第八話:契約
どのくらい意識を失っていたのだろう。目覚めると、俺は病室の様な場所のベッドで寝ていた。確信が持てないのは、ここが霊界か、現世なのかわからないからだ。
「お気づきになられました?」
真っ白な着物に、人なんかよりずっと白い肌をした、女性が俺に問いかけてくる。
「あの、ここは?」
「ここは、閻魔城医務室です。ちょっと待っててくださいね。今、龍王様と九尾様をお呼び致しますので。」
そう言うと、その女性は医務室から出て行った。それにしても、死んだ後にまで医者にかかるとは思わなかった。
しばらく待っていると、龍王さんと九尾がやってきた。
「ダイジョーブー!?」
九尾がいきなり、ダイブしてきた。
-デジャビュ!?九尾てめぇ、いい度胸してるじゃねぇか!
「狐宮殿、落ち着いて下さい!」
俺はすごく怖い顔をしていたのか、必死でなだめてくる龍王さん。
-落ち着け、俺!
俺は深呼吸をする。
「いい香りでしょう。アロマテラピーの効果がある香水塗ったんだー!」
俺は九尾を完全無視して、話を進める。
「俺は、合格したんでしょうか」
「もちろん、合格だよ」
龍王さんは、まじめに返してくれた。俺はほっとして言う。
「よかった。俺は生き返れるんですね」
「ちょっ・・・」
「ええ」
「あのひとついいですか?」
「何ですか、狐宮殿?」
「無視しないで!」
それでも無視して、話を進める俺と龍王さん。
「龍王さんはいいとして、九尾とも契約をしなくてはいけないんですか?」
「残念ながら。申し訳ない」
真剣な表情で謝罪する龍王さん。
-本当に誠実だなぁ
「ちょっと待ってよ!私じゃ不満なの?」
俺は真剣な表情で答える。
「不満だよ。九尾、お前は話の流れは読まないし、性格めちゃくちゃ不安定じゃねぇか。多重人格かなんかか?」
「う!何でそれを・・・ってそんなわけあるか!」
「それじゃさ、少しは、話の流れとか、場の雰囲気とか読んで?」
「あのねぇ、私だって考えた上で・・・、なによ?」
俺はじと目で九尾を見ながら、質問した。
「この部屋はどこでしょう?」
「は?医務室よ。医務室。」
「それじゃ、俺は?」
「狐宮龍弥?」
「何で疑問形なんだ?それにはずれ」
「うーん、患者・・・」
「そう、患者。その患者にお前は何をした?」
「・・・ごめんなさい」
俺はため息をつきながら言った。
「はぁ。九尾、現世の俺の周りにはお前のようなやつが、もう2人もいるんだよ。これ以上負担が増えると・・・」
「わかったわよ。もう、ふざけないわよ。」
いじけてしまう九尾。
「極端だな。だから、場の雰囲気と話の流れさえ壊さなければ、ギャグに走ってもいいから」
ぱーっと、顔を明るくする九尾。
「いいの?本当に、いいの?」
「いいけど。場の・・・」
「わーい!ありがとう!」
はしゃぎまくる九尾。俺は、下を向き、ガクッと肩を落とす。
-九尾、こりゃわかってないな。さらば、俺の平和な日々・・・
「自信は無いが、私もサポートするから、そんなに絶望しないでくれ」
-それが心配なんですけど・・・
龍王さんが暴走を見た後なので、心配せずにいられない。
俺は話題を変えた。
「それで、契約はいつすればいいんですか?」
「ん?もう終わってるよ」
九尾がきょとんとして言う。
「へぇ、もう終わってるんですか・・・って、えー!?」
「君が寝ている間に終わらしたのだ!」
九尾はやけにハイテンションだ。
「どど、どいうことですか?」
俺は龍王さんに問いただす。龍王さんは、またもや申し訳なさそうにしながら話してくれた。
「狐宮殿、本来ならあなたが起きてから契約のはずだったのですが、全然起きる気配が無く、しかも、契約を出来る時間を過ぎてしまいそうでしたので、契約の意思もちゃんとあったことですし、契約させていただきました。」
「契約の方法って?」
龍王さんが、点滴のパックを指差しながら言う。
「輸血です。私の血液と九尾の血液をあなたに輸血しました。それが契約です。契約のしるしとしてあなたの右腕には、狐を模した紋章が、あなたの目には薄っすらと龍の文字が入っているはずです」
右腕を見てみると、確かに刺青のようなものがあり、差し出された鏡を見ると右目に薄っすらと龍の文字が見える。
「その紋章と龍の文字は現世では、霊感の強い人以外見えませんからお気になさらないで下さい」
俺は無理矢理自分自身を納得させることにした。契約しなくては生き返れないんだから・・・。
「それじゃ、これから現世に戻ろう!」
九尾はハイテンションで言うと、俺の手をつかみ、猛スピードで走っていく、途中で、閻魔城で働いている鬼の何体かにぶつかりそうになった。医務室の一言で完全に舞い上がっているらしい。
九尾はある部屋に入るとようやく止まった。龍王さんが少し続いて部屋に入ってくる。
「待っていたよ。狐宮君」
野太い声で呼びかけてきたのは真っ赤な顔の髭をはやした大男だった。
「閻魔様、お待たせいたしました」
龍王さんが、深々と礼をしている。俺もつられて礼をする。どうやらこの男が閻魔大王らしい。
-人のよさそうな笑顔だ。本当に閻魔大王なのか?