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小説家の俺が、自分の書いた世界に転生したら、主人公の運命が詰んでいた件 (Ink to steel :Rebirth of the novelist)  作者: Mas amba


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第5話 ホログラム、マナ、そして容赦なく殴ってくる現実

 その夜。

 アルデリアが帰り、レオモードが半壊した家の後片付けに追われている間、

 あつはら・りんは、彼から与えられた小さな部屋へと戻った。

 部屋は簡素だった。

 薄いベッド。

 ひび割れた木の机。

 そして、暗い森に面した小さな窓が一つ。

 凛はベッドの端に腰を下ろし、自分の手のひらをじっと見つめる。

「……さっきのスキル。

 《ライターズ・クイル》」

 彼はもう一度、空中に向かって手を伸ばし、書くような仕草をしてみた。

 ――何も起こらない。

 黒いインクも、光も、文字も。

「……は?

 冗談だろ。

 一番クソみたいなスキルすら、もう使えないのかよ」

 深くため息をつく。

「おい、システム。

 ホログラムでも、管理者でも、何でもいい。

 説明しろ」

 ――ティン!

 青いホログラムが、彼の目の前に展開された。

【ご質問をどうぞ】

 凛は頭を掻きながら言う。

「さっきのスキルだ。

 なんで使えない?

 クールタイムか?」

【スキル

 《ライターズ・クイル ― 現実改変文(Lv.1)》は

『プロタゴニストが瀕死状態の時』のみ発動します】

 凛の思考が止まった。

「……は?」

【このスキルは、

 世界の最重要目的――

 プロタゴニストの生存を維持するための

 緊急救済機構です】

 凛は眉をひそめる。

「待て。

 つまり……俺のスキル、

 レオモードが死にかけないと使えないってことか?」

【その通りです】

「……心臓に悪すぎるだろ、そんなスキル」

【警告:

 スキルを使用しても、

 プロタゴニストの生存が保証されるわけではありません】

 ――パンッ!

 凛は両手で自分の顔を叩いた。

「……本気かよ。

 役に立たないどころか、

 使っても助かるか分からないとか……

 存在意義どこだよ!」

【試みることに意味があります】

「……役に立たない回答、ありがとう」

 凛は深く息を吐き、次の質問を投げた。

「じゃあ、そのスキルに必要な

 “コイン”ってのは、どうやって手に入れる?」

 ホログラムが淡く光る。

【クエスト達成】

【重要人物との関与】

【物語の流れの改変】

【世界の運命に影響を与える行動】

【これらにより

 “ストーリー・コイン”が付与されます】

【付与量は、物語への影響度に比例します】

 凛の背筋が僅かに強張る。

「……つまり

 《アイアン フェイト クロニクル》の展開を変えれば、

 俺は強くなれる……?」

【はい】

 凛は唇を噛みしめた。

 脳裏に浮かぶのは、アルデリアの姿。

 ――彼女は、いずれ死ぬ。

 あの悲劇の章で。

 もし運命を変えられたら。

 コインも得られて、

 彼女も救える。

 凛は小さく頷いた。

「……分かった。

 それがルートなら、やるしかない」

 だが、まだ引っかかることがあった。

「それで……魔法だ。

 俺も使えるって言ってたな?」

【はい。

 使用者がマナを有していれば可能です】

「……あっ」

 凛は思わず声を上げた。

「そうだ。

 俺の小説だ……」

 《アイアン フェイト クロニクル》では、

 魔法の使用は体内の“マナ容器”に依存する。

 魔術師は容器が大きい。

 剣士は小さい。

 だから剣士は、補助魔法や簡易魔法しか使えない。

 凛は両手を見つめる。

「俺も……

 この世界の人間なら、

 マナ容器はあるんだよな?」

【はい。

 ただし――】

【あなたのマナ容器は

 極めて小さいです】

「……たようね!!

