第十三話:土蜘蛛その4
龍弥が突進し、斬りつけると土蜘蛛はさっと飛びのく、その巨体の割りに、素早い動きをする土蜘蛛に舌打ちをしながら、なおも土蜘蛛に対して攻撃を仕掛けていく龍弥。
しかし、土蜘蛛を追って線路に飛び降りると、不意に足が動かなくなる龍弥。
「これは一体!?」
『蜘蛛の糸ね。罠を仕掛けられていたんだわ』
九尾が答える。龍弥は必死に抜け出そうとするが、倒れてしまう。さらに、もがけばもがくほど糸が絡みつき、全く身動きが取れなくなってしまった。
それを好機と見たのか、土蜘蛛が龍弥の方に迫ってくる。
「俺を忘れんじゃねーよ!」
巽が土蜘蛛に対して飛び蹴りを入れる。もろに食らった土蜘蛛は、少し後退する。
「ありがとう。でも少し余計だった」
龍弥は少し毒づく。そして、蜘蛛の糸を焼き払いながら立ち上がる。
「近づいてきたところを攻撃しようと思ったのに」
それに対し、巽は少し憤慨したように言う。
「しょうがないだろ。あの状況なら」
龍弥はあくまで、冷静に切り返す。
「ああ、わかってるよ。でも、もう少し信用してくれよ。お前と違って俺は鍛えてるんだから」
「俺だって鍛えとるわ!」
「俺が言ったのは実戦の勘も含めてだ。お前、勝負の駆け引きとかほとんどないだろ。戦うって言っても喧嘩がせいぜいだろうし」
龍弥はやれやれといった感じで、説明する。実際、勝負勘は龍弥のほうが強かった。剣道で鍛えているのだろう。
しかし、巽は本当に憤慨してしまったようだ。
「おう、そうか。じゃあ、見せてやるよ俺の力を!てめぇはそこで見てろ!」
「わかったよ。じゃあ、お手並み拝見といこうか?」
売り言葉に買い言葉では無いが、龍弥は巽に任せてみることにしたようだ。さっさとホームに戻ってしまった。
二人を目の前にして土蜘蛛は襲い掛かるのを躊躇っていたが、龍弥が戻ると巽に襲い掛かる。土蜘蛛は前足を振り上げて、巽を捕らえようとするが、巽はひらり、ひらりとかわしていく。そして、隙を見て土蜘蛛の腹に拳を叩き込む。土蜘蛛は吹き飛び、仰向けに倒れた。
しかし、悪霊は未だに姿をあらわさない。業を煮やした巽は、自身の能力で悪霊をいぶりだそうと近づくが、土蜘蛛は球状の意図を無数に発射する。一面に張られた弾幕のようなそれをよけることは不可能だった。
そして、巽は身動きが取れなくなってしまった。
土蜘蛛は糸を天井に張り付かせ、元の姿勢に戻ると巽に襲い掛かろうとゆっくりと近づいていく。
「待たせたな」
そこへ龍弥の声が響く。と同時に龍を模った炎が土蜘蛛に襲い掛かる。火達磨になる土蜘蛛。
しばらくして不意に炎が消え、瀕死の土蜘蛛が現れた。その隣には龍弥と足の無い女が立っている。足の無いほうはおそらく悪霊化していた幽霊だろう。
龍弥は紅蓮双剣をしまう。そして、別の能力を発動する。
「龍王開眼・無色」
龍弥の瞳が水色にかわる。巽のほうに手をかざすと、目が赤く、透明な龍が巽を包み込み、数秒で絡みついた糸を洗い落とした。さらに、龍は土蜘蛛を包み込み、傷を回復する。
「龍王開眼・転映」
龍弥の瞳が今度は通常と同じ黒に変わり、土蜘蛛を消した。
「おい、何やってんだ!?」
おそらく、鎮めたはずの妖怪を消してしまったと思った巽は、びっくりして叫ぶ。
「大丈夫だ。いるべきところに返しただけだから」
「どういうことだ?」
「転って言うのは、転送の転なんだよ。だから、いるべき場所に返したんだよ。それよりも、時間稼ぎお疲れさん」
ねぎらいの言葉に対して、巽はいささか不安に駆られながら、巽に問う。
「時間稼ぎ?」
「おう、お前のおかげで、土蜘蛛に襲われた人達を助け出せたぜ」
「じゃあ、俺を怒らせたのはわざと・・・」
巽の拳がぎゅっと握られ、プルプルと震えだした。
「だしに使って悪かったよ。だからそんなに怒るなって」
険悪なムードが流れる。
「あ、あの・・・」
女性の幽霊が喋りかけてきた。
「なんだ!」
「ひっ!」
巽の大声にひるんで、幽霊は龍弥の後ろに隠れる。
「本当に悪かったって。ごめんなさい。だから、幽霊に当たるな」
「ああ、そうだな。だが、二度とこんなことはするなよ!」
「わかったから。そんな怒鳴るな。それと場所を変えよう。」
人の気配を感じ、龍弥は幽霊と巽と共に自分を転送した。
補足をしておくと、霊界の工作により、電車は止められています。