ダイソン観光 前編
パパイを食する事が出来た今旅を急ぐ理由がなくなった。
なので休養もかねて三日ほど滞在する事をパパイを食べた後公園でまったりとお茶を飲みながら僕達は決めた。
どうせだからこの街を見て回るのもいいだろう。
カナデさんが案内を申し出てくれたが、せっかく故郷に帰ってきたんだ。会いたい人もいるだろうと、僕はフェアチャイルドさんと相談し理由を告げ丁重に断った。
カナデさんは困ったような声で残念ですと言ったが、その顔は朗らかだった。
時間も時間なので僕達はカナデさんと公園で別れる事にした。
宿は決まっていないけれど、いざとなれば都市の外で野宿をすればいいだろう。
今は睡眠が不要な精霊達がいるから二人でも安心して寝られる事だろう。
部屋が空いている宿を探すのに時間はかかったけれど、何とか見つける事ができた。
一人部屋が一つだけ空いていた宿に交渉して何とか二人で泊まれる事になった。
値段は一人分の値段とその半分の値段になった。
ベッドに腰かけてフェアチャイルドさんは嬉しそうに言った。
「久しぶりに二人ですね」
「ライチー達もいるでしょ?」
「ライチーさん達は今日はナスさんたちと一緒です」
「え? あっ、そういえばライチーの姿がない」
いつもなら静かな時でもフェアチャイルドさんの陰にくっついているけれど、今はその姿はなく、指輪と腕輪もしていない。
「今日はナスさん達とお喋りしたいそうですので施設の方にいます。今日は二人きりです」
「……みたいだね。フェアチャイルドさんと二人になるのは卒業式以来か」
「なんだかあっという間ですね」
「そうだね。もうあれから三ヶ月以上も経ってるんだね」
「後順調に進めれば来月の終わりには本部にたどり着けるんですよね」
「そうなるね。正式に冒険者になったらとりあえず依頼の数をこなさないとね」
「確か、階位を上げるには既定の回数依頼をこなさないといけないんですよね」
「カナデさんの話じゃそうだね。で、第三階位から中級の第四階位に上がるには依頼の達成件数の他に組合に登録してから二年待たないと昇位の為の試験が受けられないんだね」
「なんだかとても遠い気がします」
「二年なんてあっという間だよ」
「試験受かるでしょうか……」
「戦闘の試験なんだよね。得意な戦い方を選ばせてくれるのはいいけど、その分難しそうだよね」
試験は魔獣使いでも魔獣の力を借りずに自分の力で受ける必要がある。
当然だろう。魔獣に頼ってばかりでは魔獣がいない状況で何もできなくなってしまう。
実戦と呼べるかは微妙だろうけど、そういうのはまだ動物相手とアース位しか経験した事はない。
軍からの要請でも来ない限りそれは初級の冒険者でも変わらないはずだ。
ならばどうやって強くなるのか? そんなのは訓練するしかない。
訓練は組合の訓練場で行う事ができる。お金を払えば組合の職員や先輩の冒険者に教えを乞う事もできる。
その職員の質がいいと言われているのが首都の職員だ。その分高いだろうけど、僕なら十分払えるだろう。
試験に合格できなかったら受けてみようと思っている。
「そろそろご飯にしようか」
窓から外を見ればすっかり暗くなっている。
宿を探すのに遅くなってナス達に買ったパパイを渡す事ができなかったな。一応ブリザベーションをかけてあるから明日渡しても大丈夫だけど。
「そうですね。下に降りましょうか」
この宿は扉に鍵がなく閂なので外から鍵をかける事はできない。
貴重品はちゃんと持って下へ降りる。
宿の食堂は人で賑わっている。入口の看板に張り出されているメニューで食べたい物を決めてから座れる場所はないかと探すとカウンター席の近くのテーブルが一つ空いていた。そこに座り給仕を呼ぶ。
料理を頼み暫く待つ。
その間に僕はカナデさんから借りたパンフレットを取り出し明日どこを見て回るかをフェアチャイルドさんと相談する。
ダイソンには花に関する見世物が多いようだ。
フェアチャイルドさんは花の展覧会に興味を示した。
展覧会は南東の区画にある公園で行われているようで、四季折々の花を使った造形品が目玉のようだ。
一年中やっているようだけど、この世界ならブリザベーションもあるし品質を保つのもたやすいだろう。
僕が興味を持ったのは花をモチーフにした小物雑貨屋だ。どうもお土産屋らしく、配達も請け負ってくれるらしい。
お母さんにお土産を買って手紙と共に送って貰うのもいいかもしれない。
話をしている途中に料理が運ばれてきたのでパンフレットをしまい料理をいただく。
そして、食事の途中フェアチャイルドさんが僕の顔をちらちらと頻繁に見てくることに気が付いた。
「顔に何かついてる?」
「いえ、何も」
「じゃあ何か気になる事でもあるの? 僕の顔見てたみたいだけど」
「いえ、そのお料理美味しいのかなって思って見ていただけです」
「ああ、なるほど。フェアチャイルドさんも一口食べてみる?」
「!?」
そう聞いてみるとフェアチャイルドさんは顔色を変えて僕を凝視しだした。
「よろしいのですか?」
「う、うん」
そんなに食べてみたかったのか?
