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求める物

 無事事情聴取が終わると僕は深くため息をついた。

 転秤神ザースバイル様の神聖魔法の中には『虚偽を照らす光(ライアー)』という嘘を判別するための魔法がある。

 前にオーメストで賊を捕まえた時や今回のような事件の際には必ずと言っていいほど関係者に使われる魔法だ。

 この魔法があるおかげか法律が存在するにもかかわらずこの国の司法機関には法を守り運用する機関はあるが前世の世界であった裁判所などの司法機関はない。

 代わりにあるのがザースバイル信者で構成された不正を監視する機関だ。

 この魔法を使われ嘘がばれたらもう言い逃れは出来ない。

 今回の件に関してやましい事のない僕だが、ライアーをかけられるとやはり緊張してしまう。

 何故なら僕の信仰している神様の話になったら確実にルゥネイト様を信仰していない事がばれてしまう。

 だから僕は神聖魔法の話が出ないように気を付けて話さないといけない。

 幸いヒールやエリアヒール程度ならば普通の冒険者でも使えるので深く聞かれる事はない。

 誰を信仰しているかについては事情聴取ではそれほど大した問題ではないんだ。

 問題が出るとしたら世間話で振られた時だろう。

 あまりライアーには関わりたくない物だ。


 問題を起こした男の子達は全員冒険者だったらしい。

 全員暴行の罪に問われ刑に服す事になるだろうと僕を担当した兵士さんは言っていた。

 罪状は暴行罪。十四年以下の懲役を科せられる。これは未成年でも学校を卒業している年齢の子は変わらない。

 この国の懲役は強制労働をさせられて、罰金で罪を償うという事はない。

 これは昔今よりももっと国土が狭かった時代のお金や命で罪を償わせる余裕が無かった名残だ。

 歴史的にこの国にはもったいない精神が受け継がれていて、お金で罪を償われるよりも国の為に働いて来いという訳だ。

 ただし、死刑に該当する罰ももちろんある。詳しい内容は分からないが薬の実験に使われるという話をよく聞く。

 罪の重さによって働く場所と期間が違い、暴行罪の場合なら囚人用の村で農業をする事になっている。

 この囚人用の村と言うのは大抵街道から離れた場所にあり、他の村や都市への行き来が多少不便になっている。

 沼地の多い北方ではどうなのかは分からないけど、グランエルの周辺では南東の壁と大森林の近い所にあると学校の授業で習った覚えがある。


 兵舎に行くと簡単な事情聴取を受けた後兵舎に泊まる事になり、朝から本格的な事情聴取が始まって僕が解放されたのはその日のお昼だった。

 すでに組合には連絡がいっているようでどのような処分が下されるだろうか。

 気にはなるけれどまず向うのはライチーと魔獣達の所だ。

 小屋に入るとライチーが泣きそうな声で僕の名前を叫びながら真っ先に僕に飛び込んできた。


『ナギー!』

「ごめん。心配させちゃったね」

『だいじょーぶ? いたいところない?』

「ぴーぴー」

「きゅー?」


 ナスとヒビキも僕に寄ってくる。ナスは心配そうにしてくれるけれど、ヒビキはどうやら状況が分かっていないようだ。

 アースは僕の事をじっと見つめている。普段は僕が来ても気にしていないように振舞ってるから今回は心配させてしまったんだな。


「大丈夫だよ。怪我はしてないからね。オーメストの時みたいに兵士さん達とお話ししてただけだよ」

『ほんとー?』

「本当本当。心配してくれてありがとうね。ナス達も心配させてごめんね」

「ぴぃー」


 ナスが僕に自分の身体を擦りつけてくる。

 ヒビキもナスを真似ているのか僕の脚に抱き着いてくる。


「ふたりともこれじゃ歩けないよ」

「ぴぃーぴー」

「きゅ~」

「もう……」


 仕方ないか。それだけ心配させてしまったっていう事なんだろう。

 ……ヒビキの方は心配していたか怪しいけれど。

 ナスとライチーを何とか宥めながら簡単に説明と魔獣達のお昼の用意を始める。

 話の途中ナスの周りに電気が出て僕とヒビキが痺れるというハプニングがあった。どうやら本気で怒ると勝手に電気が出てくるらしい。

 アース相手には出ないのに……本気で怒ってるって訳じゃないのかな。

 話し終える頃にはアースとヒビキはマナポーションを飲み終えていたが、ナスだけは僕の話が気になっていたのかあまり飲んでいなかった。


