第七話:試練その3
-何なんだよこいつらは?
もう何十回目かの投げを決めて、修羅を地面に叩きつけ、首を折る。そして、俺はすぐさま走り去る。
しかし、何事もなかったかのように、立ち上がる修羅。そして、また俺を追いかけてくる。
-くそ!出口はどこだ!?
行く手にもう一体修羅が現れ、棍棒を振りかざす。俺は相手の力を利用して投げを決め、後ろから追いかけてくる修羅にぶつける。
俺はまた走り出す。
***
30分前・・・
俺の目の前には、十体の人型の怪物がいた。その怪物たちは、血だらけで、目は白く、手には棍棒が握られていた。
『ようこそ、第三の試練会場へ・・・、契約する神もいないのによく来たな』
声がどこからか聞こえてきた。俺は思わず声をもらした。
「第三の試練って、一体!?」
『逆鬼ごっこ。君の目の前にいる者達、修羅の攻撃から逃げつつ、この闘技場の出口を目指してもらう。ただし、君から攻撃してもかまわんが・・・。早速はじめようか』
「ちょっと待て!この闘技場の地図とか無いのか!?」
『では、十秒待つ、逃げたまえ!』
「ええー!?完全無視!?・・・ええい!」
俺はすぐ後ろにあった扉から逃走を開始した。
***
「貴様ら一体何やってるんだ?」
一喝の後のその言葉を皮切りに、私と龍王は1時間にわたってお説教をくらった。
-辛かった!何でわざわざ人間に変化させて、しかも正座で一時間も、お説教なんかするのよ!あんのオヤジは!
「くっ、私としたことが・・・」
龍王はかなり反省しているようで・・・。
「こうなれば、切腹しかないか・・・」
私は呆れ顔で言う。
「・・・あんた、あほね。あれくらいで切腹してたら私はどうなるのよ?第一、切腹なんて私達がやっても意味ないでしょ」
「気持ちの問題だ」
「あっそ、ホント馬鹿だと思わない?」
龍王が怪訝な顔で聞いてくる。
「お前、誰に話しかけているんだ?」
「誰って、狐宮君に決まってるじゃない!ってあれ?狐宮君の気配がないんだけど・・・」
「!」
「闇の道の試練の扉もない!」
「!!!」
闇の道の試練の扉は、挑戦者が目的地に達すると、消える。つまり・・・。
「狐宮君、もう第三の試練会場に着いてる!どうしよー!」
「落ち着け!我々がいなければ、試練は開始されないはずだ」
「ドアホ!阿修羅の性格を考えてみなさいよ!」
「急ぐぞ!」
私達は真っ青になって修羅界の闘技場へ向かった。
***
俺は闘技場の一室に隠れていた。全身は傷だらけ、満身創痍とはまさにこのことだろう。そのかわり、運良く地図を手に入れ、闘技場の構造は大体把握できた。
-問題は、修羅のほうか・・・。
あいつ等は、人間なら行動不能や、致命傷になる攻撃を受けても、数秒で回復してくる。
-刀さえ有ればな、でも、真っ二つになっても蘇えったら、無意味だけど・・・
『坊主!力が欲しいか?』
部屋の奥から男の声がする。
「誰だ!」
『ふははは、誰でもいいだろう?力が欲しいかって聞いてるんだよ』
「ああ、欲しいね。でも、あんたは怪しいからな、あんただけには頼まん」
『強がりを言っても、俺の力が無ければここから生きて出られんぜ』
-生きて出るって、既に死んでるぞ・・・
「やってみなくちゃわかんないだろう?」
『いや、わかるね。お前さん、現世ではかなり強い部類に入るようだし、ここまでやって来たのも大したもんだ。そこは認めてやる。だがな・・・』
「わかってるさ、俺の技が全然通用しないのなんて。けど、ここで誰かに頼ったら、龍王さん達と契約した後やっていけないような感じがするんだ」
『ふははは、漢だねぇ。気に入った。どうだい、坊主!俺をここから連れ出してくれねえか?』
