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贈り物は何ですか? その3

 僕がフェアチャイルドさんのプレゼントを探し回ってから一週間が経った。今日はフェアチャイルドさんと二人で店を回りに行く事になっている。

 プレゼントになりそうな物は今日はまだ買わず後日改めて買う事は決まっていた。後日にというのは気に入った物が複数あった場合相手がどれを買うか決める時間を与えるためだ。


 午前中の補講が終わった後、フェアチャイルドさんと出かける前に僕は自室で身だしなみをいつも以上に整えていた。

 僕は一昨日気づきました。男女二人でのお出かけ。これはデートだと。

 いや、子供相手に何言ってるんだと思われるかもしれないが、僕はたとえ相手が子供であろうとも恥をかかせてはいけないのではなかろうか? と思ったのだ。

 デートの経験なんてないけれど、将来男に戻った時の為に今の内に慣れておかなくては。


「ナギが珍しく綺麗にしてる……」

「珍しくは余計だよね、アールス」

「何かいい事でもあったの?」

「ちょっとね」


 流石にデートだなんて言えない。色々な意味で恥ずかしすぎる。

 身だしなみを整え終えると僕はフェアチャイルドさんがいる方向を見てみる。


「……」


 フェアチャイルドさんの赤い瞳が僕を見ていた。張り切って身だしなみなんて整えてたから変に思われたかな。


「そ、そろそろ行こうか。フェアチャイルドさん」

「……はい」


 なんだかフェアチャイルドさんの視線が痛い気がする。いつもと変わらない表情なのに……被害妄想だろうか?

 寮を出てまず向かうのは一番近い所にある本屋だ。本屋は寮の前の大通りを少し南下した所にある。


 十分ほど歩いて本屋に着く。

 この世界は製紙が発達しているのか紙が安く手に入る。もしかして魔法で作っているのだろうか? 土も出せるんだから紙も出せておかしくないかもしれない。

 本が貴重品という事がなく僕でも日常的に買える値段となっている。大体銅貨十枚前後だ。売られている本は小説や歴史書、趣味の為の本に色々な実用書だ。

 僕が主に読んでいるのは小説で大人向けの物だ。大人向けと言ってもいかがわしい物じゃない。そんなもの売ってくれるはずがない。所謂娯楽小説で、その中でも僕はファンタジーが好きだ。

 前世で読んでいた小説と大筋では大差がない。王道はどの世界でも王道という事だろうか?

 一応この世界の事を知るために歴史書や固有能力について書かれた本を買う事もあるけれど、今回の目的には入っていない。

 そんなわけで僕はファンタジーの小説が置いてある棚の前で新刊を見ていた。


「あっ、『腕輪クエスト』の新刊出てる」


 どうしようかなー今すぐ買いたいなーけどなー。

 ちらりとフェアチャイルドさんの方を見てみる。フェアチャイルドさんは児童書の棚を見ていた。

 うん。買うのはやめよう。今日はそういう決まりだし。


「フェアチャイルドさんは気になった本とかあった?」

「えと……これです」


 フェアチャイルドさんが指差しした本の背表紙には『精霊とアレスの約束』と書かれている。

 一体どんな本だろう。


「どんな本か知ってる?」

「いえ……知りません」

「やっぱり精霊に関する本なのかな」

「かも知れません……ナギさんは、見つかりましたか?」

「うん。僕はこっちの『指輪クエスト』っていう本の新刊」

「……読めるんですか?」

「うん。辞書さえあれば大抵は読めるよ」


 それでも分からない文字は前後の文から想像している。


「すごいです……」

「慣れればフェアチャイルドさんも読める様になるよ。僕の本貸そうか?」

「いいんですか……?」

「うん。最初は辞書とにらめっこしながらだから時間はかかるかもしれないけど」

「あ……お願い、します」

「了解」


 他にも欲しい物がないかどうかざっと見て回ってから数点見つけた事をフェアチャイルドさんに伝えた。

 フェアチャイルドさんは他にはなかったようだ。

 次は大通りをさらに南下して街の中心部に行く。街の中心部には靴屋や土産屋がある。


「ナギさんって本当にすごいです……」


 大通りを歩いてる最中にフェアチャイルドさんが急に僕を褒めてきた。


「どうしたの? 突然」

「難しい大人の本を読んだり……計算だって早い……」

「慣れの問題だって」

「ううん……それだけじゃありません。ナギさんは私の言葉も、普通に理解していました……」

「……ん?」


 理解してた?


