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閑話 渇望

本日二回目の更新です

 ナギ達が来る!

 ようやく会える!

 私は訓練が終わったと同時に走り出した。

 最後に届いた手紙にはもう最寄りの都市まで来ていると書いてあった。

 そこから計算すると今日外の倉庫街に着けるはずだ。

 アースっていう仔に乗ってもしかしたら早く着くかもしれないと思ったけれど、昨日までに会えていないんだから普通に歩いて来ているんだと思う。

 もしかしたら明日になるかもしれないけど、それだったら明日も行けばいいんだ。

 私は街から街道沿いにある宿が並んでいる場所まで駆け抜ける。

 アースという仔は大きいと聞いてるから目立つはずだ。

 だけど街道にはそんな大きな魔獣の姿は見えない。

 まだ来てない?

 落胆を感じるけど私は諦め切れずに人混みを通り抜ける。

 いないのかな。今日じゃないのかな。早く会いたいのに……。


「ぴー」


 諦めかけたその時ナスの声が後ろから聞こえてきた。

 とっさに振り返ると、街道から離れた所に光が灯った。

 あそこだ。

 私は確かな確信を得た訳でもないのに走り出した。

 走っている途中でようやくナギの姿を見つける事が出来た。

 名前を呼ぶ。するとナギは両腕を広げてくれた。

 私は迷わずその両腕の中に飛び込んだ。

 暖かい。あの日抱きしめてくれた時と同じだ。

 ずっと会いたかった。また頭を撫でて欲しかった。

 もう一度名前を呼んで欲しかった。


「ナギ!」

「久しぶり。アールス」


 呼んでくれた! 嬉しい。

 背中に回ったナギの手が私の髪を梳いてる。気持ちいい。

 一言二言交わしただけでナギは離れてしまった。

 もう少しナギの体温を感じていたかったのに。

 ナギの真っ直ぐな瞳が頭の天辺から足元まで見ているのが分かった。私を見てるんだ。少し恥ずかしい。

 変な格好はしてないと思うけどナギにはどう見えてるんだろう。

 ナギの方は皮鎧の下に相変わらず男の子が着ているような無地の服を着ていて、長旅の所為か服が少しくたびれているように見える。

 でも皮鎧の方はよく手入れされているのか艶を保っている。皮鎧を買って失敗だったって書いてあったけれど、使う機会がないんだろうな。私としてはそっちの方が嬉しいんだけど。危険な目には遭ってほしくない。

 レナスちゃんの姿が見えないから聞いてみると、どうやら入れ違いになっちゃっていたらしい。残念。

 精霊が連絡を入れたからすぐに来るらしいけど。早く会いたいな。

 精霊に挨拶をするとナスが私のスカートの裾を引っ張ってきた。

 ごめんね。忘れてたわけじゃないんだけど、後回しになっちゃった。

 久しぶりに触れるナスの毛は相変わらず軟らかくて気持ちいい。


「ぴー。アールス、会い、たかった」


 本当に話せるようになったんだ。ナスと話すナギが羨ましかったからうれしいな。

 ナスと触れ合った後他の魔獣にも目を向ける。

 アース……が大きい魔獣だよね。

 本当に大きいなぁ。昔の私の家の高さと同じ位ありそう。もっと大きいかな?

 私よりも濃い色の瞳に見られていると思うとなんだか落ちつかない。なんだか私の事を見透かしてるような、そんな錯覚を覚える。

 すぐにアースは目を閉じでそっぽを向いちゃった。

 ヒビキは……小さくて丸い仔だね。

 本当に鳥なのかなぁ? こんなに丸くて飛べるのかな。

 なんにしてもかわいい! ナギの言ってた通り丸っこいは正義だ!

