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拭えぬ違和感

 宝くじが当たった。

 当選額は5億円だ。


 俺はアパートで当選した宝くじとにらめっこをしている。

 

 喜ばしいことなのだろうが、俺には恐怖でしかない。

 何故なら当たるはずが無いのだから。

 

 確かに俺は宝くじを買った、だから幸運さえあれば当たることもあるだろう。

 特に最近幸運のパラメータが上がっているので当選するのは当然と言える。

 だがステータスから過去の記憶をいくら辿っても買ったときの記憶が無いのだ。


 まただ、ここ最近現在の記憶とステータスの記憶で齟齬が頻発している。

 確かに齟齬があることはこれまでも有ったが、ここまで高い頻度かつ間違えようの無いことで発生することは無かった。


 俺はここ最近発生した齟齬を羅列してみる。

  ・便所の一件で尿意が無いにも関わらず、ステータスは尿意有りと表示していた

  ・便所の一件で気絶したとき、うたた寝したと思っていたが、履歴では殴られて気絶したことになっていた

  ・元々顔は良かったにも関わらず、過去のステータスでは容姿の数値が低かった

  ・宝くじを買った記憶があるにも関わらず、ステータスの記憶には買った時の記憶が存在しない

 

 明らかに不自然だ。

 俺はステータスに関しては絶対の信頼を置いている。実際これまでの人生で俺自身が間違っていたとしてもステータスが間違っていたことは無かった。

 だから、俺の記憶違いの可能性が高いが、現実に宝くじが目の前に有る。


 他にも容姿だ、顔が変わっていないのに数値だけ上がるなんて事があるのか?

 それでは過去のステータスは数値を正しく表示出来ていなかったことになる。

 そこまで考えて俺は過去の自分の顔をステータスから確認していないことに気付く。

 急いで高校入学時の俺の顔をステータスの記憶から引っ張ってくる。

 

 「誰だよ、これ・・・・・・・・・」


 俺は絶句する。

 

 ステータスから出てきた記憶の顔は、現在の俺とは似ても似つかない。

 いやそれだけなら構わない、ステータスの数値が変わっているのだから顔が変わっているのは当然だ。

 問題なのは過去の俺の顔を俺が自分の顔だと思えないことにある。


 つまり現在の俺は過去にこのような顔ではなかったと記憶しているのだ。


 そこまで考えて俺の頭にある仮説が浮かんでくる。

 余りにも突飛な仮設だが、現在の状況を全て説明することが出来る。

 そして俺のステータス表示がとんでも無いスキルである可能性が出てくる。炎を出したり、空を飛んだりなどこのスキルに比べれば児戯でしかない。石版と量子演算コンピュータ位の開きが存在する。


 まずい!仮設が正しければ、いや間違っていたとしてもこんな状況に出来る女なんて相手にすべきではない。

 俺は金と数日分の衣類と貴重品を鞄に詰め込むと部屋を飛び出す。

 

 「兎に角遠くへ!!あの女の居ない所へ!!」

 

 俺は焦りのあまり考えていたことが口から出てしまった。

 急いで駅に向かい近くの主要駅に行く列車に飛び乗る。 

 主要駅に着くとすぐさま一番遠くまで行く新幹線の切符を購入する。

 

 「列車早く来いよ・・・・・」


 ダイヤ通り動いているにも関わらず、焦りのあまりそんなことが口から出てくる。

 そもそも仮設が正しかったとしたら、距離をとること自体が無意味な可能性がある。

 だがそれでも俺の心が早くここから離れたいと焦らせる。


 到着した新幹線に乗り、シートに腰掛けると少し安心した。

 ここ数日のことを考え直すとステータスの記憶との齟齬以外にもおかしなところが多い。

 そもそも柊美雪に付きまとわれたからといって、俺は女子にあんな悪態を吐く事はまず無い。ありえないとは言わないが、普段の俺からするとほぼ無いと言える。


 決定的なのは中野の事だ。


 確かに俺は人殺しも生きていく上で必要であれば実行するだろう。倫理観や道徳は利用するもので、俺がそれに左右されないようにするという考えの下生きてきた。だから人殺しも場合によってはするし、今回も対策案の一つとして人殺しが挙がるのは当然だ。だが案として挙がるだけで採用されることは無い、リスクが高すぎる。ストレスがあったとしても相当なことが無ければ選択することは無く、今回のケースでは選ばれることはまず無い。

 それにも関わらず俺はそれを選択した。


 だがこの件も仮設が正しければ説明が出来る。

 そしてこれまでのことからその仮説がまず正しいことも理解している。


 だからこそ嫌だった。

 いっそ仮設が俺の妄想でしか無い方が遥かにましだ。

 

 今後の逃走経路を考えていると新幹線の終着駅に到着する。

 

 駅近くのネットカフェに入り、シャワーを浴びる。

 熱めのお湯を頭から浴びて落ち着いてくる。

 これなら何とか眠れそうだ。


 シャワーを出て自分のブースに入ると、リクライニングチェアに腰掛け、毛布をかけると眼を閉じた。

 

 「恐らくこうやって逃げても無駄なんだろうけどな・・・・・」


 そう呟くと眠りに着いた。

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