「じゃあ僕は組合に行くからね」

「ぴぃー」

「ふふっ、ナスも心配症だよね」


 僕に鼻先を擦り付けてくるナスの頭を撫でてから突き放す様に軽く押す。

 すると名残惜しそうに鳴いた後素直に引き下がってくれた。


「ライチーはもうフェアチャイルドさんの姿にならなくていいからね」

『いいの?』

「うん。そもそもフェアチャイルドさん達が隣の都市に着いた時点でやめてもよかったんだけどね」


 小屋を出て元の小さなおかっぱのフェアチャイルドさんの姿に戻ったライチーを連れて組合の方へ行く。

 受付で事件の事を話すと簡単に男の子達の処分を伝えられた。

 どうやら冒険者の資格をはく奪され、はく奪された資格は五年経たないと再習得は出来ないらしい。

 しばらくは兵舎で拘留され、その後連行されるらしいのでもう会う事はないだろう。

 心配なのは男の子の家族や友人か。

 僕は組合に家族から会いたい等の懇願が来ても受け付けず、僕の情報を渡さないようにお願いしておく。

 僕としてはもう関わり合う気はない。接点は断っておくに限る。

 話が終わると僕は訓練所へ向かった。




 事件の日から数日。少々騒がしい日々を僕は送る事になった。

 それは事件の所為ではなくアースの雪像の所為だ。

 アースの作った雪像は瞬く間に街中の噂となり、作ったのが魔獣である事が分かると芋づる式に僕の事がばれた。

 別に秘密にしていた訳ではないからその事はいいのだけれど、アースを一目見たいという人が増えた。

 小屋の方に行っても僕が結界を解かない限りは会う事は出来ないが、窓からは覗き見る事が出来るので施設の職員や他の利用者の迷惑になってしまう。

 なので希望者達には空き地で会えるように日にちを指定しておいた。

 そして当日、アースは人に注目されるのが好きだからかそれはもう張り切っていた。

 留守番をしていたナスが見ていたらきっと呆れかえっていただろう。

 その日だけで空き地はアースの雪像展の会場になってしまった。

 帰る時にさすがにそのままにしては置けなかったから僕が壊したけど、あの時の僕を見るアースの目は辛かった。


 そうして過ごしているうちにあっという間に時間は過ぎてお祭の日になった。

 そしてそれはフェアチャイルドさん達と合流する日でもある。

 あの男の子はいなくなったのでしばらくゆっくりする事も出来るだろう。

 僕は南の検問所の近くでライチーと一緒に今か今かと待っていた。

 離れていたのは去年と違い一ヶ月にも満たない時間だったけれど、分かれた事情が事情だ。

 ライチーから毎日話を聞いていたけれど早くあの子の無事な姿を早く確認したい。

 到着するのは夕方位になるだろうとライチー越しに聞いてはいたので訓練が終わった後飛んでやって来た。

 一緒に待っているライチーもそわそわとしている。

 そして、突然ライチーが僕から離れ検問所の方へ向かった。

 出入口をよく目を凝らして確認すると、カナデさんの薄桃色のツインテールが見えた。そして、その陰に隠れるようにあの子の薄水色の髪も。

 はやる気持ちを抑え彼女たちの下へ向かう。僕は大人らしくライチーのように慌てて駆け出したりはしないのだ。 

 ライチーは一足先にフェアチャイルドさんに抱き着いた。するとサラサとディアナが出てきてライチーを迎えている。

 ライチーにフェアチャイルドさんを取られているので僕は先にカナデさんへ挨拶をする。


「お久しぶりですカナデさん」

「はい~。お久しぶりですぅ。お元気でしたかぁ?」

「はい。カナデさん達の方は?」

「えとですねぇ、最初の頃はレナスさんが泣いちゃって大変でしたけどぉ、体調は崩していませんよぉ」

「か、カナデさん! 何を言ってるんですか!」


 ライチーの相手をしていたはずのフェアチャイルドさんがカナデさんの言葉を聞いて慌てた様子で割って入ってきた。


「うふふ~。アリスさんとライチーさんがいなくて夜中泣いていたのをサラサさんに慰められてたんですよねぇ~」

「お、起きてたんですか!?」

「はい~」

「そんな……」


 フェアチャイルドさんは恥ずかしそうに赤く染まった顔を両手で覆った。


「私結構眠り浅いですからぁ、物音がするとすぐに起きてしまうんですよぉ」

「ああ、眠りが浅い分を時間で補ってるんですね?」

「ですです~」


