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9章―森の異変―

 俺たちがヴァサームに着くまでには数日を要した。

 到着したのはどっぷりと日も暮れ、町の中から酒を酌み交わす人たちの喧噪が聞こえてくる、そんな頃合いだった。


 俺は部下達に指示を出し、適当な宿を探そうとしていたときにばったりとよく知った人間に出くわした。

 長い剣を腰に下げた水色の髪の毛の女剣士。ニーヌだった。


「よう、体調は大丈夫か?」

「あら、何であんたがいるの?」


 ニーヌはいつも通りの様子だ。

 見たところ大きな外傷もなさそうだ。


「その様子じゃ大丈夫みたいだな。まぁ、おまえが怪我して長いこと寝てるってのもイメージにあわねえけどさ」

「ふん。おかげさまで後遺症もなく元気にやってるわよ」


 ニーヌは肩をすくめて答える。


「そいつはよかった。それにしてもこんなところで何してんだ?」

「ああ、ちょっと森の方から変な気配を感じたからちょっとね。さすがにストリボーグじゃないんだろうけどなんだか不気味だったから。そっちはどうしたの?」

「ああ、俺は任務。改めて任務を言いつけられてきてな。まぁ、立ち話も何だからどっかの店に入らないか?それともまだなんか残ってる仕事あんのか?」

「いや、ないけど……。財布、部屋に忘れてきちゃって持ってないのよね」

「ああ、金ならいいよ。ここは男の俺がおごってやるさ」

「いや、いい。なんかそんなの悪いし……」


 せっかく胸を張って得意げに言ったのだが申し出はにべもなく断られた。

 オトコゴコロのわからないやつだ。


 まぁ、ニーヌがこういう女だというのは知っていたのだが。


「ちっ、しゃあねえな。じゃあ貸してやるよ。これでどうだ?」

「……ん。わかった、そうしましょ」

「よし、そうこなくちゃな。じゃあちょっと待っててくれ。急いで荷物を宿に預けてくるから」

「はいはい。誘っといて誘った相手をほっぽり出すってのもあんたぐらいよね」


 ニーヌは苦笑いを浮かべると、了承してくれた。








「それで、あんたの任務って何なの?」


 店に入り、俺は酒を片手に遅い夕飯をとりながら、ニーヌはカクテルを飲みながら適当な話をしていたが、ニーヌは唐突に話題を変えてきた。どうやら少し気になっていたらしい。


「ああ、そうか。説明してなかったか。おまえもさっき言ってただろ?森の様子が変だって」

「ええ。それとなにか関係でも?」

「ん。というかそれの調査なんだよな。森の中で動物の死体の目撃例が増えてるって話、聞いてるだろ?」

「聞いてるけど……。それはストリボーグが何かやっていたからじゃないの?戦の下準備とか……」


 ニーヌは少し眉をひそめながら言う。


「まぁ、それもあるだろうが、それにしては数が多すぎる」

「確かにね……という事はあんたがその原因を探るって事ね」


 俺が「そう言うこと」、と答えを返すと、ニーヌは納得が言ったように頷き手元の酒を再び口に運んだ。


「なぁ、ニーヌ、明日大丈夫か?」

「え?もしかして私に手伝ってって言うつもり?」


 ニーヌは虚を突かれたように目を僅かに見開き、驚いている。


「ああ」

「何で?あんたみたいなバカには珍しくちゃんと部下も連れてきてるみたいだし、大丈夫じゃないの?そう簡単に私はヴァサームを離れられないんだけど……」

「実は、今回の任務は俺の部隊だけじゃ不安なんだよな。場所もそんなに遠くないし、それにフレイヤ様、ここにいるんだろ?いざという時はあの人がここにいるなら何とかなるんじゃないのか」

「まぁ、それはそうかもしれないけど……。でもそれならいっそのこと、姉様と行けばいいじゃない。この町は私の担当だから、姉様の方が自由に動けるし、姉様の実力なら問題ないでしょ?」


 ニーヌはまだ渋っている。

 ニーヌの言い分も十分にわかるのだが、俺は引き下がらなかった。


「それは、そうなんだが……。今回の標的――フェンリルっていう巨大な狼らしいんだが――ファンデル様の話じゃ凶暴な生き物らしくてな。魔術のみだとマズいかもしれないんだ」

