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第十四話:精霊流し 五十嵐千絵編

 龍弥の能力で、近場の公園にやってきた龍弥、巽、そして、女性の霊は今後の行動を検討していた。

 最初は龍弥の質問から始まった。

「何で、妖怪と分離させたのに、彼女は成仏できないんだ?」

「お前の契約した神は何も教えてないんだな」

 巽は完全にあきれ返っている。その後ろには巽の契約神、ヤマタノオロチとマホラガが、ミニマム化して浮いている。

『まあ、今回は時間が無くてこんな風になっちまったがよ。難陀と玉藻はいいやつなんだ。仲良くしてやってくれ』

 ヤマタノオロチがリンクをはって龍弥に話しかけた。

『ああ。いいよ』

 龍弥は快諾した。根がいいのはわかっていたのだろう。

『それじゃあ、ここからの説明は私がしよう』 

 今度はマホラガが説明を開始した。

『まず、妖怪と分離させた程度では、霊は成仏できない。これは実際見てもらったからわかると思う。ではどうするか、この世に執着している原因を取り除く。そうすれば、霊は自動的に霊界に行く。』

『なるほど。じゃあ、早速聞いてみましょう。』

 女性霊の方を向いて、龍弥は問いかけた。

「話してくれますか?あなたの未練を」

『私の名前は五十嵐千絵といいます』

「五十嵐千絵、どこかで聞いたことがあるな」

 巽は首をかしげながら、必死に思い出そうとしている。龍弥は何かに気づいたようで、ハッとした顔になる。

「数日前に地下鉄で人身事故があって、そのとき死んだ人が同じ名前だったはず・・・」

『はい。おっしゃるとおり、私は電車に轢かれて死にました』

「そのことが、この世に対する未練と関係があるのですか?」

 千絵はポツリ、ポツリと話し始めた。

『私が転落したのは、誰かに押されたからなんです。結婚間近だったんですよ。それがこんなことになってしまって・・・。多分、押した人への恨みから、蜘蛛に取り付いてしまったんだと思います』

