第二十一話:擬似悪霊その2
龍弥達が先へ進んでいくと、行き止まりにたどり着いた。
「なあ、何でこうなるんだ?」
龍弥は嘆くように言った。ようやくないかの手がかりを見つけて、それをたどってきたらこの有様である。
『んー?この先に何かあるみたいなんだよ』
九尾はしきりにかぎまわっているが、行き止まりであることに変わりはなかった。巽は壁にい近づいて、叩き始めた。乾いた音があたりに響く。
「空洞?」
「ああ。この先に空間があるみたいだな。多分、隠し・・・」
巽が言い終わらないうちに龍弥は刀を取り出し、壁をばらばらに分断してしまった。
「ら、乱暴な・・・」
春華は呆然となる。
「お前、本当に天才か?」
巽もあきれたように問いかける。
龍弥は二人に振り向き、にかっと笑いながら答える。
「時間の無駄だろ?」
二人は呆然としながら龍弥を見つめる。龍弥は前に向き直り、先へ進んで行く。
進んでいくと、広い空間が広がっていた。外の廃墟とは違って、綺麗な場所でもあった。イメージとしては病院を連想させるような場所だった。
「ここは、一体?」
龍弥は率直な疑問を口に出した。
「さあな、これまでの情報から察するに、研究施設が妥当だと思うが・・・。分かれて調べようか」
巽の意見に龍弥はうなずいたが、春華は猛反対をする。
「いやよ!か弱い者を一人にするなんて、何考えてんのよ!」
「・・・わかった。お前は巽と組め!俺は一人でいい」
龍弥はあきれながらもそう提案してそれで決定した。
龍弥は物色をする為にある部屋に入った。そこには巨大なカプセルが設置されていた。そのほとんどは、空だったが、一つだけ中心あたりに黒い物体が漂っているカプセルが有った。
『ん?これ悪霊っぽいような・・・』
「さっき言ってた。悪霊のような悪霊じゃないようなってやつか?」
『いやあ、それじゃないっぽいのよ』
九尾はしきりに首をかしげながら答える。
龍弥は一歩前に出て、カプセルに触る。ひんやりとした感触が手のひらに伝わってくる。そして、手のひらから全身に冷たさが広がっていく。
それは、普通の“冷たさ”ではなかった。ある主の冷たい感情、憎悪や嫉妬、絶望や怨み、それらの負の感情だった。
龍弥はぱっと手を離す。
『大丈夫!?』
九尾が慌てている。全身にはかなりの汗をかいていた。
「ああ、大丈夫だ」
龍弥は何とか返事をする。そして、すぐにその部屋を出ようとしたが、そのときに何かの気配がした。
『なんだこれ!?』
「九尾、お前もか!?」
『何者かがいるようですね。しかも、こちらを敵視している』
龍王が冷静に推論を述べる。
強力な気配だったため、龍弥は念のために能力を開放した。
「龍王開眼・紅蓮双剣」
***
巽と春華の入った場所は、さっきと違って、監獄のような場所だった。
「なに、ここ・・・」
そこらかしこには、骸骨が転がり、中には腐乱したしたいまで有るような気がした。
「まあ、人間の死体置き場だな」
巽は骸骨を足で蹴り飛ばしたりしながら、とんでもないことを平気で言ってのける。
「こ、こわいこと言わないでよ」
「悪霊を研究していたらしいから、実験に使われた人間だろ」
「だから・・・」
「俺達が追ってるのは、こういう人間だ。それを理解しなけりゃ・・・」
巽が厳しく言ってのけようとしたとき、気配がした。思わず巽にしがみつく春華。
『・・・巽』
「ああ、わかってる。春華、お前もわかってるだろう?」
マホラガに呼びかけられて、巽は臨戦態勢をとる。
「わ、わかってるわよ。鳳凰・壱の太刀」
巽にうながされて、春華も薙刀を構える。
***
それはヒグマのような大きさで、頭は猿、手足は虎、尻尾は蛇という生物だった。九尾曰く、鵺という妖怪らしい。
(速さではついていける。むしろこちらの方が速いが・・・)
龍弥は苦戦を強いられていた。大丈夫だとは言ったものの、カプセルに触れた影響か、身体の動きに切れが足りない。
鵺は容赦なく、執拗にそのつめで、その牙で、攻撃を繰り出してくる。
「はぁぁっ!」
龍弥は気合と共に、鵺を一閃する。炎の力を込めた刀で切りつけられて、鵺の身体は燃え上がるが、すぐに消えて、また立ち上がってくる。
「不死身か!?大体、何で浄炎が効かないんだ!?」
『悪霊が憑いてないのよ。鵺はもともと凶暴な妖怪だから、襲われたら殺すしかないわ』
浄炎を何度も使っても倒れない鵺に対して焦りを感じる龍弥に、九尾は冷静に告げるのだった。
「いや、まだ手はあるぞ」
『殺す以外に?』
「ああ」
そう言って、龍弥は龍王の新たな力を呼び出す。
「龍王開眼・蒼雹双剣」
力が解放されると、辺りは急に冷気に包まれ始めた・・・。