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贈り物は何ですか? その2

 フェアチャイルドさんの誕生日は僕と同じ十二月だけど、僕よりも早く生まれている。

 僕はフェアチャイルドさんのプレゼントを買うために依頼を頑張りたかったのだが、日が暮れるのが早くなった所為で依頼ができる時間が大幅に減ってしまった。

 お蔭で放課後に依頼を二つ三つこなす事が出来たのが今では一つだけになってしまったのだ。

 おかげで中々お金が貯まらない。高い物は無理そうだ。アールスのも特別高い物じゃなかったし、同じ位の値段の物がいいかもしれない。


 そんなわけで誕生日の一ヵ月前になると僕は休日にフェアチャイルドさんのプレゼントを一人で見繕っていた。アールスはもう決めているみたいで内容も聞いているからプレゼントが被る心配はない。

 候補はある。アールスの時と同じ髪飾り、ネックレス、ぬいぐるみ、小物入れのどれかだろう。

 まずぬいぐるみは順位が低い。何故なら学校を卒業したら置き場所に困るからだ。僕は本をよく買うけれど邪魔になれば処分すればいい。けどぬいぐるみは処分しにくい。それが贈り物だったり気に入っている物ならなおさらだろう。

 ぬいぐるみの次が髪飾りだ。髪留めをアールスにあげたからここはなるべく違うものにしたい。

 そうなるとネックレスか小物入れだろう。小物入れはポーチみたいな物でもいいから幅広い選択肢がある。ネックレスは子供用なら高くないはずだ。


 今日見ようとしているのはネックレスだ。西の通りにあるアクセサリーのお店は僕では手が出せない物ばかりだからだ。

 僕が行くのはまだ見ていない路地にある雑貨屋。アールスのプレゼント探しの時にラット君に教えてもらったお店だ。

 態々西の通りまで行かなくても、寮の横にある路地からいける場所にある。


 雑貨屋に着くとそこにはカイル君がいた。


「あれ? カイル君何してるの?」

「あっ、ナギ。お前こそ何してるんだよ」

「僕はフェアチャイルドさんへのプレゼントを探しに来たんだ」

「ふぅん。ここ俺のねーちゃんが働いてるんだ。……店員だけど。昼飯の弁当忘れてったから俺が持ってきてやったんだよ」

「そうなんだ?」


 カウンターの方を見ていると確かに綺麗なお姉さんが僕達の方を微笑みながら見ている。さながら家にやってきた子供の友達を初めて見たお母さんのような目だ。

 お姉さんにお辞儀をしてから疑問に思った事を聞いた。


「ラット君からはカイル君にお姉さんがいるなんて聞いてなかったけど」

「あいつにもまだ言ってないし」

「言わないの?」

「聞かれなかったら態々言わねぇよ」


 カイル君は視線を逸らし気味に言った。もしかしたら綺麗なお姉さんがいるって事を知られるのが気恥ずかしいのかもしれない。


「そっかそっか。そうだよね、うん」

「そうなんだよ」


 僕にも覚えがあるぞ。あれは初めての授業参観の時だ。お母さんが気合を入れて来たから家とは顔が全然違っててなんか恥ずかしかったんだ。


「とりあえず僕は商品見てるけど、カイル君はどうするの?」

「……レナスのプレゼント探してるんだろ。お、俺も一緒に探してやるよ」

「本当? ありがとう」


 すぐに帰るのかと思ったけど、意外だな。


「それで何探してるんだ?」

「ネックレス。小物入れでもいいんだ」

「じゃあこっちだ」


 カイル君は歩きながら店内にあるコーナーを簡単に紹介してくれた。

 案内された棚と壁にはネックレスが値札付きで飾られていた。


「レナスはどういうのが好きなんだ?」

「かわいい物よりもきれいな物が好きみたいだよ」

「……どう違うんだ?」

「んー、たとえばこれ」


 僕が指さしたのは花でできたネックレスだ。鎖の代わりに植物の蔓が使われていて赤と白の花が交互に咲いていて、ハワイなどで見かける首飾りを小さくしたような物だ。


「多分これはかわいい」


 そしてもう一つ綺麗そうなものを指さす。

 こっちは無駄な装飾がなくシンプルに赤いガラス玉のような物がついている。


「こっちが多分綺麗」

「地味な方が綺麗って事か?」

「多分」


 正直自信なんてない。けどフェアチャイルドさんは過剰な装飾は好まない……気がする。


「ナギは、その、どういうのが好きなんだ?」

「僕? 僕は……こういうの興味ないなぁ」

「そうなのか?」

