1、普通の「終わり」
何も知らない。誰も教えてくれない。きっと私は不幸なのに、「お兄ちゃん」だけは優しくしてくれた。
親がお菓子職人だったことも有り、私は童話から「グレーテル」と名付けられた。お兄ちゃんは勿論「ヘンゼル」。親の仕事も私たちの生活も安定していたし、きっと幸せな暮らしをしていた筈だ。一体、どこで間違えたんだろう。
私はママの差し出す服を何の躊躇いも無く着ていた。それは着るのがとてもめんどくさい、「ゴスロリ」と言われる格好だ。ママは可愛がってくれるし私も可愛いお人形さんみたいで気に入っていた。でもその姿で学校に行くと皆に変な目で見られる。先生にも「普通」の格好で来てくれと言われた。私の普通は、皆からして普通じゃ無いらしい。落ち込む私を、お兄ちゃんは優しく慰めてくれた。
「落ち込む姿も可愛らしいからさ 皆が認めてくれなくても俺は認める!だから元気出せ!」
お兄ちゃんの言葉は、今でも私の中で生きる希望だ。
ママもパパも、「女の子」である私を可愛がる。着せ替え人形としても、踊る人形としても。偶に理不尽な事を言われればお兄ちゃんが慰めてくれる。私は、そんな幸せを噛み締めていた。
でも、お兄ちゃんは違った。
お兄ちゃんはそんな私を、心の中できっと嫌っていた。
だから殺した。ママも。パパも。そしてきっと、これから私も。
「グレーテル…ごめんよ…」
鋭利な刃物で切り付ける。貫いたのは、「お兄ちゃん」の首だった。
「なんで……なんで!!!」
私は泣き叫ぶ事しか出来ない。私は、この幸せが突然壊れた事を認めたくなかった。いつもの日常いつもの帰り道。家に入ればお兄ちゃんが血だらけで、ママとパパだった物があって…。
私は逃げ出すように自分の部屋に籠った。布団の中で震えてた。きっとこれは悪い夢。目を開ければ、優しいお兄ちゃんとママとパパが笑っている。そう信じていた。
扉が開く音がした。きっとお兄ちゃんだ。私を起こしに来た?それとも…私を殺しに来た?…もうどっちでもいいから、早くこの悪夢から醒めて…
「生きてる?」
女性の声。誰なのか、全然分からない。
「…知らない 分かんないよ…」
助けを求めるように、その知らない誰かに布団の中から訴える。
そこから返事は無く、何か物音だけがしばらくの間響いていた。
「きっと これから幸せになれる だから諦めないで」
声の主はそれだけを言って、部屋を出て行った。私はいつの間にか眠っていた後、ゆっくりと布団から世界を覗いた。何も変わらない、私の部屋。でも香る、血の匂いが。
私はゆっくりと立ち上がり、拙い足で部屋を出ようとした。コツンと、足元に何かが当たる。
「……仮面?」




