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雷霆の力

 ルルカ村を出発して数日。僕達は通りすがりの村で依頼をこなし移動を続けている。

 その道中の休み時間。ナスが地面に座っている僕とフェアチャイルドさんの前にやって来た。

 構って欲しいのかな? 頭を撫でると目を細め弱弱しく鳴いた。


「ぴー……ぴぁ……ぴぃあ……ぴゃ……ぴゃぎ……ひゃぎ……はぎ……たぎ……ナギ」

「え」


 どうしたんだろう? 僕の名前を呼んで。

 隣にいるフェアチャイルドさんは驚いたような顔をしているし。


「何処か具合悪いの?」

「なぁぎ……にゃーぎ……なぎぃ……ナギ?」

「ほ、本当にどうしたの? ナス。具合悪いの?」


 とりあえずピュアルミナとインパートヴァイタリティかけて……。


「ナギ! ナギ! ナギ!」


 突然ナスが嬉しそうに飛び跳ねながら僕の名前を呼び続け出した。


「ふぇええええ!? ナスさんがナギさんの名前を言ってますぅ!」


 少し離れた場所で弓の手入れをしていたウィトスさんが大きな声を上げた。


『ナスちゃんしゃべりかたおぼえたんだ!』

「へ?」

「ナギ」


 ナスは飛び跳ねるのをやめ座っている僕の頬に鼻先を擦り付けてくる。くすぐったい。


「ぴー。ナギ。ぴー」


 あれ? そういえばぴー以外にも音が聞こえてる?


「え、ちょっと待って。一旦能力切るから」


 自動翻訳を切りナスにもう一度僕の名前を呼んでもらう。


「ぴー! ナギ!」

「おおおおおおっ! ナス言葉覚えたの!?」

「ぴー! ナギ! ぴぁ……は……みゃ……みゅ……りゅ……や……ら……らい……さい……しい……すい……すき……すき。すき! ナギ、すき!」

「ああ、わかる。分かるよナス。好きって言ってくれたんだよね? すごい。すごいよ!」

「ぴー!」

「どうして突然喋れるようになったんでしょう……」

『すごいねー』

「声がナギさんに少し似ている気がしますねぇ」


 とりあえず自動翻訳をオンにし直す。


「ナス凄いなー。固有能力使ったの?」

「ぴー!」

「はは、そっかぁ。凄いなぁナスは。これなら僕以外とも意思の疎通ができるようになるね」

「ぴ~」

「でもどうして急に喋ろうって思ったの?」

「ぴー」


 話を聞くとどうやらバオウルフの話をした時から考えていたらしい。

 バオウルフは人と話す事の出来る魔獣らしい。同じ魔獣なのだから自分もできるのではないか。いや、むしろ自分には音を操る能力があるのだからより簡単に、自分の声を加工すれば話が出来るのではないかと考えたらしい。

 幸い言葉は僕を通して何となく単語は理解はしているから試す事が出来たみたいだ。

 迂闊だったな。僕はナスの言っている事が分かるからナスに言葉を教えるという発想が無かった。

 折角の僕とナス固有能力なのに何という宝の持ち腐れ。こんなにも相性が良かったなんて!

