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首都アークへ

 正式な冒険者になった事で僕達は組合で第一階位の依頼を受ける事が出来るようになった。

 第一階位の仕事は街の掃除や簡単な荷物運びなどが大半で報酬も安い。

 報酬がそこそこ望める仕事は拘束時間が長いけれども急ぎの旅でないなら贅沢さえしなければ旅を続けるのに問題ない程度には稼げる。

 僕とフェアチャイルドさんは今依頼をこなしつつ首都に向かっている。




 オーメストと首都の途中には王都があり、線で結べば一直線の位置関係にある。しかし、王都によろうと思ったら実は少し遠回りになってしまう。

 その理由というのが、王都はオーメスト側から行くと大きな湖が邪魔をしていて、首都側からだと『魔王の爪痕』と呼ばれる南北に伸びた底も見えないほど深い渓谷が三つ存在している。

 橋も架けられないほど幅もある為遠回りするしかないのだ。

 何故真っ直ぐ向える場所に王都がないのかというと、防衛の一環だろう。

 もしもオーメスト側や首都側が陥落しても大軍を真っ直ぐ進ませないようにして時間を稼ぎ準備を整えるのだ。

 北や南からの進軍には効果はないだろうが、北は沼地に標高の高い山脈が存在するため大軍を揃え越えてくるのは難しい。

 南は海以外には脅威はないし、大森林もある為十分時間が稼げる。

 立地的には王都の位置は悪くないんだ。問題があるとしたら王都の西にある湖は魔素に侵されているという事か。魔獣や魔魚のおかげで水中や湖周りの魔物はすぐに駆逐されるが、少し遠のくだけで低級の魔物は普通に生まれてしまう。

 中級の中でも魔物相手の初心者はここで訓練する人が多いらしい。カナデさんは行った事がないらしいけれど。

 カナデさん曰くあそこに湧くのは矢が効かない相手ばかりらしい。

 低級で矢が効かないとなると思い当たる魔物は二つだ。


 まず一体目はシャイルと呼ばれる魔素が集まり核が出来て意志を持った気体の魔物。全ての魔物の元となる魔物だ。

 シャイルはこちらの言葉で影という意味で、その名の通り影のように闇に溶け隠れて生き物に取り付き変質させる。

 対処は簡単で魔力(マナ)を切らさないようにしていれば魔人化することはない。

 人間以外の動物も、魔獣化したらすぐに敵対され消されてしまうというなんとも哀愁漂う魔物だ。

 だが、可哀そうだからと言って見逃してはいけない。

 矢の効かない魔物の二体目、それがシャイルが集まり液体化した魔物、ウィタエだ。

 ウィタエは、魔素で出来た精霊のような魔物で、大きくなった核の周りには魔素が液体化した物を纏い宙に浮いている。形は不定形だが時が経つにつれ徐々に固体化し、血肉となってオークなどの次の魔物になる。

 固体化していく間に取り込んだ魔素によって変化する魔物が変わるらしいので、見つけたら速やかに退治しなければならない。


 この二つの魔物は核も気体や液状な為矢で射ても倒す事はできない。倒すには核を魔力(マナ)で散らすか、板や剣の腹の部分等の硬い物で散らす必要がある。

 魔法が生活魔法以外使えないカナデさんでは核が纏っている魔素も液体も払う事はできない。

 まぁ……相手がシャイルなら板さえあれば退治する事はできるんだけど。

 万が一の事を考えるとカナデさんでは相性の悪い相手という事だろう。


 湖のような所は実は前線に近い地域以外には結構ある。

 魔素は魔力(マナ)の量を増やす為に必要だから、前線から遠い地では魔素を確保する為に魔素に侵された土地を作り、地面には結界を張り汚染が広がらないように封印してあるという。

 このような管理されている場所を総じて『魔の領域』と呼んでいる。

 今の所アーク王国の外側を周ってオーメストに辿り着いたから魔の領域をまだ僕らは見た事がない。人里離れた場所にあるらしいから用もない限りは見る事はないだろう。

 そしてその用が出来るのは中級になってからだ。


 アーク王国最大の魔の領域を回避するには北か南に大きく逸れないといけない。

 そうなると王都に行くのは蛇足という事になる。

 旅の途中フェアチャイルドさんにローランズさん達に合わなくていいのかと聞くと、まだ王都にはいないだろうと返ってきた。

 王都へ出発するのは五月らしく、今はまだ六月。グランエルから王都までは二ヶ月程かかるのでたしかにまだ王都にはいないだろう。

 ならばまだ寄らなくていいだろう。今は首都へ急いで後のお楽しみに取っておこう。

 首都へは北に回って向かう事になった。

 理由は簡単で、ずっと南の方にいたのだから北の方に行ってみようというフェアチャイルドさんからの意見が出たのだ。

 その意見に魔獣含め皆全面的に賛成した。

 地図で確かめると、湖は南寄りにあり、魔王の爪痕は一番長い渓谷が北の方まで伸びているが、カナデさんによると幅が狭い為橋が架かっているとの事。北からの方が歩く距離は短いそうだ。


 晴れの日は景色を楽しみながら道を行きうっかり野宿する羽目になった日が何度もあった。

 曇りの日は雨が降らないか心配しながら少しだけ急いだ。

 雨の日はディアナに水の傘を作ってもらい雨をしのぎ、村では外で寝る事になる魔獣達には村長に頼み込んで土の家を空き地に建てさせてもらったりもした。

 風が強く砂埃が舞う日は僕が風を操り皆を守った。

 日差しの強い日にフェアチャイルドさんが体調を崩してしまった。月の日はピュアルミナでは対処できない為ヒールとインパートヴァイタリティ、それに水やカナデさんの進めてくれた薬と食べ物で対処した。女の子の旅は大変だ。