「理解してたってどういう意味?」

「? 最初に会った時、ナギさんは私と普通に喋っていましたよね……?」

「え? 誰だって……え、もしかしてフェアチャイルドさん公用語喋ってなかったの?」

「喋ってはいましたけど……すごい訛ってて……それに時々妖精語も出ていました……」

「あ、あー……それはたぶん固有能力のおかげだよ」

「たしか……魔獣の誓い……でしたよね……?」

「そうそう。僕にはフェアチャイルドさんの言葉、普通に公用語として聞こえてたんだ」

「そうだったんですか……?」

「うん。だからその、すごいのは固有能力のお蔭なんだよ」

「そんな能力持っているだけでもすごいと思いますけど……」

「あはは……能力一旦切れないかな」

「え……?」

「いや、ほら。能力切ったらどう聞こえるか興味あるじゃないか」


(シエル先生、できませんか?)

(自動翻訳の部分だけオンオフ切り替えられます。切り替えますか?)

(はい)


「……フェアチャイルドさん。ちょっと妖精語で喋ってみて?」

「はい……じこしょうかいしますね」


 自動翻訳を切って聞くフェアチャイルドさんの声はたどたどしい。まるで一言一言確かめるように喋っているようだ。

 きっとまだ公用語に慣れてないのかもしれない。だから確認しながらじゃないと喋れなくて、たどたどしくなっているのかも。


『私の名前はフェアチャイルドといいます』


 子供特有の舌足らずな喋り方だけど、公用語使っている時よりもはっきりとした声だ。

 初めて聞く言葉と発音だけど不思議と理解できる。どうやら妖精語とは独立した言語ではなく方言のようだ。

 自動翻訳の固有能力は一度聞いて翻訳した言葉は効果を切った後も理解できる様になっているのかもしれない。

 しかも喋れるっぽい。外国語とか余裕じゃないか。まさにチート能力だ。


「今度は公用語で喋ってみて」

「こう……ようご?」

「分からないのか。え、僕普段どんな風に喋ってるの?」

「えと……ナギさんは、いつもわかりやすいことばでしゃべってくれています……ときどきむずかしいことばを、つかいますけど」

「……それも能力のおかげだね」

「そう、なの……?」

「うん」


 シエル様が互いに言葉の意味が分かる様になるような、そんな説明してた気がする。


「もしかして僕の喋り方って周りから浮いてる?」

「……すこし」

「そうだったのか……」


 どうしよう。自動翻訳切っておこうかな。いや、でも今度は僕が喋るのに苦労しそうだ。

 ……どちらにしろ後回しでいいか。今は普段通りのフェアチャイルドさんの言葉を楽しもう。




 意思の疎通に多少難が出たけれどそれでも何とか僕達は会話を成立させる事が出来た。フェアチャイルドさんはどうやら今でも少し訛っているみたいで、訛っている所がかわいい。

 靴屋と土産屋はお互いに特に欲しい物はなかったのでそのまま西の通りに出た。ここには呉服屋の他にも露天商が出ているから見て回れる場所は多い。


「最初は露天商から見ようか?」

「ろてんしょー?」


 フェアチャイルドさんは知らないのか。前にアールスのプレゼントを探しに来た時にも話しているはずだけど、翻訳されたのかな?


「ほら、道の上で物を売ってる人がいるでしょ?あの人達の事を露天商っていうんだ」

「そう……なんですか」


 露天で売られている物はアクセサリーや鉱石、服に靴などが多い。特に服はこの街では見た事のないデザインをしている。たとえるならそう、メキシコ人か着ているポンチョのような服だ。

