閑話 ビギニングヒート
わたちは山に住んでいた。お父さんとお母さんと仲間達と楽しく暮らしていた。
山には白くて羽の大きな親分が住んでいてわたち達を嫌な奴らから守ってくれていた。
平和に毎日を過ごしていた。
でもある時親分はいなくなって嫌な奴らが山を荒らしにやって来た。
わたちとお父さんとお母さんと仲間達は逃げた。必死になって山から逃げた。
追いつかれそうになった時お父さんが嫌な奴らに向かって行った。
わたちは怖くて振り返る事が出来なかった。
わたちは追いつかれない様に逃げた。
お母さんが転んだから起こそうとしたら威嚇された。すごく怖かった。早く逃げろと何度も怒られた。
わたちは一人になるのは怖かったけどお母さんの言う通りにするしかなかった。だって嫌な奴らが迫ってきてたから。
怖くて怖くてわたちはひたすら逃げた。
気が付くとわたちは一羽になっていた。
何もない荒れた地にわたちは一羽でいた。
そこでわたちは泣いた。寂しくて泣いた。一人になった事に泣いた。お父さんが助けてくれた事に泣いた。お母さんを見捨てた事に一杯一杯泣いた。
泣き疲れて眠った後わたちは歩いた。嫌な奴らから逃げる為に来た方向とは逆の方に。
時々嫌な奴らじゃない奴らの縄張りに入って怒られたり追いかけられたりした。
仲良くしたくても誰も相手にしてくれなかった。
仕方ないから歩いた。何度も空が暗くなって、何度も空が明るくなってもわたちは歩き続けた。
泣いても誰もわたちのそばにはいない。
寂しいよ。寂しいよ。誰か傍に居てよ。
どれぐらい明るいのと暗いのが繰り返したのか分からないくらい時が経った時、わたちは嫌な奴らが沢山いるのを見つけた。岩の壁に向かって攻撃してる。
またあいつらは山を荒らしてるんだ。そう考えた瞬間わたちは火を纏い空を飛んだ。
わたちからお父さんとお母さんと仲間達を奪った嫌な奴ら。許せない。返して。わたちのお父さんを返して! わたちのお母さんを返して! わたちの仲間を返して! わたち達の山を返して!
……気づいたら嫌な奴らはいなくなってた。でもわたちの傍には誰もいない。
寂しいよ……お父さんお母さん寂しいよ!
どうしてわたちは一羽なの!?
どうちて一緒にいてくれなかったの!?
どうしてわたちだけ逃がしてくれたの!?
寂しいよ! 誰か傍に居てよ!
「寂しいなら! 僕の所に来い!」
突然聞こえてきた声。聞いた事もない鳴き声だけど意味は分かる。
いいの? 傍に寄っていいの?
声の主を探してみると不思議な感じがする方向があった。
わたちは真っ直ぐ不思議な感じのする場所へ向かった。
そして、わたちを待っていたのは大きな動物と小さな動物だ。小さな動物は嫌な奴らに襲われてたのと同じ形をしてる。
小さな動物は大きな動物から降りてわたちの方に前足を差し出してきた。
「僕が一緒にいる。だから泣かないで?」
本当に?
「本当だよ」
その鳴き声にわたちは歓喜した。もう一羽じゃなくていいんだ。わたちの傍に居てくれるんだ。
もう泣かなくていいんだ。