「ふ〜ん」


 ニーヌはまだ考えている様子だった。


「俺はどちらかというと剣術より魔術の方が得意だからな。魔術師のフレイヤ様と俺が組むよりは、ニーヌみたいに接近戦に強い人が居てくれた方が心強いんだ」

「……」

「なぁ、頼むよ。貸し一つだと思って。な?」


 なおも渋るニーヌに俺は頭を下げて頼んだ。


「はぁ……わかったわよ、しょうがないわね。姉様にはあんたが話を通しておいてよね」

「そうこなくちゃ!サンキュな」


 俺は笑顔を作って礼を言う。

 ニーヌはまだぶつぶつと不満を言い、納得のいかない様子だった。

 俺はまた店員を呼び適当に料理を頼み、しばしお互いゆっくりと酒を飲んでいた。


 俺がニーヌに援軍を頼んだのには理由が2つあった。

 一つは絶対的な戦力不足。フェンリルがどの程度の強さの生き物なのかわからないが、それでもドラウグ並の強さを誇る生き物ではないかと俺は想像していた。

 今回はあの時みたいにドラウグを倒す手段は使えない。だから、俺と俺の部下達では分が悪いと感じていた。

 もう一つはフレイヤ様にだけは援軍を頼みたくない、という事だった。理由は……そのうちわかるだろうよ。俺はあの人が苦手なんだ。



「ティアの様子はどう?」


 急にニーヌが話しかけてきた。俺は質問の真意を探りながら応える。


「いつも通りだったぞ。特に何も変わらないさ」

「でも、軍に仕官したんでしょ?」


 俺は耳を疑った。

 初耳だ。


「え!?そうなのか?あいつ、何も言ってなかったぞ」

「でも、その話はちゃんとした筋から聞いたから確かな話よ。ソルック様の部隊に配属になったらしいけど」


 俺はアイツヴェンで警護に当たっているであろう坊主頭のおっさんを思い出す。

 あの人に初めて出会ったのは俺が意識を取り戻してすぐの頃だっただろうか。遠い過去のように感じられる。


「ソルックのおっさんのところにか……。全く知らなかったな」

「おっさんてバカ、ソルックさんに失礼よ。でも、ティア、隠してるのかしら。フェン、じゃなかった、バカに隠し事なんてするのね」

「わざわざ言い直してまでバカと呼ぶな」


 ニーヌは肩をすくめながらまたグラスを口に運ぶ。

 俺としてはティアが俺に秘密にしたことは少し気になった。俺はティアの良き兄のはずだ。それなら俺に何か言ってきても良いだろうに。

 だが、それでもわからないものは、わからなかった。


「まぁ、ティアでも何とかなるだろ。性格は軍人向きじゃない気がするが、なんといってもファンデル様の一人娘なんだし、血統に関しちゃ折り紙付きだろう」

「……まぁ、そうかもね」


 ニーヌは言葉少なに返す。

 そして、急にニーヌのほうから暗い、鬱々とした雰囲気を感じた。

 俺はニーヌの様子が変わったことに少し戸惑う。


「そろそろ私は失礼するわ。自分の分は自分で払おうかと思ったけど、任務を手伝う代わりにここはご馳走になることにするわ、それじゃ、また明日」

「あ、ああ。それじゃあな」


 ニーヌが急に席を立ち、帰るそぶりを見せると、俺はそれに手を挙げて返す。

 ニーヌの様子の急変は少し気になった。


 ――深入りはやめよう。


 しばしの逡巡の後、俺は自分の中でそう結論づけると勘定を済ませ宿に戻ることにした。


 知る必要のないことは知らなくて良い。

 俺の中のルールだ。





 ¶


 翌朝、俺はフレイヤ様の元へ話をしにいった。

 ニーヌに任務を手伝ってもらうので、それが終わるまでこの都市の防衛をお願いするためだ。


 俺はフレイヤ様の泊まっている宿へ行き、その中庭でフレイヤ様を見つけた。


 朝日に照らされて輝いている長い金髪。薄着の服装は身体の女性らしさを強調しており、目にまぶしかった。


