第十九話:精霊流し 天台庄助編
「で、あんたの未練は?」
ようやく、春華が落ち着いて先に帰した巽は霊に質問した。
「僕は殺されました。その犯人が許せない。それが心残りです」
「相手は覚えてるのか?覚えていたらその情報を教えろ」
巽は催眠眼で情報を聞き出す。
「はい、僕はある研究所に勤めていたんですが・・・」
情報を洗いざらい聞き出すと、巽は霊(名を天台庄助という)に、催眠眼を切って問いかける。
「ところで、あんた人を殺してるな・・・」
庄助は戸惑いながらも答える。
「・・・はい」
巽は淡々と質問を続ける。
「何人殺した?」
「え・・・?」
巽は「ただ」相手の目を見た。だが、庄助の身体は震え上がる。まるで蛇に睨まれた蛙である。さらに、淡々とした口調が追い討ちをかける。
「何人殺した?」
「ご、ごにんです」
「そうか・・・、残念だが、お前は地獄行きだ」
「は?」
「殺人を犯した人間が天国に行けるとでも?」
「でも・・・」
「答えは聞いていない。地獄門開け!」
突如として、庄助の後ろに門が出現する。ロダンの地獄門に似たその門からはまがまがしいオーラが噴出している。
「あ、あ・・・」
振り返った庄助は、何も口に出来ないでいた。しかし、それでも何とか助けを求める。
「た、た、助けてくれ」
「最後の言葉はそれで良いか?」
「た、助け・・・」
門が開き、中から多数の黒マントを着た骸骨と巨大な骸骨が現れた。それらは、庄助にまとわりつく。
「いやだ、いやだ!」
無言で見つめる巽。
「ふゎ、うぁ、ふゎあああああああああああああああああああああああああああ!」
庄助は断末魔の叫びをあげながら地獄門の中に吸い込まれていった。
地獄門が消えると、巽はどこかに立ち去った。
***
どこかの部屋、モニターがたくさんある暗い部屋に一人の男がいる。一つのモニターに今までの一部始終が映し出されている。
「ありがとう、庄助君。君のおかげで研究は完成だよ。しかし、ここの場所がばれたか・・・。ふむ、データは取れているし、最新の研究体はもう移してある。破棄しても良いだろう」
そして、男は去っていった。
***
龍弥と葎花は龍弥の家に戻った。警察はこの犯行は葎花には不可能と断定したのだ。
実際、葎花の母を殺したのは妖怪なのでこの判断は正しいことになる。
葎花は家に着くと風呂で血の匂いを洗い流し、すぐに眠った。
「家で預かるのはいいけど、葎花ちゃんのお父さんはなんて言ってるの?」
龍弥の母は、これからのことについて質問されて、龍弥は葎花の父との会話を話し始めた。
***
「これからどうするんですか?」
龍弥は葎花の父に聞いた。
「葎花はしばらくホテルかどこかに泊まらせるよ。まぁ、葎花の希望によるけど、君さえ良ければ、僕は君の家でも構わないよ」
龍弥は少しびっくりした。葎花から父親は寛容で優しい人だとは聞いていたが、年頃の娘を男の家に泊めてもいいのだろうか?
「僕は、構いません。でも、本当にいいんですか?」
「ああ、君は優しい子の様だし、葎花も君を信頼してるしね」
***
「えらく寛大なお父さんね」
母は少し唖然としたように話す。龍弥もそれに同意するように返す。
「だよね、俺も何度も聞き返したくらいだし」
「むーん、じゃあしばらく家で預かることになるわけね。部屋はどうしようかしら?」
「確かに」
しばらく二人で考え込んでいると、それまで黙っていた里緒菜が突然話し出した。
「私の隣の部屋空いてるじゃない」
龍弥は怪訝な顔をしながら問いかける。
「あの部屋は、物置だろ?」
「片付ければいいじゃない」
「まぁ、そうだけど・・・」
「今夜はお兄ちゃんの部屋で寝てもらって、明日部屋を片付けてお兄ちゃんがそっちに移ると」
「ちょっと待て、俺が移るの?」
「そうだよ。レディーに元とは言え、物置に寝てもらうの?」
「いや、そうかもしれんが・・・」
「待って、里緒菜」
まくし立てられて、窮地に立たされた龍弥に助け舟を出すように、母が待ったをかける。
「寝るだけなら片付ける必要は無いわ」
助け舟ではなかった・・・。
「それもそうね。ナイス、お母さん」
「ちょっと待て!」
「それじゃあ、私達もそろそろ寝ましょうか?」
「シカト!?シカトなの!?」
「おやすみなさい」
「はい、おやすみ」
二人はそれぞれの部屋に戻っていった。一人残された龍弥は、しばらく呆然としていたが、しばらくして物置部屋に向かった。
「片付けよ・・・」
孤独に片づけを開始した。