 ナスが僕に妙に甘えてくる日もあった。どうやら僕とフェアチャイルドさんがアールスの事ばかり話していたので嫉妬してしまったようだ。それに他の皆も置いてけぼり気味だったと反省しアールスの話は控えるようになった。。

 魔王の爪痕ではアースが興味深そうに渓谷の底の見えない暗闇を見ていた。どうやら魔素がたっぷりあると聞いて食欲が湧いたようだ。もちろん止めた。

 ヒビキは旅の間変わらずに僕とカナデさんが交互に抱っこして運んでいた。フェアチャイルドさん? ヒビキが硬いと言って拒否されてました。拒否した理由なんて言えるはずもなく言い訳を必死に考える羽目になったよ。

 こっそりとカナデさん経由で揉むと大きくなるという情報を流しておいた。その翌日からフェアチャイルドさんが朝と晩の少しの時間の間姿が見えなくなったのはきっと関係はないだろう。ないったらないのだ。


 オーメストから大体一ヶ月半。首都の一つ前の都市へと僕達はようやくついた。あと一週間もかからずに首都に着く。アールスは元気にしているだろか?

 手紙は送っていたけれど旅の途中は返事を受け取れない。アールスの近状は全く分かっていないのだ。

 成長真っただ中の子供だから変わりないという事はないだろう。手紙では最初は自分の書きたい事を書いて要点が迷子になる事も珍しくなかったけれど、ここ一年は落ち着きを覚えたのか要点をまとめるようになって少しずつだが文字の書き方が穏やかになっていた。

 一体どんな子に育っているのだろう。手紙の書き方を見る限りでは落ち着きのある良い子だ。

 悪い子になっている……というのはあまり考えたくはないな。でも可能性としてはありえなくもないので少し怖い。

 都市に着く前の晩に書いておいた首都に着く前の最後の手紙を郵便屋に出す。

 速達で頼んだので僕達が首都に着くよりも早く届くだろう。




 首都の近くまで来ると村は町と呼んでいいほどの規模を持っている。

 学校も各町毎に存在するため周辺の村々から子供を集める必要がないとアールスの手紙で教えてもらった。

 都市でもないのに食事処や市場が存在する事にフェアチャイルドさんは驚いていた。

 都市と町の違いは結界の有無と人口の他に農業をしているかどうかだろう。

 規模は狭いが、町の外側に田畑が広がっているのは町になっても変わらないようだ。

 首都から一番近い町までは歩いて一日かかる場所にある。

 これは他の都市では考えられないほど遠い。

 その理由が町と首都の中間にある。

 オーメストの壁の元となり、幾度となく魔物の大軍を追い返し希望を守り続けた壁が存在しているんだ。

 町からでもその壁は存在を確認する事が出来る。それくらい巨大な壁。

 近づくと壁には窓が作られている事が見えた。時折その窓から兵士の姿が覗く。

 つまり、天を見上げ無ければならないほど巨大な壁は実は巨大な要塞なのだ。

 白い石の壁は一枚岩のように切れ目が見当たらない。一回の魔法でこの壁を作ったという事はないはずだ。

 大勢の人間が長い時間をかけて要塞を何度も何度も魔法で高く厚くし、さらに切れ目を消したに違いない。気が遠くなりそうなほど気の長い作業だ。僕が同じ作業をしたとして、一日で出来る範囲はどれくらいだろう。

 高さだけでなくこの壁は首都を囲っているんだ。僕だけでは一生をかけても終わる事はできないだろう。

 都市の入り口で行われる検問は首都ではここで行われる。


 手続きを終えると要塞の門が開かれる。

 門の先は遠くに見える出口から光の差し込むトンネルとなっている。

 薄暗く見通しが悪い。ライチーが出番とばかりにフェアチャイルドさんに力の行使を申し出た。

 長いトンネルの中が明るく照らされた。しかも影一つなく。

 光の精霊魔法は影を作ることなく範囲内を明るくする事が出来る。

 恐らく空間を光源で満たしているんだろう。

 影一つないというのは案外見にくい物だ。大きい物ならともかく石など小さい物は影がないと地面と判別しにくい。

 ライチーとフェアチャイルドさんは張り切りすぎだ。

 注意すると二人とも力なく首を前に垂れてしまった。

 ……さ、幸いトンネルの中はきれいに掃除されているようで躓くような石どころか小さな石ころ一つさえ無かった。

 二人を宥めつつトンネルを抜ければすぐに首都が見えるらしい。


 少しずつ鼓動が早くなっているのが自分でもわかる。

 もうすぐアールスの暮らしている街を見る事が出来る。

 いつも元気に笑っていたアールス。あの子の笑顔と、きれいなエメラルドの瞳は今でも覚えている。。

 小父さんが死んでしまった時泣けないと嘆いていたっけ。立ち直れただろうか? まだあの時から四年しか経っていない。

 僕はお母さんを亡くした後の記憶が曖昧だ……中学校の時の事をほとんど覚えていない。気が付いたら受験戦争真っただ中でよくもまぁ高校に合格できた物だと当時を振り返るたびに思う。

 アールスはきちんと手紙を返してくれるし首都で出会った友達の事も書かれていて、僕の時のような事にはなっていないと思う。

 もう一度あの笑顔が見れるだろうか?

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[気になる点] どちらか: ①近づくと壁には窓が作られているのが見えた。時折その窓から兵士の姿が覗く。 ②近づくと壁には窓が作られている事が窺えた。時折その窓から兵士の姿が見える。
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