「フレイヤ様、おはようございます」

「あら、フェノア。もうヴァサームに戻ってきたの?」


 フレイヤ様は俺に気づいたらしく、笑顔で無邪気に手を振りながらこちらに寄ってきた。


「ええ、昨夜戻りました。といっても私の本来の所属地はアイツヴェンなので、戻ってきたと言うよりは任務でやって来たという方がが正しいかもしれませんが」

「細かいこと気にしないの」


 おれはフレイヤ様に今回の任務の経緯と、ニーヌに協力を依頼したこと、それで今日一日はここの警護をフレイヤ様に頼みたい旨を伝えた。

 フレイヤ様はしばし考えながら言う。


「私はかまわないけど、ニーヌはそれで良いって言っていたの?」

「ええ。昨日の夜ニーヌには話を通しておきました」

「そう。じゃあわかったわ」


 フレイヤ様はそう言って笑顔でうなずく。

 俺はフレイヤ様に礼を述べて背中を向けたところで、フレイヤ様に止められた。




「待って、フェノア」

「はい?」


 振り向くと、目の前にフレイヤ様の顔があった。


 近くで見た彼女の白い肌は絹のようななめらかさを持ち、その瞳はのぞいたものすべてを虜にする妖しい輝きを放つ。

 部屋着なのかとも思える薄い衣服は朝日に照らされ鮮やかな身体をかすかに透かしており、視線を下に逃がすこともはばかられた。


 俺は思わず息をのみ、直立不動のまま身動きがとれなくなっていた。


 フレイヤ様は俺の耳元に口を近づけてささやく。

 当然、身体と身体が触れあうことになり、俺は全身に力が入る。


「この前のお礼、してなかったわよね?」

「お礼、ですか?」


 フレイヤ様が言葉を発するたびに俺の耳に甘い吐息が吹きかけられ全身を刺激されるような錯覚を受けた。


「ええ。援軍に来てくれた御礼、後でするって言ったじゃない?」

「そんなの、していただかなくても、だ、大丈夫ですよ」


 おれはカラカラに乾いた口を唾液で潤しながら途切れ途切れ答える。


「それはダメよ。それじゃ私の気が済まないの。だから、部屋にあがっていかない?優しく、お礼したげるわよ」

「な、何をおっしゃって――」



 俺は焦って距離を置こうとフレイヤ様の肩に両手をおいて、顔を見た。

 だが、それは失敗だった。

 彼女の両肩においた俺の手と彼女の身体は布一枚でしか仕切られておらず、俺は彼女の身体をこの手で強烈に意識してしまった。

 フレイヤ様の赤く上気した頬、汗ばんだ首筋、荒くなった息づかい。

 フレイヤ様の完璧な肉体には着ている薄い服は小さいらしく、豊かな胸ははち切れんばかりで、布の薄さからかその頂点は色を濃くしている。


 視界から入ってくるもの全てが俺を捉えて放さなかった。



 俺は金縛りにあったかのように硬直し、再び言葉を失った。

 フレイヤ様は両肩に置かれた俺の手をゆっくりと下ろし、左手を俺の右肩に、そして右手を俺の腹のあたりにおいてじっと俺の目を見ながら言葉を紡ぐ。


「それとも、私じゃイヤ?」

「い、いえ、そんなことは……」


 フレイヤ様は左手をするすると俺の右手の所までおろして俺の右手を掴むと、俺の手の先をフレイヤ様の左胸にそっと当てる。


「ちょ、フ、フレイヤ様!?」

「ん?どうかした?」


 ――いや、どうかした?じゃなくって!!

 ――何であんた下着つけてな、――というかそう言う問題じゃない!!


 動揺する俺を知ってか知らずか、フレイヤ様は俺の腹の辺りにおいてあった右手をそっとおろして俺の下腹部にあてがい始める。

 右手から伝わってくる柔らかい感触で当然ながら俺の下半身は綺麗に興奮し服の上から形がわかるぐらいになっていた。フレイヤ様はそれをそっと撫でる。


 ――!?


