第十二話:土蜘蛛その3
送られてきたメールの内容を見ずに、俺は110番通報しようとしたが、龍王さんに止められた。
『とりあえずメールを見てください』
俺は渋々メールを見ることにする。
***
差出人:霊界
件名:指令
悪霊に取り付かれ、理性のとんだ土蜘蛛を鎮めよ。
妖怪の位置はここからダウンロードせよ。
***
『指示に従ってください』
龍王さんに言われ、仕方なく俺はダウンロードをした。ソフトが起動し、この町の地図と赤と青の点が現れた。
青が現在位置、赤が妖怪を示しているらしい。
『これは、千里眼システムと言って・・・』
「龍王さん・・・」
俺の焦燥を感じ取ったのか、九尾はやれやれといった風で、龍王さんに話しかける。
「ナンちゃん、あんた説明長すぎなのよ。狐宮君、携帯貸して」
九尾は、七本の尾を器用に使いこなして、携帯を操作すると俺に画面を見せてきた。そこには、妖怪の現在の状況がリアルタイムで送られてきているようだ。
俺は、巨大な蜘蛛の背中に、数人の人間を見た。その中には、里緒菜も映っていた。
「これは・・・」
『これで利害は一致したわね。行きましょう!』
『すなわちこの千里眼システムは・・・』
龍王さんはまだ説明していた。九尾が龍王さんの尾に噛み付く。
「ひぎゃっ!」
変な声を出しながら、のた打ち回る龍王さん。
『何をするんだ!』
九尾は冷たい視線を浴びせかけながら言い放つ。
『この説明魔が!そんな場合じゃないでしょが!』
『いや、こういうことはだな・・・』
『問答無用!さっさと式を出して!』
九尾のものすごい剣幕に押されて、龍王さんは目を光らせて人型の紙を一枚出現させた。
『狐宮殿、その紙に触れてください』
俺が紙に触れると、紙は俺そっくりに変わった。
『留守中頼んだぞ』
「承知しました」
『狐宮君、行くよ!』
俺は、九尾たちに続いて、押入れの中にあった新しい靴を履き、窓から飛び出した。
-っておい!俺、飛べねえよ!
二階から飛び降りる形になってしまった。俺は焦ったが、なぜか身体が勝手に反応して、うまく着地できた。
『忘れた?私の能力は身体能力の向上よ。反応速度も人間のそれを軽く凌駕するわ』
九尾の声が俺の中からする。
「誰!?」
母さんの声がする。この場を離れるために俺は走り出した。同時に九尾の質問に答える。
『九尾のほうからも発動出来るとは思わなかったんでね。』
『他の能力発動より単純なのよ。憑依するだけだから』
俺は、人を超えたスピードで走っていく。人の目にはおそらく見えていないはずだ。携帯で土蜘蛛を追っていき、ちょうど点と点が重なるところにやってきた。
回りを確認するが、巨大な蜘蛛は影も形もなかった。龍王さんが発言する。
『土蜘蛛は、地下を移動する習性があります』
『巨大な蜘蛛が通り抜けられそうな地下道といえば・・・、地下鉄か!』
俺は、最寄りの駅から地下鉄のホームに降り立った。もちろん切符を買った。
『律儀だねぇ、見えないスピードで行きゃいいのに』
九尾には揶揄されたが、こういうところはしっかりしないと駄目だと思った。
ホームに降りると、そこは異様な雰囲気に包まれていた。息が苦しくなるような、体が重くなるようなそんな雰囲気。携帯の反応も強くなっていた。しかし、蜘蛛の姿はどこにもいない。電車を待っている人々がいるだけだ。
それに、何でここで留まったままなのだろう。こちらに気づいているなら、何らかのアクションを起こすはずだ。
「この近くに巣があるみたいだな」
不意に声がした。俺が振り返るとそこには巽と見知らぬ女性がいた。女性は黒いスーツにスカート、そして、サングラスを掛けるという、全身黒尽くめのいでたちだった。
女性は、警察手帳を出しながら乗客に呼びかける。
「警察の者です!この駅構内に爆弾が仕掛けられているという情報が入りました。乗客の皆さんは、直ちに駅構内から避難してください」
その声に呼応するように、巽と黒尽くめの女性の後ろから、数人の警察官が現れ、乗客を誘導していった。
「あなたは?それと、何でお前がここにいる?」
巽は淡々と答える。
「彼女は、霊界から送られてきた俺達のサポート役だよ。もう下がっていいですよ。」
すると女性は、煙のように消えてしまった。
「霊界って、それじゃあ、お前も・・・」
「そう、俺も契約者さ。ついでに言うと、さっきの警官もサポートだよ。さあ、人払いもすんだことだし、始めようか。妖怪鎮め」
俺は焦燥感に駆られながら巽に問う。
「でも土蜘蛛はどこにも見当たらないぞ」
巽は自身ありげな顔だ。
「俺の能力には探索系もある。すぐに見つけてやるから、お前は自分の能力を確認しとけ」
巽は俺から少し離れ、指を鳴らした。
『それじゃあ、こっちも能力の実践といくわよ』
九尾と龍王さんから使い方のイメージが流れ込んでくる。
『それじゃあ、使ってみて。でも、私の尾一本につき武器一つだから気をつけて』
俺は目を閉じ、日本刀を二振りイメージした。目を開くと、両手にはしっかりと、日本刀が握られている。
『上出来ね、こんな感じで・・・』
「見つかったぞ。というか出てくる!」
巽の声が響く。俺たちの目の前に巨大な蜘蛛があらわれた。
「龍王さん行きますよ!」
『いやいや、そんな感じじゃなくてもっと命令口調でいいから』
九尾の突込みを受けて、俺は口調を変える。
「行くぞ!龍王開眼・紅蓮」
俺は、刀に炎の力を込める。
「紅蓮双剣」
そして、俺は蜘蛛に向かって突進した。