序章
砂埃の舞う中、赤い液体が飛び散る。
鮮血。
華奢な体つきには不釣り合いな大剣。その大剣をあたかも身体の一部であるかのように華麗にふるう少女が居た。
少女の足下には骸が5人分。その鎧の紋様は少女の鎧に記された紋様とは異なっており、敵軍の兵であることを示していた。
「ふう……」
少女はため息を一つつくと剣をホルダーにしまった。
直後、少女の耳に背後からの足音が届いた。
少女は再び警戒の色を強め、剣に手を伸ばしかける。が、その手は剣に触れる前に止まった。
背後の足音が部下の発するものだったのだ為だ。
「ニーヌ様、先ほどアイツヴェンから知らせがありまして、援軍の到着は昼頃になるのでそれまで持ちこたえてくれとのことです!!」
「わかった。そっちの状況はどうなの?」
少女は背後を振り返り返答する。
部下の若い男性兵は戦闘後とは思えないほどの少女の美しい顔を目の前にして動揺しかけるが、何とか返事をすることに成功する。
「依然、苦戦が続いております。ストリボーグ軍の兵数は我らの倍近く。現状では耐えておりますが消耗戦になってしまうと、やはり……」
「そう……。わかった、あなたも配置に戻って。私はここら辺の敵を片付けたら援護に向かうわ」
「わかりました」
兵はうなずくと再び配置へと走っていった。
負けるわけにはいかない。ニーヌの心の中にはその感情が占めていた。
軍人はみな強さを求め、誉れを求める。
そして、名声を得た者には一つの都市を任される。
ニーヌはそうして、この都市を任されている。
だが、それでも彼女にはある疑念がある。その疑念が渦巻くさなかにこの都市に配属になったという事実。
ニーヌは頭を軽く振ると再び走り出していった。
戦場の最前線へ、再び。