「いいじゃない?フェノア、あなた綺麗な顔してるんだから、前から気になって――」

「フェン、居る?」


 助け船が入った。

 ニーヌが宿屋の主人に話しかけているのが宿屋の玄関口から聞こえてきたのだ。

 ニーヌの声で金縛りの解けた俺はあわててまた言葉をしゃべる。


「すみませんが、私はこれから任務ですので、失礼します」


 フレイヤ様は残念そうに一つため息をつくと、俺の耳元でひとつささやく


「続きは、また今度ね、フェン」


 そう言うと俺に向かってウインクすると宿屋の中へと戻っていった。





 俺は未だ感触の残る右手を握ったり開いたりしながら、気を取り直すために深呼吸し、頭を振る。

 直後、ニーヌが姿を見せた。


「なんだ、居るんじゃない。居るんなら返事ぐらいしなさいよね、このバカ……ってなんなの?すごく汗かいてるけど」

「い、いや、たいしたこと、ないさ」


 お前の姉貴に誘惑されて、胸を揉まされだだけだ。

 正直に言ったらニーヌはどんな顔をするだろうか。


「……?とうとう頭イカれた?」

「だから、気にするな」


 ニーヌは眉根を寄せて怪訝な表情を浮かべるが、俺は話を切り替えた。


「それより、どうかしたのか?」

「あ、そうそう、私たちはもう準備できてるけど、出発はまだなの?」

「あ、ああ、そうだな、30分後ぐらいでどうだ? 俺の方も準備はほとんど終わってる」

「了解、じゃあまた」


 ニーヌはそう言うと庭から出て外へと向かっていった。






「……あんたには言ったよな?フレイヤ・イドはすごい女だって。昨日の夜、任務をともにしてくれるのをニーヌに頼んだのもこういう理由があるんだ。誘うにしろ、もうちょっと慎ましい誘い方ってないのかね。あんたもそう思わないか?」



 俺はつぶやくと自分の宿へと戻ることにした。













 ¶

 予定の時刻になった頃、俺とニーヌはお互いの部下を引き連れて総勢20人あまりで森へと向かった。


 目的地周辺までは馬で、そこからは徒歩で森の中を散策する。

 馬を下りた後、歩くこと30分程、早くも異変は見られた。


 俺たちの目の前に黒い生き物の死骸が現れたのだ。


「それ、何?狼?」


 ニーヌが俺の足下の死骸を見て疑問を口にする。


「たぶんな。狼は狼だが、狼人間(ワーウルフ)だろう」

「わーうるふ?」

「ああ、狼と人とで姿を変えられる種族のことだ」

「ふ〜ん。そんな生き物が居るんだ」

「ああ、そうだ。前に俺とフレイヤ様がヴァサームに向かってきたときにもこいつらに襲われたんだ。本来は大人しい種族だから、こうして襲われた状態で見つかることは少ないんだがな」


 俺たちは再び歩き出す。すぐにまた声があがった。


「ひっ……」

「ん?どうかしたの?」


 ニーヌが部下の様子に気づき俺たちは駆け寄った。


「何、これ……人?」


 あたりに人のものと思われる骨や、内蔵が散乱し、地面は乾いた血で赤黒く染められていた。

 周囲には特有の腐臭が漂う。


 ニーヌは眉間にしわを刻み、俺に尋ねてきた。

 俺は落ちている骨や内臓を注意深く観察しながら答える。


「いや、多分人型のワーウルフの死体だと思う。所々に落ちてる黒い毛はワーウルフの髪の毛だ。人型から狼型に変えて逃げたりするんだが、その暇もないぐらいに襲撃されたんだろう」

「……そう、なんだ。そこに落ちてる白い毛みたいなのも、ワーウルフの毛?」

「……。いや、違う……。何の毛だろうな」


 俺は呼吸を落ち着かせる。


 地獄絵図を見ているようなそんな光景だった。

 骨の数から考えると、数十匹のワーウルフたちが犠牲になっただろう。


 俺は戦争に何度も参加しているし、たくさんの命を殺めてき、たくさんの主の魂を失った亡骸を見てきた。

 それでもこの光景は目を背けたくなるものだった。

 俺は僅かな間、黙祷を捧げ、心の中で謝罪を述べた。


「みんな、ここからは武器を出しておいて。フェンリルはすぐ近くにいるかもしれないわよ。……ってあんた、バカみたいにぼーっとして、今更怖じ気づいたんじゃないでしょうね」