「なるほど、復讐ですか」

 巽は納得したように、うんうんうなずいた。目には涙が浮かんでいる。

「じゃあ、俺達がその人に法の裁きを受けさせ、社会的に抹殺・・・」

 巽はのりのりだが、それをさえぎるように千絵は言った。

『いえ、蜘蛛から切り離されたときに、復讐とかどうでも良くなって・・・』

「え?龍弥、お前何したの?」

 巽は、また小首をかしげ、龍弥に問う。切り離した程度で未練が小さくなったのでは、さっきの話と明らかに矛盾している。

「龍王曰く、浄炎だとさ」

 土蜘蛛を炎で包んだときに、霊の心を浄化したのだという龍弥に対し、巽は驚嘆した。

「は!?お、お、お前、何で最初からそんな高レベルなの使えるの?不公平じゃない!?」

「いや、それはほら、俺って天才だから」

「そんな理由があるか!頭の出来はそんなに変わらんだろうが!」

「だから、言っただろう?勝負の駆け引き・・・」

「関係ねえええ!!!」 

『狐宮殿、響殿?口論もいいのですが・・・。先へ進みましょう』 

 千絵がオロオロし始めたのを見かねて、難陀が仲裁に入る。

「そうだな。この話はまた後だ。それじゃあ、あんたの今の望みは何なんだい?」

 巽はぶっきらぼうに聞く。

『私の婚約者と一回だけ話がしたいんです。お別れが言いたいんです』

「了解しました。それじゃあ、早速行きましょうか。婚約者の家へ」


 ***


 婚約者、松本孝太の屋敷に近い位置で、龍弥たちは作戦会議を開いていた。

「婚約者の方って、お金持ちだったんですね。これはセキュリティかいくぐるの難しそうですよ」

 龍弥は、自分の分析と見解を述べた。

「転映を使えばいいだろう?」

 巽の反論に龍弥は難色を示す。

「婚約者がどこにいるか分からないのに、闇雲に転映使っても意味が無いだろ?」

「あ、それもそうか・・・」

『なあ、巽。自分の能力使えよ。』

「あ、そうだな」

 巽はヤマタノオロチに言われてやっと思い出したようだ。龍弥の能力レベルが高すぎて、自身の能力を忘れていたのだろうか。

「お前の能力?」

 龍弥は龍弥で、身体能力強化と敵を見つける能力以外ないと思っていたようだ。まあ、戦闘の時に全く使わなかった巽も悪いのだが・・・。

「ああ、正面から行けるぞ。堂々とな。」

 巽は不敵に笑いながら、屋敷の門に向かう。龍弥と千絵もそれに倣った。


 ***


 ピンポーン

 チャイムが鳴った。老いた執事が、インターホンのモニターを覗き込む。二人の顔立ちが整った少年が映っていた。

「こんな時間に何の用かね?それに、ここは君達が来るところでは無いよ」

 門前払いしようとした執事に対して一人の少年が声をかける。

『松本孝太の所に通せ』

「はい、かしこまりました」

 声をかけられた途端に、老人は主人と同じ態度で接するようになった。

 二人を出迎え、孝太の部屋の前まで案内する執事。

「もう、戻ってください。それから、この部屋にしばらく誰も近づかないようにしてください」

「はい、かしこまりました」

 執事はどこかへ消えていった。

「これが催眠眼か、すごいじゃないか」

「まあな」

 巽は自慢げだが、龍弥は疑問でしかないようだ。

「なんで、戦闘で使わなかったんだ?」

「卑怯だからだよ」

「いや、命がかかってたら、卑怯とか関係ないだろ・・・」

『話が脱線してるわよ』

 玉藻が、話を元に戻す。

「ああそうだね、それじゃあ頼むよタマ」

『なんか私ペットみたいね。まあ、いいわ』

 次の瞬間、龍弥の姿が千絵さんのそれに変わっていた。服装は死亡したときの物だ。 

『すみません。私の為に・・・』

「いえいえ。それじゃあ行きましょう」

 声までもが、千絵と同じになっていた。


 ***


「誰だ?入っていいと言った覚えは・・・」

 松本孝太は愕然とした。そこに立っていたのが死んだはずの婚約者だったからだ。

「千絵、千絵なのか?」

「ええ、私よ」

「生きていたのか?」

 思わず駆け寄る孝太。その目には涙が浮かんでいる。そして、千絵を抱きしめる。

「孝太、お別れを言いに来たの」

「お別れ?・・・そうか、そうだよな。遺体確認もしたんだ。生きてる訳無いよな」

 千絵は、涙を浮かべながら、それでも笑顔を作って語りかける。

「あなたと出会えて本当に良かった。あなたといる時間が私の全てだった。本当にありがとう。そして、あなたは幸せになってね。・・・さようなら」

「待ってくれ、せめて最後に・・・」

 去ろうとする千絵を抱き寄せ、唇を重ねる。しかし、千絵の感触はだんだんと無くなり、そして、完全に消えてしまった。

「千絵、さようなら。僕も君を愛していたよ」


 ***


 所変わって、こちらは龍弥達が千絵から事情を聞いた公園。元の姿に戻った龍弥がしゃがみ込んでいる。どうやら消える演出は転映を使った様だ。

「おええ・・・」

「天晴れだな。アカデミー賞物だ」

 気持ち悪そうにしている龍弥を、必死に笑いをこらえながらフォローする巽。千絵は成仏できたのだろう、姿は無かった。

「でも、まさかキスされるとわなあ・・・。く、駄目だ。わはははは・・・」

 計画は途中まで順調だった。千絵の姿に化けた龍弥に千絵を憑依させ、お別れを言うところまでは・・・、しかし、キスは想定外だった。

「大体、何で俺の意識が残るんだよ!一時的に千絵さんが完全にコントロールして、俺は眠ってるでいいじゃねぇか!」

『狐宮殿、暴走の危険性があるので、それは出来ないのです』

 まあ、当然といえば当然だ。今回はご愁傷様としか言いようが無い。

 巽は、まだ笑い転げている。

「おい、巽」

 龍弥は先程生成した日本刀の切っ先を巽の喉元に突きつける。途端に巽は笑うのをやめた。逆に龍弥は満面の笑みだ。契約神達は、ドン引きしている。

「巽、笑えよ。わ・ら・え・よ」

「ごめんなさい」

 巽の顔は思いっきり青くなり、引きつっている。切っ先を突きつけられているからではなく、龍弥の全身から殺気がほとばしっているからだ。

 一分近くたって龍弥は唐突にしゃべりだした。

「そう、謝罪だ。悪いことをしたら謝罪。これは人生の基本だよな?」

「はい!」

「いい返事だ」

 龍弥はようやく刀を消す。表情もすっきりしたものになり、口調も元に戻った。

「で、さっきの続きだけど、こんな状況になったのは、誰のせいだろう?」

「そりゃあ、元をたどれば、千絵さんを線路に落とした人だろ」

「その通り!あんなに幸せそうな人達を引き裂くとは、言語道断!だからさ、俺たちで復讐しないか?」

 目を輝かせながら訴える龍弥。目をそらせながら、巽は答える。

「お前の復讐のような気もしないでは無いが、まあそうだな。で、どうするんだよ?」

「謝罪させた後、精神崩壊・・・」

「そうじゃなくて、どうやって見つけるんだ?」

「まあ、任せろよ。待ってろよ!千絵さん殺害犯!」

 夜の公園に、龍弥の高笑いがこだました。

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