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ナビィカット

 授業が終わり放課後になると僕はアールスに先に寮に帰る様にいい、一人市場へと向かった。

 市場は街の北東の区画にあり、学校とは真逆の位置にある。学校からは歩いて一時間半ほどかかる。

 市場には買い物客であふれていた。やはり時間帯のせいか女性の客が多い。

 僕は数あるお店の中から目的の店を探す……のだが、人が多すぎて店がよく見えない。これでは見つけ出すのに時間がかかってしまう。

 しかし、僕には奥の手がある。

 適当に空いてる店の軒先にき、売り子の人に銅貨を数枚見せてからの。


「あっぷる、ひとつください」


 舌足らずに言うのがポイントだ。この世界でこんな舌足らずな子なんて見た事はないが、所詮相手は大人。子供の愛らしさには勝てまい!


「あら~、ごめんね~うちじゃあアップルは取り扱ってないのよ」

「え……」


 ちょっと悲しそうに売り子さんを見上げる。すると売り子さんは慌てて他の店を指差した。


「あ、アップルはあっちのお店に売っているはずよ」

「ほんとう?」


 ちょっと首を傾げて聞き返す。


「本当だよ~」

「ありがとう。おねえちゃん」


 必要な情報は聞けた。手を振ってその場を離れて示された店へ向かう。

 売り子のお姉さんの言う通りアップルが山のように置いてある。アップル以外にも見た事のない果物が沢山ある。しかし、用があるのはアップルだけだ。

 さすがに今回は売り子のお爺さんに普通に話しかける。


「すみません。アップル一つください」

「あいよ。一つ銅貨五枚な。お嬢ちゃんお使いかい?」


 神託が降りた。ここは媚を売る所だと。


「いえ、友達が病気になったので、大好きなアップルを食べれば早く元気になるかなって……」


 そういいつつ銅貨五枚をお爺さんにわたす。


「そうかい……お友達がねぇ。ほら、持っていきな」


 お爺さんは僕に二個のアップルを渡してきた。

 計画通り。


「え……でも……」

「いいからいいから。おまけしてあげるよ。それ食べて、早く元気になってもらいな」

「ありがとうございます!」


 次来る時はフェアチャイルドさんの元気な姿を見せよう。

 流石に蜂蜜を探す時間はないかな。蜂蜜あればアップルはもっとおいしくなるのに。次の休みに探しに行こうかな?




 さて、僕がアップルを買ったのは当然フェアチャイルドさんにあげるためだ。しかし、フェアチャイルドさんの食は細い。間食なんてできないかもしれない。

 とりあえず寮に戻った僕は早速フェアチャイルドさんの様子を見に行くことにした。

 部屋に戻るとアールスがフェアチャイルドさんのおでこのタオルを変えている所だった。


「どう? フェアチャイルドさんの様子」

「あっ、お帰り。熱は下がってきたみたいだけど……」

「お帰り……なさい」

「起きてたんだ?」

「さっき起きたばっかりだよ。お昼も食べてないみたい」

「そっか。アップル買ってきたけど食べる?」

「あっぷる……?」


 手に持っていたアップルをフェアチャイルドさんに見せる。


「好きでしょ? お腹空いてる?」

「……はい」


 じっとアップルの方を見てる。ふふ、相当好きなんだな。


「じゃあ夕飯の前だけど少し食べようか。切ってくるね」

「はい……」


 やはりアップルと言ったらウサギカットだろう。いや、こっちじゃナビィカットかな?

 僕はフェアチャイルドさんの喜ぶ顔を想像しながら調理場へと向かった。

 ……迂闊だった。

 こんなのちょっと考えればわかる事だった。夕飯前の調理場が修羅場だという事はコーラを飲んだらげっぷをするくらい当然の事じゃないか!

 どうする? 手の空いてそうな人に頼むか? 駄目だ。そんな人見つからない。勇気を出して頼むか? フェアチャイルドさんが待ってる。行かなくちゃ。逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ……。


「す、すみません!」


 あ……もれそう。


「ん? どうしたんだい?」


 近くにいたおばちゃんが僕に気付いてくれた。


「ぼ、僕に包丁とお皿を貸してください! あ、あとまな板も!」

「ええ? そんな物どうするんだい?」

「こ、このアップルを切ります! 大丈夫です! お母さんに習いました!」

「そのアップル今から食べるのかい?」


 おばちゃんが眉をひそめた。それはそうか。これから夕飯だって言うのに自分達が作った物を差し置いて食べようと言うのだから。


「あの……具合の悪い友達が好きなんです……これ食べたら早く良くなるかなって」


 そういうとおばちゃんの表情が柔らかい物になった。


「ああ、話は聞いているよ。それだったらスープも用意してあるから一緒に持って行ってやるといい」

「! ありがとうございます!」

「ただ切るのはおばさんが見てるからね」


 自分でやると言われないのなら問題ない。

 僕はさっそくおばちゃんから台所の一部と土台を借りてアップルの切り分けを行う。まずはアップルを綺麗に洗ってから半分に切る。半分に切った片方は置いといてもう片方を四等分にする。

 四等分にしたアップルから芯を取って皮にVの字の切れ込みを入れる。そして、Vの上の方から薄く剥き、三角になっている皮の部分を剥がせば完成だ。


「おや、器用だねぇ。なんだいそれ?」

「ナビィです。僕の村の周りによくいたんです」

「ああ、見た事あるよ。でかくて白くて耳の長いかわいい動物だね」

「はい」


 丸々残ってる方は明日かフェアチャイルドさんの夜食にすればいい。

 残った半分もナビィカットにして完了だ。

 おばちゃんからトレイとスプーン、スープの入ったお皿、アップルを載せるお皿を貰った。

 トレイごとそれらを運び部屋に戻るとレノア先生がいた。


「先生?」

「あら、フェアチャイルドさんの御飯持ってきてくれたの?」

「はい」


 フェアチャイルドさんは上半身を起こして待っていた。


「溢さない様に気を付けてね」


 トレイを慎重に渡す。


「ありがとうございます……」

「丸々残ってるアップルはお腹が減った時に食べてね。食べにくかったら切ってくるけど」

「大丈夫です……」


 フェアチャイルドさんの瞳が潤んでいるように見える。喜んでくれているのかな?


「この切ってあるアップル、変わった飾りね?」

「あっ、それはナビィの形に切ってあるんです」

「ナビィ?ああ、あの……」

「ナギすごーい! かわいいねレナスちゃん!」

「すごく、かわいいです……」


 二人とも喜んでくれてるな。素直に喜んでくれて僕もうれしいよ。


「ねっねっ、レナスちゃん。私も一個食べていい?」

「はい……いいですよ」

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