 まぁそんな服もフェアチャイルドさんは興味ないのか見向きもしていない。

 興味ありそうなのは鉱石だ。やっぱり女の子だから綺麗な物には興味があるんだろう。


「フェアチャイルドさんは宝石が好きなの?」

「ん……せいれいさんたちがすきなんです」


 随分と俗っぽいな、精霊。と思ったが口には出さないでおく。


「せいれいさんたちの……おうちになるんです」

「家に? 精霊って宝石の中に住んでるの?」

「そうみたいです。……あと、すいしょうとか……とうめいなものがいいって」

「ふぅん」


 フェアチャイルドさんは一つ一つの店で熱心に透明な鉱石を見ている。よほど精霊に愛着があるんだろうな。

 これなら宝石……は手を出せなくても透明度の高い鉱石をプレゼントするのもいいかもしれない。

 おっと、僕も興味のある物を探さないと。

 しかし、装飾品とかは本当に興味がないんだ。僕は前世は完全にインドア派だったからファッションに興味なんて持たなかったし、今でも良さが分からない。かっこいいと思うような物を選べばいいのかな。


「ナギさんは……なにがすきですか?」

「この中でって事?」

「うん」


 今見ているのは色とりどりの透明度を持つ鉱石だ。


「うーんそうだな。この紫のかな?」


 僕は紫が好きだ。だから紫水晶っぽい紫のクリスタルが好きかな。


「ふふ……」


 笑った!? いつもあんまり感情を表に出さないフェアチャイルドさんが笑った? いや、しかしまだ六歳なんだ。笑ったっておかしくない。


「へ、変かな?」

「ううん……ナギさんのめと……おなじいろだなって」

「え? そうなの?」


 そう言えば僕のお父さんが濃い紫の瞳をしていたな。水面に映った自分の顔は何度か見た事あるけど瞳の色までは気にしてなかった。今度手鏡を買って確かめてみようか。


「はい……はじめてみるめです」

「あー」


 村でもこの街に会った人達でも確かに父さんと同じ瞳の色をした人って見ないな。何か特別な血筋なのだろうか? 勇者とか貴族とか、もしかしたら王族だったりして。

 あっ、でもここ国王様はいるけど貴族はいないんだよね。なんでかはよく知らないけど。この国の政治形態はまだ習っていないんだ。ただ国王は血筋で決まって国の代表をやっている事しか知らない。

 一応イギリス王室っぽいイメージはあるんだけど。


「僕もお父さん以外には見た事ないよ」

「やっぱり、めずらしいんだ……」

「そうみたいだね。フェアチャイルドさんはどんな石が好きなの?」

「わたしは……えと、このみどりいろのがいいとおもいます」


 フェアチャイルドさんが指差したのはエメラルドのような宝石だ。


「ああ、これはアールスの目にそっくりだね」

「え……あっ、ほんとうにそっくり……」


 宝石を見つめる目はどこか楽しげに見えた。やっぱ仲いいんだな、フェアチャイルドさんとアールスは。

 今は高くて買えないけどいつか二人の瞳と同じ色の宝石をプレゼントしようか。

 露店を一通り見て回ったが僕は特に欲しいと思ったものはなかった。

 フェアチャイルドさんも気になる物はあったようだが、どれも今の僕達では気安く手の出せない値段の物だった。

 次に向かったのは呉服屋だ。アールスの時は服は選ばなかったけど、今回は違う。お互いに欲しい物を選ぶのだから選択肢に入っても問題ないだろう。


 ちなみにフェアチャイルドさんは今スカートが足首まで届く長袖の黒いワンピースで腰の辺りを白い紐で縛っている。その上に灰色の皮のコートを着て、ロシア帽のような灰色の帽子を被っている。去年初めて見た時の服とは別物だ。あの服はもう着れなくなったらしい。

 一見すると美人が多いと名高いロシア人のようだ。

 ……あれ?もう冬服新しく買ってるのならプレゼントで買う必要……い、いや、女の子なんだからお洒落はしたいはずだ。


「フェアチャイルドさんはどんな服が好きなのかな?」

「ん……ふゆは、くろいのがいいです」

「何か理由あるの?」

「……あったかい」

「ああ」


 黒は熱を吸収しやすいもんね。

 でも黒がいいとなると選択肢はかなり減ってしまう。何故って、服の種類が少ないんだ。もっと高価な場所に行けば種類はもっとあるのかもしれないけど、僕達に手が出せる範囲となるワンピースもしくは長袖にスカートかズボンくらいしか選択肢がない。普通は色やデザインで決めるんだけど、素材は麻しかない。ウールは高級品なんだ。