 ナスが他の皆と話せるようになればナスの固有能力だって大幅に利便性が上がるというのに何をしていたんだ僕は!。

 これはもう光を操る力の方も考える必要があるな。

 まぁなんにせよ……。


「ナス。これから一杯言葉覚えれば、アイネやルイスとも話せるようになるね」

「ぴー!」

『わたしともおしゃべりできるね!』

「ごめんライチー。ナスは妖精語分からないよ」

『がーん!』

「公用語覚えましょうね」

「それにしても喋れるようになるなんてやるわね」

「賢い賢い」


 いきなり石の中にいたサラサとディアナが上半身だけを出してきた。

 感心したような顔で二人はまだ僕にくっついているナスを撫で始める。


「そういえばバオウルフ様は魔力(マナ)を操って喋ってるからアースももしかしたら喋れるようになるんじゃないかしら?」

「ヒビキも覚えられるかも」

「どうでしょう。ナスがこんなに早く話せるようになったのは固有能力のお陰ですし」


 アースの方を見てみる。

 アースは今ヒビキを鼻先で転がして遊んでいる。

 楽しんでいるのはヒビキの方だ。アースの方は何というか慈愛に満ちた目でヒビキの事を見ている。まるで赤ん坊が高い高いされて喜んでいるのを見るかのような目だ。多分。


「ぴーぴー」


 ナスが言葉を教えてと強請ってくる。


「はいはい。じゃあライチーと一緒にお勉強しようか」

『え』

「いいじゃない。私も教えてあげるわ」

「ふっふっふ。覚悟するがいいー」

『ええー!?』


 こうしてお勉強会が休憩時間に開かれるようになった。

 アースとヒビキにも教えようとしたんだけれど、アースは興味が無いらしく教えようとするとすぐに寝入ってしまう。

 ヒビキは一応話は聞くのだけど、すぐに退屈になってこちらも寝てしまう。

 何度か試したのだが結果は変わらなかった。

 勉強を嫌がっていたライチーは他の精霊二人に半ば強制されナスと一緒に勉強を続けた。

 しかし、学ぶ事に意欲的なナスは次々と言葉を覚え、少しずつだが皆と話せるようになった。

 その所為でライチーがディアナにからかわれているのが少し可哀そうだったが、フェアチャイルドさんがフォローしているので大丈夫だろう。




 言葉と共に僕はナスにもう一つ固有能力を使った能力を教える事にした。


「ナス。君の固有能力は電気、音、光を操る事が出来る」

「ぴー」


 言葉を覚えてもナスは僕と話す時は自分本来の鳴き声で話す。その方が楽らしい。

 まだ長い単語は苦手らしくフェアチャイルドさんの事はレナスと名前の方で呼んでいる。


「この中の光について君に試して欲しい事があるんだ」

「ぴ!」

「ナスにはまずこれを見て欲しい」


 僕は手の平に二種類の氷を作った。透明度は限りなく高い。

 そして二つの氷をナスの目の前にかざす。


「ナス、右の方は写る僕の手が大きくなって左の方は小さくなるのがわかるかな」

「ぴー」


 作り出した氷は凸レンズと凹レンズの形をしている。

 これはあくまでもこれから試して貰う事を説明するための物だ。

 果たしてもはやうろ覚えの僕の知識できちんと説明出来るだろうか。

 次に凸レンズと凹レンズの図を地面に描く。


「いいかい。右の凸レンズって言うんだけど、こっちが物が大きく見えた氷を半分に切った時の断面図だよ」


 実際にもう一つ半分だけの凸レンズを作って断面図をナスに見せた。

 ナスは氷の断面図と地面に描いた図を見てぴーと鳴いた。

 凹レンズの方も同じようにしてナスに理解させる。


「さて、また少し話は変わるけど、今の事は忘れないでね。

 次は目に映る景色についてだ。目はね、物に反射した光を受け取って景色を認識するんだ。

 例えば僕。ナスには黒い髪とそうじゃない肌や目が見えているよね?

 人間の見える光には大きく分けて赤青黄の色があって、それぞれの反射の仕方で見える色が違うんだ」


 もしかしたらナスと人間とでは見えている色が違うかもしれないけど、そんな事まで考慮に入れたら僕には説明できないのであえて三原色で通す。


「例えば僕の黒い髪はすべての光を吸収するからこういう色に見える。

 僕の紫の目は黄色の光を吸収して、残りの赤と青を反射するから二つの色がまじりあって紫に見えるんだ。

 ここまではわかる?」

「ぴー」

「そっか。やっぱりナスは頭がいいね。続けるよ。

 反射された光がさっきの一本線なんだ。この光は基本的にまっすぐ進む。けど、この氷や水みたいな透明の物体に当たると反射され切れずに光が当たった面の角度に従って曲がって進んでいくんだ」


 先ほど描いた凸レンズの図の上の方に真っ直ぐに線を伸ばし、凸レンズの中心線の所で光の線を曲げる。

 下の方にも線を入れ、上の線とは逆の方向に線を曲げる。


「この二本の線の交差している所がナスが見ている地点だと思って。 何もなかったら線は真っ直ぐ進むけれど、この凸レンズを挟む事によって光は曲がって集まって拡大されて見えるんだ。

 凹レンズの方はこれの逆だね。こういう風に光は拡散されて物が小さく見えるんだ」

「ぴぃ~」

「よく分からない? ……ごめん。僕もこれ以上は説明できないよ。

 ただナスに試して欲しいのはこの光を曲げる事なんだ。

 光を曲げて集中させると物が拡大されて見える。逆にすれば小さく見えるって事が分かってもらえばいい」

「ぴー!」

「……レナスさん。理解できましたかぁ?」

「少しは……多分理解できないのは前提条件が分かっていないからだと思います。言っている事自体はそんなに難しい事ではないので。恐らくナギさんも完全に理解している訳ではないんじゃないでしょうか?」


 二人のいない所でやった方が良かったかなぁ。


「注意して欲しいのは太陽や光に向かって使ったら駄目って事。最初は地面に向いて試そうか。後光を操るのは少しずつゆっくりとやる事。わかった?」

「ぴー!」

「目が痛くなったりなんか変だなって思ったらすぐにやめて僕に報告するんだよ?」

「ぴー!」

「じゃあ試そうか」

「ぴー」




 ナスとの実験は成功に終わった。屈折させる光の量の調整が時間がかかった位で虫眼鏡の様に物を拡大させて見る事が出来るようになった。

 むしろ余計な物を通さないし調整もできる為虫眼鏡よりもはっきりと見える。

 応用として屈折点を二つ作り望遠鏡の様にしてさらに遠くの景色まで見えるようになった。

 さらに固有能力ならではというか、屈折を操り鏡に反射させる必要も無く視点を動かさなくてもあらゆる角度から周囲を見れるようになった。

 ただ、欠点というか制限があり、光を屈折させる事が出来る範囲は狭くこの国の距離の単位で言う所の大体半径五ハトルの円形の範囲までだ。

 ちなみに前世の単位と比べて表すとメートルがハトル。ミリメートルがマコハトル、センチメートルがデコハトル、キロメートルがリコハトルとなる。

 細かい長さが前世と一緒かまでは分からない。翻訳されない以上は違うと考える方が自然かもしれないが。

 おまけの実験で光の屈折でナスの身体を光学迷彩の様に見えなくする事もやってみた。

 結果は上々。目を何の工夫もなく完全に隠すと見えなくなってしまうが、目元だけ細かく光を屈折させれば問題はない。触られる事が無い限りはナスは音を操る事も出来る為発見する事は難しいだろう。

 さらに光の収束による発火も確認した。電気の他にも発火まで使えるとか……。

 ナスの強化具合がヤバイ。

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