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小説家の俺が、自分の書いた世界に転生したら、主人公の運命が詰んでいた件 (Ink to steel :Rebirth of the novelist)  作者: Mas amba


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第6話 最初のクエスト ― 厚原凛の魔力を試す

 数か月に及ぶ訓練を終えた夜。

 レオモードの家の一室で、凛は自分の掌に灯る小さな炎を、じっと見つめていた。

 パチ……パチ……

 指先ほどの火球。

 威力も存在感も乏しい――だが、それでも確かに“魔力”だった。

(小さいけど……間違いなく一歩前進だ)

 この世界に来た本当の目的。

 それは――自分が書いた物語の運命を、書き換えること。

 そのための、最初の証明。

 その時――

 チン!

 青い光が空中に浮かび上がり、いつもよりも大きなホログラムが凛の前に展開された。

 凛は露骨に舌打ちする。

「……またかよ。脅かすのが趣味なのか、お前」

 無機質な文字が、丁寧に表示される。

【初回クエストが開放されました】

【――『初期魔力評価:作家と主人公の共同検証』】

 凛は眉をひそめた。

「タイトルからして嫌な予感しかしないんだが……完全にプロジェクト管理じゃねぇか」

 ホログラムが淡く光り、選択肢が順に表示される。

 ① クエスト

『レオモードの損傷した魔力経路の再活性化を補助せよ』

【説明】

 過去の負傷により、レオモード様の魔力経路の一部が弱体化しております。

 主人公と協力し、経路の修復を行ってください。

【報酬】

 ・スキルポイント+5

 ・レオモード様との絆レベル上昇

 凛は目を瞬かせた。

「……は? レオモードに魔力経路の故障?

 そんな設定……俺、書いてないぞ?」

 すぐさま、丁寧な返答が表示される。

【作者様が観測していない間も、世界は自律的に成長を続けます】

 凛は天井を仰いだ。

「……マジかよ。

 自作世界が勝手に反抗期迎えてんじゃねぇか……」

 ② クエスト

『西の森に発生した魔獣異常を鎮静化せよ』

【説明】

 西の森にて魔力歪曲が発生し、魔獣の凶暴化が確認されました。

 レオモード様と共に原因を調査してください。

【報酬】

 ・スキルポイント+7

 ・スキル解放【マナ感知 Lv.1】

 凛は深く息を吐いた。

「……初心者時代に適当に書いたサブプロットばっかり、

 なんでこういうのだけ真っ先に現実化すんだよ……」

 ③ クエスト

『魔獣の核を10個収集し、【ファイアボール】を強化せよ』

【説明】

 主人公との狩猟によって得た素材を使用し、

 作者専用スキルの成長を促してください。

【報酬】

 ・【ファイアボール】Lv+1

 ・スキルポイント+3

 凛は小声で唸った。

「……これならいけそうだけど……

 また魔獣かよ。体が巨大イノシシに追いかけられる準備できてねぇぞ」

 ホログラムがまとめるように表示を更新する。

【必須選択:クエストを1つ選択してください】

【選択内容は、世界および主人公の成長方針に影響します】

 凛は鼻で笑った。

「乙女ゲームのルート選択かよ……

 しかも失敗したら死ぬタイプのやつ」

 その時――

 ギィ……

 扉が開き、レオモードが水の入ったコップを二つ持って部屋に入ってきた。

「さっきから騒がしいな。

 火炎蚊にでも襲われたか?」

 凛は慌ててホログラムを閉じる。

「違う。人生に襲われてただけだ」

 レオモードは椅子に腰掛ける。

「それは日常だな」

「……俺、ここ出ていってもいいんだぞ」

「構わないが、西の森で魔獣が荒れている」

 凛の動きが止まった。

「……今、なんて?」

「今夜、見回りの兵が異常な魔獣を確認した。

 普段とは様子が違うらしい」

 凛の背筋に、冷たいものが走る。

(――一致してる)

 その瞬間、凛の視界の端に、再びホログラムが浮かぶ。

【クエスト②は、現在の世界状況と高い関連性があります】

 凛は顔を覆った。

「……なんで毎回、タイミングが完璧なんだよ……」

 レオモードが怪訝そうに見る。

「顔色が悪いな。体調か?」

「違う……ただ、

 今、俺が動かないといけない気がしただけだ」

 レオモードは溜息をついた。

「ついてくるなら足手まといになるな。

 魔力は、まだ安定したばかりだろう」

 凛は布団を跳ね除け、立ち上がる。

「……今始めないと、

 俺は自分が書いたプロットで死ぬ」

「?」

「忘れろ」

 二人が並んで外へ出た瞬間、ホログラムが最終通知を表示する。

【クエスト選択完了】

『西の森の魔獣異常を鎮静化せよ』

【作家と主人公の共同行動が必須です】

【評価を開始します】

 凛は鼻で笑った。

「共同作業?

