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柊 美雪

 俺のクラスには柊美雪という女子が居る。

 見た目が良いので男子に人気がある。

 長いストレートの黒髪、大きな瞳、整った顔、白く滑らかな肌、大きな胸と尻、くびれた腰、しなやかで長い足。おまけに旧家のお嬢様と来ている。

 まあ、羅列した内容からも男子の人気が分かるだろう。俺も綺麗だとは思うが、関わり合いたくは無いと考えている。何故かは分からない、感覚的なものだろう。

 

 そんな柊は男子生徒の中野に話かけられている。

 時間は放課後、授業を終えたクラスメイトは部活に行ったり、教室で駄弁っている。

 柊も友達の女子と話していたが、中野が割り込んできたのだ。

 「柊さんもあそこのケーキ好きなんだ、俺も良く行くんだよ。今度一緒に行こうぜ。」

 中野の言葉に曖昧な返事をする柊。

 中野はいわゆる「チャラい」という表現がぴったりの男だ。

 何時も男友達を教室で大声で話していて、俺は何時も鬱陶しいと思っている。

 「おい橘なにじろじろ見てんだよ、気持ちワリいからどっか行け!!」

 ただチャラく騒がしいだけであれば問題ないが、このように事有る毎に俺に絡んでくる。「孤児の癖に」「成績だけ良い根暗」など俺に対する悪口を隠そうともしない。

 虐めだと騒いでやりたいところだが、父親が市議会の議員で母親がPTAの会長だ。俺の立場が一方的に悪くなるだけだろう。

 俺の他にも因縁をつけられて、退学に至った同級生も居る。明らかな虐めだったが親の威光で、虐められた側が悪いことにされてしまった。

 地味な異能を持つ以外は至って平均的な俺としては、ただ黙ってやり過ごすしかない相手と言うことだ。

 俺は読みかけの文庫本を取り出し教室を出て行く。

 バイトは今は15時、バイトまではしばらく時間がある。どこか静かな場所で時間を潰そう。


 人気の少ない校舎裏のベンチを見つけ、腰掛けると文庫本を開く。

 最近マキャベリにはまって読み始めた「ローマ史論」だ。既に「君主論」は読んだ。

 

 理解し辛い文章をつまずきつつ読み進める。

 読みづらいのは原文が古いからか、翻訳の問題のどちらだろうか?

 

 バイトの時間が近づいてきたので文庫本を閉じる。

 ステータスを開いて、まだ少し時間があるのでどうしようかと考える。


 名前  :橘 悟

 年齢  :16

 身長  :175

 体重  :63

 力   :105

 速さ  :110

 賢さ  :102

 容姿  :98

 幸運  :43

 体力  :110/130

 状態異常:眼精疲労(低)

      尿意(中)

 外傷  :左手薬指にささくれ

 技能  :二輪自動車運転技能 


 状態異常欄に尿意が出ている。

 (バイトに行く前に便所でも行くか。)

 感覚的には尿意を感じていないのでおかしいなと思いつつも、ステータスを信頼している俺は念のため便所に行くことにする。

 ずっと疑問なのだが、何故か尿意も状態異常に含まれる。

 どうも何もない完全なニュートラル状態を、「状態異常無し」と判断しているらしく、「寒気」「暑気」なども状態異常に表示される。

 (何年使っても完全に理解しきれない能力だな)

 そう思いつつ近くの校舎に入り、便所に向かう。

 普段は部活の生徒で騒がしい校舎なのだが、偶々なのか今は人気が無い。

 

 男子便所に入ると個室の方からおかしな音がする。

 (誰か入っているのか?)

 トイレの入り口から中を見ると、個室のドアは全て開いており、誰かが使用中というわけではない。

 「あんっ・・うんっ・・・」

 くぐもった女の声が聞こえてくる。

 何が起こっているか、大体の予想がついた。

 面倒ごとを避けるというのであれば、何も聞かなかったことにして立ち去るべきだろう。

 だが好奇心が勝った。

 いや、好奇心と性欲が勝ったというべきだろう。

 

 俺は中に入ると個室を覗く。


 中には柊美雪が居た・・・・


 居ただけなら問題無かったが、いやそれも大問題だが、よりにもよって予想通り自慰をしていた。

 

 「きっ・・・・きゃあ!!」

 柊は叫ぶと近くに置いていた鞄を掴み、俺の顎を鞄で殴りつけた。

 衝撃と共に俺の意識は遠退いた・・・・

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