「うん。だから選ぶの大変なんだよ。どういう物がいい物なのか分からないから」

「じゃあ何が好きなんだ?」

「僕は本とか好きだな」

「……意外だ」

「そう?」

「ナギはいつも走ったり腕立て伏せとか腹筋とかやってるって聞いてるぞ」

「身体を鍛えるためだからね。別に趣味って訳じゃないよ」


 うーん。この店にある商品の中じゃさっきの赤いガラス玉がついてるネックレスがいいかな。でも値段がアールスにあげた髪留めと釣り合っていない。


「次は小物入れ見たいな」

「ん。こっち」


 小物入れは箱ばかりだ。けど過度な装飾はなく持ち運びやすい物が多い。


「それ何入れんの?」

「え?」

「そんな小さいのじゃ虫しか入んないんじゃね?」

「そんな事ないよ。髪飾りとか綺麗な……うーん」

「? どうした?」

「いや、よく考えたらフェアチャイルドさんって小物持ってないなーって思って」


 少なくとも僕は見た事がない。

 アールスだって髪飾りや綺麗な小石くらい持っているのに。


「じゃあ小物入れなんて使わないんじゃね?」

「そうだよねぇ」


 一気に小物入れの順位が下がってしまった。


「ふぅん。じゃあネックレスかなぁ」

「食い物とかはどうだ?」

「それはアールスが選ぶって」

「じゃあ花」

「ラット君が上げた花があるから」

「何か不味いのか?」

「置き場所がないんだよ」


 花瓶という名のカップが置ける場所は学習机しかない。けれどラット君が花束で買ってきたため花が学習机の一つを占拠してしまっている。机が四つあったからいい物の、僕達が四人だったら不便な目に会っていた。

 プレゼントされて飾る時に気付いたっていうのが間抜けな話だ。


「寮ってそんなに狭いのか?」

「置ける台とか机がないんだよ。部屋自体は後四人位入る余裕はあるよ」


 衣服とか使わない荷物はクローゼットの中だ。箪笥みたいな物は寮にはない。


「ふーん」


 とりあえずめぼしい物は見繕ったからこのお店はこれくらいでいいだろうか。


「取り敢えず僕は他のお店見てみるよ」

「え? もう?」

「うん。他にも見てみたいお店はあるからね」

「そ、そっか」

「じゃあね、カイル君」

「うん……」


 次は街の南西にある雑貨屋だ。少し高いらしいけど見るだけ見ておこう。




 結局めぼしい物は見つからなかった。

 いい案も浮かばないまま僕の足はいつの間にか寮にたどり着いていた。玄関の両脇に立っている衛兵にいつものように挨拶をしてから寮の中に入り、自分の部屋へと戻った。

 部屋にはフェアチャイルドさんが一人で机に向かっていた。


「ただいま」

「あ……おかえりなさい」

「勉強してるの?」

「いえ……休んでいました」

「フェアチャイルドさんもどこか行ってたの?」

「はい……あの、ナギさん」

「うん?」

「ナギさんは、何か欲しいものありますか……?」

「……それって誕生日プレゼント?」

「はい……一杯考えたのですが……何がいいのか分からなくて……」


 そっか、フェアチャイルドさんも同じこと考えてたんだ。


「あー、実は僕も同じ事考えてた」

「え……?」

「フェアチャイルドさんの誕生日プレゼント何がいいかなって」

「……」


 あれ? フェアチャイルドさん今口元がぴくぴくと動いていたような? もしかして笑おうとした?


「僕は欲しい物って特にないんだよね。生活に必要な物は揃ってるし、装飾品にも興味ないから」

「私も……ないです。ナギさんは本をよく読んでいますけれど……」

「本は自分で選びたいからなぁ。もちろん貰えたらうれしいけど。フェアチャイルドさんは好きな装飾品とか無いの?」

「よく、わかりません……」


 つけた事がないからかな?そういう事ならやっぱりネックレスとかがいいかな。


「うーん。あっ、じゃあさ、次の休日に二人でお互いのプレゼント見に行かない?」

「お互いの……ですか?」

「うん。で、気に入った物があったらそれを相手が買うんだ。……つまり、僕が気に入った物があればフェアチャイルドさんが買って、フェアチャイルドさんが気に入った物を僕が買う」

「なるほど……」

「どうかな?」

「いいと、思います……」

「じゃあ決まりだね」

全話色々と修正しました。

誤字脱字などがありましたらご指摘ください。

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