 俺の顔を貶すのが趣味の男と?」

 レオモードが振り返る。

「何か言ったか?」

「いや……行こう、相棒」

 レオモードは目を見開いた。

「……相棒、だと?」

 凛は息を吸う。

「今だけだ。……頼る」

 一瞬の沈黙の後、レオモードが小さく笑った。

「いいだろう。死ぬなよ」

「死は選択肢にない。俺は――この世界の作者だ」

 レオモードが足を止める。

「……何?」

「いや、

 生存能力が高いって意味だ!」

「全然違う」

「黙れ!」

 松明が揺れ、夜風が木々を撫でる。

 遠くで――魔獣の咆哮が響いた。

 ゴォォォ……

 凛は拳を握り、魔力の流れを感じ取る。

 小さな【ファイアボール】。

 安定したばかりの魔力。

 脆い精神。

 貧弱な肉体。

 それでも――

 これが、最初のクエスト。

 レオモードの運命を。

 カーミラの未来を。

 そして――

『Iron Fate Chronicle』の結末を変える第一歩。

 レオモードが横目で見る。

「厚原凛。……怖いか?」

 凛は皮肉な笑みを浮かべた。

「……俺の顔で魔獣がトラウマにならないか心配だ」

 レオモードが豪快に笑った。

「いい。そういう調子だ」

 二人は、歪んだ森の闇へと足を踏み入れた。

 西の森は、本来なら夜でも静かな場所だ。

 しかし今夜は――違った。

 薄い霧。

 意思を持つかのように渦巻く風。

 空気に混じる、歪で不快な魔力。

 凛は身震いする。

「……ここ、本来はレベル15帯なんだが。

 なんでレベル1で来てんだ、俺」

「何を言っている」

「いや! 自己嫌悪だ!」

「それは悪くない習慣だ」

 凛は殴りたくなったが、両手は命綱だった。

 ズズ……

 ドン……!

 突然、地面が揺れた。

 レオモードが剣に手をかける。

「……これは、通常の魔獣の気配ではない」

 凛も見た。

 紫色の光が、木々を侵食するように漂っている。

 空間が裂けるような、不自然な歪み。

 ――ドォン!!

 一本の木が、内側から爆ぜた。

 その奥から現れたのは――

 赤い目をした巨大な狼。

 口から黒い泡を垂らす、歪んだディアウルフ。

 凛は絶句した。

「……文章で書くより百倍怖いな」

 レオモードが剣を抜く。

「後ろにいろ!」

 グルルル……!

 ディアウルフが一瞬で距離を詰める。

 ガキィン!

 爪を受け止めたレオモードが、数歩押し戻される。

「速い……!」

 凛は震えながらも手を上げた。

(今だ……!)

「いけ……!

 ファイアボール!」

 ぽっ――

 出現したのは、卵サイズの火球。

「……小さすぎだろ」

 レオモードが叫ぶ。

「それ、攻撃か!?」

「今は黙れ!!」

 ディアウルフが火球を見て唸る。

 グルルルル……!!

 まるで侮辱されたかのように、怒りが増す。

「なんでキレてんだよ!?」

「攻撃が舐めているからだ!」

 凛は歯を食いしばる。

(全部、注ぎ込め……!)

 火球が震え、わずかに光量を増す。

 凛は前へ踏み出した。

「喰らえぇぇ!!」

 ボォォッ――ポスッ!

 火球はディアウルフの左眼に直撃。

 ギャウゥゥゥン!!

 威力は低い。

 だが、確実に――怯ませた。

 その隙を、レオモードが逃さない。

 ザシュッ!!

 剣閃一閃。

 ディアウルフは地に伏した。

 はぁ……はぁ……

 凛は地面に座り込む。

「……倒した……?

 いや、ダメージしょぼすぎだろ……」

 ホログラムが現れる。

【ファイアボール 経験値+20】

【進行度:20/50】

【威力は低いですが、最適なタイミングでした。お疲れ様です、作者様】

 凛は眉をひそめた。

「……煽り性能高すぎだろ、このシステム」

 レオモードがじっと見る。

「厚原凛」

「ん?」

「攻撃は酷い。

 だが、判断は完璧だった」

 凛は目を伏せる。

「……それ、褒めてる?」

「両方だ」

「……ありがとう」

「泣くな」

「泣いてねぇ! 霧だ!」

「霧は顔に集まらない」

「レオモード!!」

 その時――

 ズズ……

 紫の光が、再び脈動した。

 レオモードが剣を構える。

「……まだ終わりじゃない」

 凛は小さな火球を再び灯す。

「……俺の最初のクエスト、

 本気で俺を殺しに来てるな」

 森の奥から、何かが――動いた。


――つづく

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