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わがまま彼女のお世話は大変!

「朝か……」

目をこすりながら、城風佳太(しろかざけいた)がベッドから重い体を起こす。

時計を見ると、まだ6時にもなっていない。

「流石に眠いな……」

そう言いながらも、佳太は頬を叩いて、眠気を吹き飛ばした。

「とりあえず、着替えるか」

椅子に掛けてある制服に着替えて、もう一度時計を見る。

時計は、6時10分を指していた。

「そろそろあいつを起こすか……」

そう言って自分の部屋から廊下に出る。

廊下では、1人のメイドが掃除をしていた。

メイドはこちらに気がついた様子で、近付いてきた。

「おはようございます、佳太くん」

この人こそ、この家で唯一のメイドであり、料理長もこなしているスーパー使用人の光希(みき)さんだ。

「あ、おはようございます、光希さん」

軽く会釈をして、すぐさま用事を済ませて行きたいのだが、光希さんは、この家で1番怖いと言われているから、回避はできなさそうだ。

一体どこからそんな恐ろしい力が出てくるのだろう。

やはり光希さんは恐い。

5分位がたっただろうか。

光希が、時計を確認する。

「あ、そろそろ朝食の支度をしなくちゃ。それじゃあ失礼します」

「あ、はい」

そう言ってキッチンの方にそそくさっと消えてしまった。

「さて、急ぐか」

そう言って、廊下の奥にある部屋の扉の前に立ち止まる。

ふぅっ、と大きく頷いた息を吐く。

この部屋の向こうには、大善寺財閥の御令嬢で、佳太がお世話係を命じられた大善寺響香(だいぜんじきょうか)が眠っている。

佳太と響香は小さい頃からの幼馴染みで、いつも一緒にいた。

佳太の両親が、10年前に事故で亡くなった際に、佳太を引き取ってくれたのも、響香が母、明美(あけみ)に頼んでくれたからだ。

大善寺財閥は、元々、響香の父、大善寺光(だいぜんじみつる)が10年以上も前に立ち上げた小さな企業で、経営状況は中の下と、あまり良くは無かったらしい。

しかも、5年前に光が病死した際には、内部で混乱が起き、経営状況はさらに悪化した。

だか、そんな状況を打破したのが、4年前に2代目社長に就任した、響香の母、明美である。

明美が光から社長の座を受け継いだ翌年には、経営状況が、一気に右肩上がりになり、それから3年がたった今では数々のビジネスを手掛ける、世界規模の会社にまで立て直した。

しかし、家に帰るとその姿は変貌し、時折佳太を誘惑してからかうような無邪気な一面もあり、佳太もそれには困り果てている。

それでも親のいない佳太にとっては本当の母の様な存在である。

佳太も、響香と明美には、本当に感謝している。

ふと、そんな事を思いながら、改めてゆっくり深呼吸する。

「響香、入るぞ」

ガチャッ、と音を立てて、部屋に入る。

すると、佳太は思わずぞっとした。

「またこれか……」

見ると部屋の中は、数百個の熊やパンダのぬいぐるみが、とても可愛らしく置いてあった。

これが女子の部屋なのだろうか。

「とりあえず、いつも通りこの中から探すか……」

恐る恐る、中に入る。

まるでぬいぐるみに見られているような気がして、背中に変な汗をかく。

「ここまで来ると、最早ホラーだろ」

そう言って、部屋の真ん中辺りまで来た時に、正面のに散らかったぬいぐるみの山から何かが動いた様な物音がしたので、思わず、ドキッとしてしまった。

「おーい、響香ー、起きてるかー?」

返事がない。

「嘘だろ……」

そう言って正面のぬいぐるみの山に目を向ける。

「仕方ないか……」

恐る恐る、山の中に手を入れる。

すると、何かに触れた様な感触を感じたと同時に、ぬいぐるみの山が一気に崩れた。

「あっぶねー、何だよ急に」

崩れた山の方に目を向けると、めまぐるしい人形の中で、響香が気持ち良さそうに、笑顔を浮かべて寝ていた。

「何だよ、響香か」

ほっ、とため息をつく。

「ん……、熊さん……」

屈託の無い笑顔がなんとも可愛らしい。

「おーい、響香ー、起きろー」

「……」

佳太の言葉を聞いて響香が不満そうな顔をしている。

おそらく起きているのだが、佳太を試しているのだと思う。

「はぁ……、仕方ない、もうアレしか無いか」

そう言って、寝ている響香の耳元に口を近づける。

「お嬢様、起きてください。起きなければ、お嬢様をめちゃくちゃにしてしまいますよ?」

と、耳元で囁いた瞬間、顔を真っ赤にして響香がベッドから目を覚ました。

「おはようございます、お嬢様」

してやったりと言うような表情が自分でもわかる。

「全く、起こし方が少しズル過ぎるぞ」

顔を真っ赤にした響香が佳太を上目遣いで見てくる。

「寝ているフリをしているお嬢様の方が、ズルいと思いますよ?」

少しドキッとしたが、冷静さを装う。

「ふっ、やはりバレていたか」

やはり起きていたか、と思いながらも口にはしなかった。

「当たり前でございます」

「その口調で話すのはよしてくれといつも言っているだろう、佳太」

「ははっ。わかったよ。あ、朝飯もう出来るから早く着替えろよ?」

「わかった、すぐに行く」

「それじゃあ、外で待っとくよ」

「うむ。あ、そうだ。おい、佳太」

「何だよ?」

「くれぐれも、私の裸を覗いたり、私の脱いだ下着で変な想像をするなよ?」

響香がニヤリとした表情で、佳太をみる。

「なっ、当たり前だろ!」

思わず、ドキッとしてしまう。

「ほう。ならいいのだが」

「はっ、早く準備しろよ」

焦る気持ちを抑えきれず、口調がおかしくなる。

「わかっている」

その時、響香がくすりと笑った気がしたが、気のせいかもしれないとあまり気にしなかった。

こんな事で、この先やっていけるのか心配になって行きながら、着替え終わった響香とダイニングに向かって行った。

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