 期待した俺が馬鹿だった!」

 盛大にため息。

「でも、鍛えられるんだろ?」

【はい。

 適切な方法であれば】

 凛の脳裏に、一人の男が浮かんだ。

 レオモード サハラ。

 天才剣士。

 基礎マナ理論にも精通した男。

「……他に選択肢はないか」

 凛は部屋を出た。

 家の裏庭。

 夜風が冷たい中、

 レオモードは壊れた柵を修理していた。

「レオモード」

「ん?

 腹減ったか?」

「……今回は違う」

 凛は息を整え、真っ直ぐ言う。

「俺を……

 鍛えてほしい」

 レオモードの動きが止まった。

 困惑。

 驚き。

 そして、笑い。

「……お前が?

 さっき、ロガーが叫んだだけで

 青ざめてた奴が?」

「俺にも……

 一応、プライドはある」

「へぇ。

 顔が独特なだけかと思ってた」

 凛は石を投げかけそうになったが、我慢した。

「マナ制御を学びたい。

 この世界で生きるなら、必要だ。

 ……教えられるのは、お前しかいない」

 レオモードはしばらく黙って凛を見つめた。

「……変な奴だな」

「今さらだ」

「だが――」

 彼は剣を肩に担ぐ。

「教えるのは構わない。

 ただし……

 かなり痛いぞ」

「え?

 マナ修行って、座って瞑想じゃないのか?」

 レオモードが、嫌な笑みを浮かべた。

「初心者はな。

 まず、体の“道”を開く必要がある」

「……言い方が嫌だ」

「そして、めちゃくちゃ痛い」

「俺を殺す気か?」

「殺さない。

 少しだけ、死にたくなる」

 凛は後悔した。

 ……が、背筋を伸ばす。

「……やる」

「いいだろ。

 明日の朝からだ」

 凛は頷いた。

 この修行は――

 自分のためだけじゃない。

 アーデリアの運命。

 そして、

 レオモード自身の闇の未来を変えるためだ。

 翌朝。

 家の裏庭。

 風は穏やか――

 だが凛の顔色は最悪だった。

「……本当に大丈夫か?

 普段より酷いぞ」

「……元から酷い顔だって言いたいなら黙れ」

 マナを巡らせる。

 だが体が拒否する。

 ――ズキリ。

「ぐっ……!」

 凛は倒れ込む。

「触るな……

 今、いけそうなんだ……!」

「本当に頑固だな……」

 何度も失敗。

 何度も激痛。

 だが――

 ――カチリ。

 何かが噛み合った。

 温かい流れが、全身を巡る。

「……できた?

 マナの道……開いた……?」

 レオモードが目を見開く。

「……本気か。

 顔はアレだが、根性は認める」

「余計だ」

 それから数週間。

 倒れ。

 気絶し。

 引きずられ。

 それでも凛は続けた。

 ――そして。

 マナは、細いが確かな流れとなった。

「……成功だ」

 レオモードは肩を叩く。

「おめでとう。

 正直、ここまで来るとは思わなかった」

「俺は天才だからな」

「嘘つけ」

 ――ティン!

 ホログラムが出現。

【新スキル獲得】

 《ファイア・ボール(Lv.1)》

【分類:攻撃魔法】

【特性:作者専用・欠陥仕様】

「……あっ、

 これギャグ用に作った

 クソ弱魔法だ!」

 小さな火球が、卵サイズで浮かぶ。

「……小さっ」

「それ、灯りか?」

 ――ボフッ!

 小さな爆発。

「……まあ、使えなくはない」

【強化可能】

【次のレベルには

 スキルポイント10が必要です】

「……どうやって?」

【モンスター討伐】

【世界クエスト】

【プロタゴニストの成長補助】

 凛は鼻をつまんだ。

「……結局、

 俺は主人公のために働かされるのかよ」

「独り言か?」

「違う。

 お前の将来を心配してるだけだ」

「余計なお世話だ!」

 凛は歩き去る。

 ――だが、まだ知らない。

 この修行は、

 自分が書いた“地獄”の、

 ほんの序章に過ぎないことを。

――つづく

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