匙で料理の一部を掬い彼女の口元へ運ぶ。
彼女はゆっくりと匙ごと料理を口の中へ入れる。口を閉じたら匙をゆっくりと引き抜く。
やって気が付いたがこの後この匙を僕が使うのか……いや、子供相手に何を気にしているんだ僕は。これぐらい友達同士なら普通さ。
「どう? おいしい?」
「はい。天にも昇る味でした」
「そこまで好みだったの?」
ならばぜひとも再現してみたいが、こういう食堂のついた宿屋ってのは料理の味はお店の命綱だ。レシピとかは教えてくれないだろう。
ここは自分の舌を信じて後で料理を再現しよう。あんまり自信はないけど……。
翌日、僕達は宿を出てまず先にナス達に会いに行く事にした。出発は明日になった事と、パパイを届ける為だ。
施設に行きナス達の所に顔を出すと、ライチーがサラサと一緒にナス達と遊んでいる所だった。
ディアナはアースの背中に座って他の皆を見ている。
『あっ、レナスー。レナスのゆーとーりみんなとあそ……』
「ライチーさん。楽しかったですか?」
『うん! たのしかったー』
「よかったですね」
「ナス、アース、ヒビキ、パパイ買ってきたよ」
「ぼふっ」
アースが真っ先に僕の傍へ寄ってくる。
なんてかわいいんだろう。鼻横を撫でた後袋からパパイを取り出し、ブリザベーションの効果を解く。
形を崩さずに効果を解くにはもう一度ブリザベーションを使えばいい。
ブリザベーションを使うと効果が解けパパイに熱が戻ってくる。
「はい。アースの分。小さいだろうけど、ゆっくり食べてね」
「ぼふっぼふっ」
パパイを口の中に入れてやるとアースは口を閉じ噛み始める。
「ぴーぴー」
「みんな同じアップルパパイだよー」
ナスは前足で器用に受け取りリスのようにちびちびと食べ始める。
「きゅ~」
「ヒビキは僕が食べさせてあげるね。おいで」
「きゅー!」
僕の胸に飛び込んでくるヒビキを受け止め、パパイを小さく割りヒビキのくちばしに入れる。
「よく噛んでねヒビキ。後皆も、変だなって思ったらすぐにぺって吐き出すんだよ?」
一応魔獣になる前のナビィとアライサスに食べさせてはいけない物は把握しているけれど、魔獣になって体質が変わっているかもしれないし、ヒビキに至ってはロックホッパーペルグナーという動物自体知らない。
なので何を食べさせていいのか手探り状態だ。本当なら食べさせないほうが確実なんだろうけど、万が一食べてはいけない物を気づかないうちに拾い食いされたら一大事だ。
こうやって時折食べ物を与え確かめるのも重要な事だと思う。
それに僕にはピュアルミナがあるから大丈夫だ。シエル様からも保障されている。
「ぼふっ!」
「そんなに美味しかった? じゃあ今日も買ってこようか?」
「ぴー!」
「きゅー」
「んふふ。じゃあ買ってこようか。次は違う味がいいかな」
皆もパパイの味には満足したようだ。
だけど油断はできない。もう少し安全を確認する為にもう少しこの仔達といなければ。
食べ物だから時間差で具合が悪くなるというのも考えられる。
時間つぶしもかねて魔獣達の歯磨きとブラッシングを始める僕達。
本当なら身体も洗いたいんだけど、ここの預かり施設は狭くアースは洗いにくい為断念した。
時間をかけてブラッシングをしたが体調を崩す仔はいなかった。
ブラッシングを終え、僕は今日はお休みの日だと皆に伝えておいた。アースは喜んですぐに眠る準備に入った。
街を見て回る事を伝えるとナスとヒビキは着いてきたがった。
果たして展覧会はナス達と一緒に見れるのだろうか?
そもそもお店は基本的に動物は立ち入り禁止だ。
お店に用がある時は外で待っていないといけない。ナスは心配していないが、ヒビキはどうだろう。
「ヒビキ、お店の外で待つ事になっても我慢できる?」
「きゅ~?」
「基本的にお店にはヒビキは僕と一緒に入れないんだよ。展覧会も一緒に見れるかわからない」
「きゅぅ……」
僕からあまり離れたくないようだ。
「ナスは一緒にいてくれるよね?」
「ぴー!」
「きゅー……きゅう!」
どうやら我慢するようだ。
「んー……じゃあナス、ヒビキの事任せてもいいかな?」
「ぴー!」
任せろとの力強いお言葉をいただけた。
ちょっと不安は残るけど、ここは信じてみよう。ナスだってしっかりしている仔なんだ。