「なんで俺がそんなことをしなきゃいけないんだ?」
『だから、連れ出してくれたら力を貸してやるって!』
「何度も同じ事を・・・」
『お前さん、約束があるんだろう?守りたいもんがあるんだろう?絶対に、生き返らなきゃならないんだろう?それによ、時には頼ることも必要だぜ?』
-全部お見通しか・・・
「あんた、ずるいな。そんな事言われたら、断れないだろうよ。いいよ、連れてってやるよ!ただし・・・」
『わかってるさ。俺は約束は破らねぇ』
「で、あんたどこにいるんだ?」
『おう、今出て行く』
すると奥から物体が猛スピードで飛んできた。俺はそれを手でキャッチする。よく見てみると、黒い円盤だった。鎖で吊るされていて、首から掛けられるようになっている。
「?」
『これが俺だ』
「うお!?円盤がしゃべった!?」
『おう、なんだ?円盤がしゃべっちゃいけない道理でもあるってぇのか?』
「いや、普通は喋らねぇよ」
『細かいこと気にするな!』
「・・・」
-ここじゃあ、現世での常識は一切通用しないってか?まあ、途中からわかってたけど・・・
『それじゃあ、ちゃっちゃといくか!坊主!』
「ちゃんと、狐宮龍弥っていう名前があるんだけど。まあ、この際いいか。」
『良くはねぇな、親に貰った立派な名前じゃねぇか。・・・狐宮の坊主でいいか?』
「いや、長いでしょ」
『それじゃあ、たっちゃん?』
「やめろ!坊主でいい。坊主で」
『そうかい?それじゃあ坊主、俺の名を呼びな!』
俺の頭に、直接名前が伝わってきた。
「ラグナロク!」
すると、円盤が俺の背丈と同じくらいの漆黒の両刃刀に変わった。
「すげー!」
俺が素直に感心していると、足音が近づいてきた。
『どうやら気づかれたな!行くぞ坊主!』
俺は扉を蹴破り、外に飛び出る。すぐそこまで、二体の修羅が迫っていた。俺は修羅達に肉迫し、ラグナロクを横薙ぎに一閃し、修羅達を真っ二つにする。
さすがに修羅といえども復活出来ないようで、動く気配はない。
-すごい切れ味だ!それに、大きさに反して軽い!
俺は驚嘆した。現世においてこれほどまでの名刀はなかなか造れ無いのではないだろうか?
『どうだ、坊主?』
「ああ、すごいもんだな」
『そうかい?それじゃあ行くか?』
俺は、ラグナロクを円盤に戻し、首から掛けて、出口に向かった。
***
一方その頃、闘技場の一室では・・・
『阿修羅様!!大変でございます!!』
俺の使い魔が報告してくる。
「どうした?それと、試練の監視はどうした?」
『は!私が試練を監視していましたところ、挑戦者が宝物殿に忍び込んだのです!』
「別にかまわぬではないか。あそこには地図もあるし、この試練を乗り切るには、宝物殿で何か武器を見繕ったほうが有利だし、俺は何も盗むなとも言っておらん」
『しかし阿修羅様、持っていったのはよりにもよって、[ラグナロク]なのです!』
「なんだと!」
『どうやら、彼は最上級霊力の持ち主のようで・・・』
「な、なんということだ![ラグナロク]自身が主だと認めたというのか!?」
『そうとしか言いようがありません・・・』
俺は真っ青になりながら、指示を出す。
「今、彼はどこにいる?」
『霊力探知によると、今、第三階層です。』
「わかった!全ての修羅を下がらせろ!私がじきじきに奪い返す!あれは、外に出てはならぬ物なのだ!もし、私が失敗したら、解っているな?」
『承知いたしております』
俺は、出口付近の第一闘技場へ向かう。出口へ向かうには、絶対避けられない道だからだ。
-私の命に代えても、必ずあれは取り戻す!