「ん?ああ、違えよ。よし、じゃあみんなここからは武器を出しておいて――って痛っ!!何するんだよ!!」

「はぁ……。あんた私の言ってたこと聞いてた?武器を出しておくようになんてとっくに指示出したわよ」

「あ……それは失礼。よし、じゃあ行くか」


 俺が無理矢理に話を切り上げて歩き出そうとしたとき、部下の悲鳴が響いた。


「おい、どうした!!」

「襲撃です!敵の姿確認できません!」

「くそっ……全員背中合わせになれ!」


 俺は慌てて指示を出す。ニーヌの部隊も隊列についたようだった。


「これが、フェンリル……?」

「わからん。フェンリルってのは巨大な狼って話だがそれにしては気配が小さすぎる。もしかすると……」

「もしかすると?」


 再び悲鳴が上がった。また俺の部下だった。背中合わせになっていた2人がそのまま崩れ落ちている。

 だが、俺は今度は敵の姿をはっきりと確認した。


「クソッ!敵は木の上にいる!ワーウルフだ!」

「ワーウルフ!?大人しい種族なんじゃなかったの?」

「ワーウルフの中でも他の種族との混血種は好戦的なんだ。そうだとしたら厄介だぞ。混血種のワーウルフは滅茶苦茶強いし凶暴だ!」

「はぁ?そんなの有りなの?」


 俺はニーヌの疑問に答える。

 ニーヌはメローを呼び出して融合を始めた。

 俺もウェスタを召還して意識を同調シンクロし始める。


「居るわ!!その木の上よ!!」


 ニーヌの言葉を合図にニーヌの部下達が攻撃を始める。風の刃を降り。氷の弾を当てる。

 だが、敵らしきものには当たっていないようすだった。


「フェン!あんたの近くに移動したわ!!」

「っ!マジかよ、全然気配ないぞ!!」


 ニーヌから情報を得たが俺はそれを使いこなすことが出来なかった。

 正直に言ってこの状態の俺では全く気配が感じられない。だから混血種は嫌なんだ。


 俺は頭上から音が聞こえた気がして慌てて転がって避ける。


 体勢を立て直して確認すると、俺が先ほどまで居たところには混血種のワーウルフが居た。

 純血種のワーウルフとは違い、大きく、鋭くなった爪と牙。姿も純血種の物よりは一際大きかった。


 ワーウルフは慌ててその姿を隠そうとする。


「逃がすか!!」


 俺は慌てて炎で逃げ道を塞ぎ、剣でワーウルフに斬りかかる。

 手応えは十分。目の前のワーウルフはやっつけたが、まだ頭上には何匹ものワーウルフが居る物と思われた。


「くそ、この場所は不利だ!!戦いながら見晴らしの良いところに場所を移すぞ!!」

「了解!!」


 俺のとっさの指示にニーヌから了承の返事が返ってきた。

 俺たちは戦いながら走って状況の改善を図った。


 森の中、見晴らしの良いところなどあまり期待できそうになかったが俺たちは運良く見晴らしの良い場所を発見した。

 木もなく数十人は人が寝ることが出来そうな広場。俺たちはそこで体勢を立て直すことにした。


「よし、全員居るな!!ここなら上からの襲撃がないはず――」

「フェン、ワーウルフが!」

「何だ!」

「なんか、一斉に逃げてく。殺意もなくなったみたい……」

「は!?」


 俺はニーヌの言葉をきいて慌てて周囲の森を確認した。

 そこには慌てて地面を走って逃げるワーウルフ達。先ほどまで俺たちに向けていた敵意は感じられなかった。


「一体何だって言うんだ……?」

「ねぇ、フェン、ここってきっと……」


 俺はあわてて今自分が居る広場を見渡す。


 所々に存在する途中でへし折られて倒れた樹。

 人と比べて遜色ないほどの足跡と、横になったときについたと思われる大きな跡。


「マジかよ……」

「フェンリルの、縄張り……?」


 ニーヌがその言葉を言い終えるが先か、俺はこの目でしっかりとフェンリルを確認した。


 巨大な体長は尻尾まであわせると5メートルはあろうかと言うほどの大きさ。

 金属ですら容易にかみ砕くであろう鋭くとがった牙はむき出しで俺たちに絶対零度の眼差しを向けていた。


「でかすぎんだろ、いくらなんでも……」

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