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小説家の俺が、自分の書いた世界に転生したら、主人公の運命が詰んでいた件 (Ink to steel :Rebirth of the novelist)  作者: Mas amba


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第3話 歓迎されない顔と突然のサブクエスト

 凛は息を切らしながら、前を歩くレオモードを必死に追いかけていた。

「ま、待ってください……! ぼ、僕……置いていかれないから……!」

 そう叫んだ直後だった。

 前だけを見て走っていた凛の肩が、何か小さくて軽いものにぶつかる。

 ――ゴンッ!

「うわぁ――!」

 小さな女の子が、後ろに転んだ。

 凛は一瞬で血の気が引いた。

「えっ!? ご、ごめん だ、大丈夫!? 立てるか? 怪我は――」

 少女はゆっくりと顔を上げ、凛の顔を見た。

 そして、次の瞬間――

「うわああああああああああああ!!」

 街に響き渡るような大泣きだった。

 まるで非常警報のサイレンのような音量。

 凛は、その場で完全に固まった。

「え……? な、何で……? どこか痛いんか? 足を捻ったとか……?」

 少女は激しく首を横に振りながら、さらに大声で泣き続ける。

 そして、震える指で――凛の顔を指差した。

 凛は、言葉を失った。

「……ああ……なるほど……理由は……それか……」

 その後ろで、追いついてきたレオモードが、必死に笑いをこらえていた。

 肩が小刻みに震えている。

「ぷっ――は、ははは……っ! ご、ごめん……っ! 真剣になろうとはしてるんが……っ! いや、その……顔が……っ、ははは!」

「笑っている場合じゃないよう、この無神経な騎士さん……!」

 凛は本気で睨んだ。

 ようやくレオモードは咳払いをし、少女の前にしゃがみ込む。

「大丈夫か? ほら、こっちにおいで」

 不思議なことに――

 少女の泣き声は、ぴたりと止まった。

 涙で濡れた瞳が、きらきらと輝きながらレオモードを見上げる。

「……おにいちゃん……かっこいい……」

「ありがとう」

 レオモードは、穏やかに微笑んだ。

 凛は、無言で地面を見つめるしかなかった。

「……そこまで……差があるんだね……」

 少女が元気に去っていった後、レオモードは凛の肩を軽く叩いた。

「気にするな。顔なんて、ただの顔だ」

「さっき五秒くらい全力で笑ったよね?」

「……反射だ。でも本当に、子供の反応くらいで心が折れるな」

 二人は再び街を歩き始めた。

 ――が。

 通りすがる人々の反応は、容赦なかった。

「うわっ……!」

「え……なに、あの人……?」

「ちょっと……顔が……」

 凛は深く俯いた。

「……この世界、リアルすぎないか? 人の心を折ることに関して」

「少なくとも、衛兵を呼ばれていないだけマシだ」

「“少なくとも”って言葉、お前本当に慰めに向いてないよ」

 やがて二人は、一軒の家の前に辿り着いた。

 質素だが手入れの行き届いた家。

 庭には薬草が植えられ、薪が整然と積まれている。

 レオモードが扉を開けた。

「ここが俺の家だ」

 凛は大きく息を吐いた。

「……この後、真剣に顔を治す方法を探すべきかもしれない」

「できるならな」

「さらっと無理そうに言わないで!」

 凛はレオモードの後について中へ入る。

 胸の奥には、恥ずかしさ、虚しさ、そして―― それでもレオモードだけは、自分を怪物扱いしないという、かすかな安堵があった。

 家の中は、外見通り簡素だが頑丈だった。

 暗い色の木材、古びたカーテン、小さな棚に並ぶ薬草。

 凛は、居間に立ったまま、呆然とする。

「……同じだ……完全に……僕の小説と……」

 当然、レオモードに意味は分からない。

「なんだその目は。博物館にでも来た気分か?」

「感心しちゃいけないか? いい家だろう」

「その表情だと、低ランク魔物の巣を見つけたみたいだが」

 凛は深くため息をついた。

 椅子に座ると、薬草茶の香りが広がる。

 温かく、落ち着いていて――懐かしい。

「……これも……書いた通りだ……」

「ん?」

 レオモードが訝しげに見る。

「独り言が多いな。中身も外見通りか?」

 凛は無表情で返した。

「ありがとう。お前みたいな顔と性格を――あ、やめておく」

「何だ?」

「自尊心のために、黙秘する」

 レオモードは舌打ちした。

 茶を飲みながら、皮肉な会話が続く。

「一人暮らしか?」

「そうだ。誰も俺と暮らすほど忍耐強くない」

「……でしょうね。あ、いえ、理解できる」

「何をだ?」

「お前の性格の美しさ。紙やすりみたいなところ」

「……本当に腹立つな、お前」

 睨み合った、その瞬間――

 ――ドンッ!!

 家全体が揺れた。

 茶がこぼれそうになる。

 レオモードは即座に立ち上がり、表情が変わった。

「庭だ」

 凛が窓を見ると――目を見開いた。

 そこには、黒いフードを被った屈強な男。

 巨大な剣を担ぎ、凶悪な気配を放っている。

「レオモード・サハラァ!! 出てこい!!」

 凛は跳ね上がった。

「だ、誰ですか!? なんで――」

 その瞬間。

 凛の視界に、青い半透明のホログラムが出現した。

【サブクエストが発生しました】

 クエスト名:

 《ロガー・ザ・アイアン・レイヴァジャー》

 危険度:中

 主な標的:レオモード・サハラ

 選択肢:

 ・戦闘

 ・逃走

 ・レオモードが死亡するのを見届ける(※推奨されません)

「……ま、また……出た……!?」

 凛は愕然とした。

 しかし、レオモードは何も見えていない。

「急に固まってどうした。まさか、怖気づいたのか?」

 凛はホログラムを指差す。

「ク、クエストだ! また出た! しかも……あなたが標的だ!」

「妄想は後にしろ」

 レオモードは剣を取った。

 フードの男が一歩踏み出し、門を一撃で破壊する。

「ついに見つけたぞ……呪われた騎士よ!」

 レオモードは、落ち着いた足取りで外へ出る。

 凛も、恐怖を押し殺して続いた。

「レオモード……あの人、本気で殺しに来て!」

「当たり前だろ。門を壊して叫ぶ奴は、商談には来ない」

 凛は顔を覆った。

「……なんで僕……こんなキャラを書いたんだ……」

 男は剣を振り上げる。

「覚悟しろ!!」

 レオモードも剣を抜く。

 冷たい気配が広がった。

 こうして――

 凛の目の前で、戦いが始まった。

 恐怖と、畏怖と、そして――

 自分の書いた物語が、現実として動き出したことへの後悔を抱えながら。

――つづく

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