで潰してしまいそうになるほどに。
そんな風に魔力操作の練習を毎日やっていると突然シエル様から神託が降りてきたりして今は二つの魔法を授かっている。
自分の魔力が届く範囲の人間の傷を癒す『エリアヒール』。これは説明文そのまま範囲回復魔法だ。
近くの仲間に守りの加護を与える『ライトシールド』。これは一回だけ魔力でできた結界を指定した人に与える魔法だ。一回殴られただけで消えてしまう。
ライトシールドを貰った時点で僕のステータスのスキル欄に『神聖魔法Lv.1』の文字が増えた。これは神聖魔法Lv1の魔法を使えるようになったから増えたのではなく、神聖魔法Lv.1の魔法を完全に使いこなす事が出来るようになったという証らしい。神聖魔法Lv1の魔法は『ヒール』と『キュア』だ。
確かに僕はヒールの傷に対する魔力配分量が完璧に理解できていた。ヒールの回復できる限界も分かっている。
でもキュアの方は試す機会がないためどのような魔法かわかってないのに神聖魔法Lv1を貰っていいのだろうか?
技量的にはもっと習得できてもいいらしいのだけど、僕にはまだ魔力の量が少ないらしい。もう百は超えているのに今以上の魔法はどれだけ魔力を消費するのだろう。
けどハイマン先生によると、僕は同世代の子に比べて圧倒的に魔力の量が多いらしい。そうなると神聖魔法の消費量が多いのだろうか?
とにかく今はひたすら練習するしかないか。
……そろそろ魔法以外の事も語ろう。
アールスはプレゼントした髪飾りが気に入ったのか毎日つけてくれている。
元気一杯なのは相変わらずだ。もう少しフェアチャイルドさんを見習ってお淑やかさを学んで欲しいと思う。
神聖魔法は『豊穣の春』以降の魔法はまだ覚えていない。けど豊穣の春から受け取る魔力の量は確実に増えている。魔力操作も上達しているし、ルゥネイト様への信仰も衰えていないから次の神聖魔法を覚えるのももうすぐかもしれない。
剣術の方はというと、もう僕では勝てないレベルにまで上がっていた。
今では時間が合えば特別に四年生に交じって訓練をしているらしい。成長速すぎでしょアールス。これ物語だったら絶対アールスが主人公だよ。僕はよくてアールスのお伴? 物語のキャラで例えるならたぶん親友ポジ。ライバル的な物にはなる気はない。
今だってアールスはモテるから将来は王族や偉い人の子息を落としちゃうかもしれないな。ふふ、そうなると物語でお約束の悪役の女の子は誰になるんだろう。
フェアチャイルドさんは相変わらず咳を出していて、一度リンド君がフェアチャイルドさんの咳に文句を言い、それが原因でアールスと喧嘩していたところを見かけた。
フェアチャイルドさんが止めようとしていたけれど、どちらも話を聞いてくれなかったらしく、僕に助けを求めてきた。
僕が行った時には二人は殴り合いの喧嘩をしていた。そりゃあフェアチャイルドさんには止められないよ。
喧嘩を止める事は出来たけど僕には二人を叱る事なんてできなかった。どちらの気持ちもわかるからだ。だから事の次第を先生に報告しただけに留めたけど、大丈夫だろうか?
ただ、二人を止めた後のフェアチャイルドさんの泣きそうな顔は僕の心にずっと引っかかり続けた。
名前 アリス=ナギ 年齢 七歳
種族 人間 性別 女?
職業 なし
HP 110/110
MP 164/164
力 15
器用 27
敏捷 18
体力 21
知力 22
運 60
スキル
魔力操作
魔力感知
剣術Lv.1
神聖魔法Lv.1
固有能力
魔獣の誓い