 ふたりに挨拶し終わるとナスがレナスちゃんが来た事を伝えてくれた。

 街道の方に目を向けてみるとレナスちゃんが走ってやってくるのが見えた。

 レナスちゃん。

 病気にかかって大変な目にあったって聞いている。

 その知らせを知った時私は首都にやって来た事を後悔した。

 守るって心に決めたのに。私は後から知って何もできなくて……。

 だから私は神聖魔法の勉強も今頑張ってる。レナスちゃんが……大切な人達が病気になってもすぐに治せるように。

 もっと、もっと頑張らないと。

 私は何かに急かされるようにレナスちゃんに向かって走り出した。


「アールスさん!」


 レナスちゃんが叫ぶように私の名前を呼んだ。


「レナスちゃん!」


 レナスちゃんに応える。

 ずっと一緒にいた。一緒に寝た事もあった。私の大事な友達。

 私にはまだ力がない。だけど、それでも私はレナスちゃんを失いたくなくて、力強く抱きしめた。

 昔は力を籠めたらすぐに折れちゃいそうなくらい華奢な体だったけど、今はそんな事ない。

 私が力を籠めたら折れちゃうのは変わらないけど、レナスちゃんの身体は昔よりもしっかりしてる。

 抱き返してくる腕の力もそこそこ強い。昔よりも健康的な身体になってるんだ。

 私を見る赤い瞳は涙で潤んでる。

 それはとってもきれいな色だった。

 少しだけ羨ましいな。私はあの時から泣く事が出来なくなったから……。


「会いたかった……もう、会えないと思っていました」

「大げさだよ。こうして会えたんだから」

「いいえ……いいえ。違うんです。私はもう会えないと覚悟していたんです。

 別れの日、私はもう会えないと分かっていたから、別れが辛くて顔を出せなかったんです。

 ごめんなさい。友達なのに、別れの言葉をちゃんと言えなくてごめんなさい」

「レナスちゃん?」


 どうしたんだろう? 何をそんなに泣いてるのかな。会えないってわかってたってどういう意味?

 私が疑問を口にする前にレナスちゃんは続けた。


「私、本当は十歳になる前に病気で死ぬはずだったんです。

 幼い頃にそう占いが出ていたんです」

「え?」


 死ぬ? レナスちゃんが死ぬ?


「でもナギさんが救ってくれたんです。だから再会する事が出来たんです。

 私、私……ごめんなさい。ごめんなさい。私、アールスさんには、何も知らないでいて欲しかったんです。せめて私が死ぬまで普通に過ごして欲しくて……秘密にしててごめんなさい!」


 頭の中がぐちゃぐちゃになってる。レナスちゃんの言葉の意味が理解できない。死ぬ? 死ぬって、お父さんと同じ?

 でも生きてる? レナスちゃん生きてる? ナギが救った?


「えと、えとね。レナスちゃん。ナギがレナスちゃんの事助けたの?」

「はい」


 涙をぬぐいながらレナスちゃんは微笑んで答えた。


「そっか……やっぱりナギってすごいんだ」


 私は何も出来なかった。気づきもしなかった。

 何だろう。この気持ちは何? 私は、守りたかったのに遠くにいて、ナギが助けて、私は何もしていなくて……。

 私は……。


「出会った頃には、その……死ぬって知ってたの?」

「はい……」


 分からない。レナスちゃんはどんな気持ちで過ごしていたの?

 当時レナスちゃんが悩んでいたのかさえ私には分からない。

 私は何をしていたの?


「でも楽しかったんです。アールスさんと一緒にいると、自分の運命なんて忘れるくらい……楽しかったんです」


 レナスちゃんが私の手を取り自分の頬に当てる。


「いつも太陽のように明るくて、少しお転婆でしたけど笑顔がとても魅力的で、ついお節介してしまう。そんなアールスさんと出会えて本当に良かった。

 あなたがいてくれたから、私は自分の人生に絶望せずにすんだんです。楽しい思い出をくれて本当にありがとう。大好きです」

「レナスちゃん……」


 守らなくちゃ。

 何もできなかった私に大好きと言ってくれるレナスちゃんを。

 その為にも……私は強くならなくちゃ。

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