***
二体の修羅を倒した後は、修羅が全く現れなくなった。とりあえず、進むのは楽になったが、嫌な予感がしていた。
『おい、坊主。道はあってるか?』
ラグナロクが話しかけてくる。
「何回も聞くなよ。もうそろそろ、出口付近にある第一闘技場ってところで、そこを過ぎたら出口だよ。」
『そうかい。いやあ、久しぶりの外か、楽しみだねぇ』
「なぁ、外に出たらあんたは何したいんだ?」
俺はなんとなく聞いてみた。
『いろんな物を見てぇな。色々と変わってるんだろうなぁ』
「あんたさ、一体何年くらいあそこにいたんだ?」
『なげぇこといたのは確かだが・・・、忘れちまった!』
「ふーん、そうか」
『それだけか?』
「別に、興味ねぇよ。あんたの過去になんか」
『そうかよ。それとな坊主。いい加減[あんた]呼ばわりはやめろ』
「うーんそうだな。そんじゃあ、ラグナロク!」
剣になるラグナロク。
「いちいち剣になるなよ!」
俺は円盤に戻しながら言った。
『仕方ねぇだろ!違うのにしてくれい!』
「・・・んじゃあ、ロクさんでどうだ」
『シンプルでいいねぇ。よし、それにしてくれ!』
そうしているうちに、俺達は第一闘技場に着いた。
「待っていたよ。狐宮君。」
俺達の目の前には、美しい顔をした男が立っていた。普通と違うのは、通常耳があるところも顔の正面になっている。つまり三面あり、さらに、腕が六本ある。六つの手にはそれぞれ武器が握られていた。
-この声、聞き覚えが・・・
「はじめましては変かな?一応自己紹介しておくと私が修羅界の統治者、阿修羅だ!」
「あ!思い出した!あんた、最初に俺を無視したろ!それにお前の最初の口ぶりからすると、 本当はこの試練、俺と契約するはずの龍王と九尾が到着してから、始めなきゃいけなかったんじゃねぇか?」
「ふん、そんな事など、どうでもいい」
「どうでもよくねぇ!」
「どうでもいいのだよ。それより狐宮君、取引きといこうか」
俺は苛立ちをあらわにしながら答える。
「取引き?」
「君が持っているその円盤、それを渡してくれ。そうすればこの試練クリアとしよう」
「いやだね」
「それの代わりも用意する」
「俺は約束したんだ。外に連れて行ってやるって」
「いい加減にしろ!お前はそれの力を知らんから・・・」
「力?剣に変化する能力だろ?」
「違う!それだけでは・・・」
「ええい、うるせぇなぁ!取引は決裂してんだよ!ラグナロク!」
俺はラグナロクで居合いの構えを取り、臨戦態勢にはいる。
-手数は相手のほうが上!ならば、一撃で決める!
「まったく、穏便に済ませればよかったものを!」
阿修羅も臨戦態勢に入る。
『阿修羅はかなりの強者だぜ』
「ああ、みたいだな、だけど、負ける気はしない。」
『そうか・・・で、何で動かねぇんだ?』
「そういう構えなの!ちょっと黙ってくれ、集中したいんだ。」
『はいはい。』
俺は阿修羅のみに集中する。全身の全ての感覚を研ぎ澄ます。
何分もの間、俺と阿修羅はにらみ合っていた。
痺れを切らしたのか、阿修羅が突進してきた。
阿修羅の攻撃が届くか届かないかという距離で、俺は身体を半回転させ、その勢いに乗せて、ラグナロクで横薙ぎにする。
阿修羅と俺の体が交錯し、かなりの距離を置いて背を向け合って立っっている。
俺の頬には一つの傷がつき、血が流れている。
ドサ!
阿修羅は倒れた。
「無天一流居合、半月の型。本来なら傷一つ負わないはずだったのにな。大したもんだよ。」
『やったな!坊主!』
「いや、まだだよ。ロクさん」
目の前には、無数の修羅達がいた。
「まったく、こっちは全力出しきって、殆ど動けないってのに・・・」
『おいおい!』
「すまねぇ、ちょっと無理っぽいかも・・・」
『ったく!俺の力を貸してやる!それでどうにかしろ!』
頭の中に力の使い方が流れこんでくる。
-これは!でも、今は迷ってる場合じゃない。
目の前の修羅達がこちらに詰め寄ってきていた。
俺はイメージした。強く、強く、そして、ラグナロクを大上段で構え、振り下ろすと同時に言い放つ!
「きえろーーーーーーーー!」
すると一瞬にして、目の前の修羅達は、消え去った。文字通り跡形もなく消えたのである。
俺は阿修羅の言っていたことがようやく解った。
-この武器は、危険すぎる!
『大丈夫か?』
「ああ」
-約束は約束だからな。連れて行かないと、外へ・・・
俺はラグナロクを杖代わりにして、出口から外へ出た。
「狐宮殿!」
「狐宮くーん!」
龍王と九尾の声がした。俺はほっとして、そして、意識を失った。