 たっぷり眠らないと本調子になれないというのはそういう所から来ていたのか。

 フェアチャイルドさんは吹っ切れたのかまだ赤い顔から手を放し僕に向き直った。


「もういいです。ナギさん。お久しぶりです」

「うん。久しぶり」


 僕はいつでも彼女が抱き着いて来てもいいように心構えをする。

 しかし、彼女は動かなかった。


「……あれ?」

「どうかしましたか?」


 去年までの彼女なら抱き着いてくるか手を取ってくるかすると思ったのだが、動く気配がなくただ僕の顔を見ている。


「いや、去年みたいに抱き着いてこないのかなって。……もしかして怒ってる?」


 わざわざ聞くのは恥ずかしいけれど約束を破る事になって泣かせてしまった罪悪感で聞いてしまった。


「ナギさん。私は子供ではないんです。そんな人前で抱き着くなんて事できません」


 フェアチャイルドさんは穏やかな表情でそう言った。


「そ、そうなんだ……」


 フェアチャイルドさんも大人になっているという事か。そう言えば一か月前も手を握ってくるだけに留めていたな。

 嬉しい反面寂しさを感じてしまう。


「とりあえず大きな荷物を置きに預かり施設に行きましょうか。魔獣の皆も待ってるよ」

「はわ~。久しぶりにヒビキさんを……あっ、でもその前にお風呂に入りたいですねぇ。折角の久しぶりの再会なのできれいにしておきたいですぅ」

「じゃあカナデさんの荷物は僕が運んでおきますよ。フェアチャイルドさんはどうする?」

「私は後でいいです。身体を清めるのはナギさんと一緒にベッドに入る前にしておきたいですから」

「あれ? 今日は一緒に寝るの?」


 将来の話をし泣かれた日から別れる前まで僕達は別々のベッドで寝ていた。

 そして先ほどの大人宣言。てっきりもう僕と一緒のベッドで寝る事はないと思ったのだけれど。


「はい。気づいたんです。いつかは離れ離れになる日は来る。なら、一緒にいる時間は大切にしないといけないのではないか、と」

「それは……うん。その通りだと思うよ」

「ですから後悔が無いようにしようと思いました」

「それで一緒に寝る事に?」

「はい。ご迷惑……でしょうか?」

「ははっ、そんな事ないよ。いいよ。また同じベッドで一緒に寝ようか」

「ありがとうございます」


 フェアチャイルドさんは変わらず穏やかな笑顔で応えてくれた。




 そして、その夜。


「ふひひ……ふひっ」

「ん……くっ……」


 僕は選択を間違えたかもしれない。

 寝ているフェアチャイルドさんが不気味な寝声を上げながら僕の胸に背中側から手を伸ばし僕の胸を揉みしだいてきていた。

 僕はすぐに引きはがすのだけれど彼女はすぐに僕にくっついて来て同じ事を続ける。

 最初は彼女と向かい合って寝ていたのだけれど、その時は顔を僕の胸に埋めてきて揉みしだいてきた。

 ふざけてこんなしつこい事をする様な子ではないから寝ているんだと思うけど、僕がどんなに体勢を変えても的確に胸を狙ってくるあたり本当に寝ているのか疑わしくなる。

 しかし、距離を取ろうにも下手に他のベッドに移ろうとすると彼女が僕を追って床に落ちる危険性がある。

 

「ナギ、縄を持ってきたわ。これでレナスの腕を縛りなさい」

「あ、ありがとうサラサ」


 縄で縛るなんて、とも一瞬考えたが、僕の安眠の為にもここは心を鬼にする!

 素早く彼女の手を取り後ろ手に縄を縛り上げる。これで安心だ……そう思うのは甘かった。

 腕が使えなくなった彼女は頭を動かして僕の胸を求めてきた。

 これだけならいつもと刺激は変わりないから問題ないけれど、ここまで来るとさすがに怖い。


「くふぅ」


 一体何がここまで彼女にさせるのか?

 一体僕の胸に何があるのか?

 何も分からない。何も分からないまま僕は眠りにつき夜が明けた。

 そして……僕は起き出した彼女に、一緒に寝る事の禁止を言い渡したのだった。

懲役を二年以下から十四年以下に変更しました

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― 新着の感想 ―
[一言] 世界感と罪の重さが噛み合って無いよなぁ やろうとしたら事が強姦殺人未遂でこの罪の軽さヤバイ世界だなぁ
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