 防寒着なら服よりもデザインは多い。ちゃんちゃんこみたいな室内で簡単に着る物からフード付きのマントまである。


「ナギさんは……きになるふくありますか?」

「うーん。僕ももう冬用のは買っちゃったからな。去年のもまだ着れるのあるし」


 寮生は自分で服を買わないといけないのが辛い所だ。

 いや、ちゃんと学校から支給もされるんだよ。ただその場合デザインは選べないし、対価として学校で労働をさせられる。

 僕は別に学校で労働させられるのはいいんだけど、デザインが選べないのが痛い。僕は普段ズボンを履いているのだけど、勝手に選ばれるとスカートを渡される可能性が高い。流石にスカートは恥ずかしい。


 フェアチャイルドさんはいつの間にか服のコーナーから小物の置いてある棚の前に移動していた。

 フェアチャイルドさんだったらどんな物が似合うだろう。フェアチャイルドさんの隣に立ち小物を見る。

 例えばフェアチャイルドさんは水筒を持ち歩いてるからハンカチとかはどうだろう。

 取り敢えずかわいいと思う物を薦めてみよう。


「これなんてどうかな?」

「あっ……かわいい」

「こっちは?」

「きれい」


 どれも気に入ってもらえたみたいだ。逆にフェアチャイルドさんからはポーチを薦められた。これがあれば本を持ち歩きやすいだろうとの事だ。

 学校で使っている手提げ袋があるけど、確かに肩にかけられるポーチの方がいいかもしれない。僕は気に入ったデザインの物をフェアチャイルドさんに伝えた。

 そして、互いに気にった物を見つけた所で休憩のために店を出た。




 西の通りには休憩のできる店はない。なので噴水のある中央まで戻る。

 噴水の近くにはベンチが配置されており、そこで休む事が出来る。


「はぁ、ちょっと疲れたね」

「うん」

「フェアチャイルドさんこの一年で大分体力着いたんじゃない?前は学校に行くだけで顔が青くなってたのに今は息切れするぐらいだし」

「はい……わたしつよくなりました」


 フェアチャイルドさんが小さくガッツポーズを取った。


「卒業したら冒険者になるんだよね?」

「はい……わたし、ひがしのくににいってみたいです」

「東の国か……」


 一応授業で名前と概要だけ聞いた事がある。数十年前に魔物達の住む魔境を開拓していた人達が東の国から同じように開拓していて道が繋がったんだとか。

 元々お互いに国がある事は知っていたから少しずつ魔物を排除し国交を開こうとしていたらしい。

 数十年前に国交を開けた相手の国の名前は大樹の国フソウ。


「フソウ、だっけ? 何かあるの?」

「……わたしのおとうさんとおかあさん、わたしがうまれるまえにひがしのくにからきたのだそうです」

「へぇ、フェアチャイルドさんの両親って外国から来たんだ」

「うん……だから、いってみたいです」


 国交が開かれたとはいえその道はまだ危険が多く、腕の立つ人間かそれを雇える財力を持つ人間しか通る事が出来ない。

 腕の立つ人間を雇うのには高額の報酬が必要で、普通の人が払える物ではない。だから僕達が行くには強くなるしかないだろう。


「だったら僕強くなってフェアチャイルドさんをフソウまで連れて行くよ」

「ほんとう?」

「うん。アールスにも話せば協力してくれるよ。三人で絶対にフソウまで行こう!」

「……うん!」


 それは今までにない笑顔だった。ロリコンではないはずの僕ですら心臓がドキリとした。この子は将来男を虜にするかもしれない。悪い男に騙されないといいけど。今のうちに注意しておくか?でもどうやって?


「う~ん……」

「……どうかしましたか?」

「え?あ、ううん。なんでもないよ」


 つい悩みが表に出てしまったようだ。


「そろそろ次のお店に行こうか」

「はい」


 次のお店は学校の周辺にある雑貨屋だ。




 デート(仮)から数週間後。

 フェアチャイルドさんの誕生日に僕はナビィの刺繍の入ったハンカチをプレゼントした。これはちゃんとフェアチャイルドさんが欲しいと言っていた物だ。

 そして、逆にフェアチャイルドさんからの誕生日プレゼントは『腕輪クエスト』を貰った。この本は年末年始にゆっくりと読む事にしよう。

 それと、カイル君からは昆虫の木彫りの置物はもらえなかった……。代わりに何故か羽の形をした木彫りの髪飾りを貰った。これは僕に女の子らしい恰好をしろという意味なのだろうか……?

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