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小説家の俺が、自分の書いた世界に転生したら、主人公の運命が詰んでいた件 (Ink to steel :Rebirth of the novelist)  作者: Mas amba


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第20話 知識は武器になる

 アシュトン公爵は椅子に腰掛けたまま、期待と不安が入り混じった表情で前方を見つめていた。

 その視線の先では、凛が部屋の中を行ったり来たりしている。

 ――まるで正気を失った研究者だ。

 背後には、レオモードとアーデリアが控えている。

 即席の護衛役――いや、“この怪しい医者が患者を誤って殺さないよう監視する役”と言ったほうが正しい。

 凛は大きく息を吐いた。

「さて、アシュトン公爵。治療を始めるために……まずは道具が必要です」

 アシュトンは即座に背筋を伸ばした。

「必要なものはすべて用意しよう。今すぐだ」

 凛は手元にホログラムパネルを展開し、猛烈な速度で入力を始めた。

 その指の動きは、まるでゲーム開発者か狂気の錬金術師のようだった。

 レオモードは困惑した表情でそれを見つめる。

 アーデリアは眉をひそめた。

 ――なぜこの男は、こんな時だけ異様に“専門家”に見えるのか。

 やがて凛は読み上げる。

「熱湯……

 滅菌済みの布……

 ガラス容器……

 薬草。天然の防腐作用があるもの……

 高濃度アルコール……

 薬用オイル……

 そして――」

 一拍置いて。

「外科用の刃物」

 アシュトンの表情が凍りついた。

「……刃物、だと?」

 凛は薄く笑った。

「ご安心ください。お嬢様を解剖するわけではありません」

 その言葉に、レオモードとアーデリアの顔色が一気に青ざめる。

「感染源が膿になっている場合、切開して排出する必要があるだけ」

 二人は同時に息を呑んだ。

 その時、凛の前にホログラムが浮かび上がる。

【システム】

【警告:本世界には近代医療用物資の多くが存在しません】

【代替案:同等の化学的性質・効果を持つ素材を探索してください】

 凛は舌打ちした。

「やっぱりか……自作小説世界。抗生物質なんてあるわけないよな」

 アーデリアが怪訝そうに睨む。

「……また独り言?」

 凛は咳払いした。

「いえ。集中しょう。代用品を探する」

 こうして三人はレガネス邸を出て、周辺の村へと向かった。

 凛は完全に“狂った研究者”だった。

 地面にしゃがみ込み、植物を引き抜き、匂いを嗅ぎ、時には樹液を指で触り、ホログラムに書き込んでいく。

 アーデリアは若干引き気味だった。

「……この人、変態じゃなかったら迷子の錬金術師ね」

 レオモードは心配そうに尋ねる。

「篤原……それ、本当に嗅ぐ必要があるのか?」

「匂いの分析は、天然防腐成分の特定において基本中の基本」

 凛は自信満々に説明する。

「元の世界の黄連――コプティスに近い成分だな。抗菌性が高い」

 アーデリアは首を傾げた。

「……コプティス?」

「えーと……遠方の地域の植物だ」

 道中、凛は葉を嗅ぎ、根を砕き、樹液を観察し続けた。

 どれもこの世界の常識とはかけ離れている。

 ――でも。

「……変態だけど、頭は切れるわね」

 アーデリアは小さく呟いた。

 レオモードは兄のように周囲を警戒する。

「篤原、それは毒草だ」

「最高じゃないですか。防腐力が強い証拠です」

「そういう問題ではない……」

 その時、ホログラムが反応する。

【システム】

【代替素材発見:『ナイトブルーム樹脂』】

【効果:抗生物質に類似】

【抽出方法:加熱蒸留】

 凛は即座に叫んだ。

「レオモード! アーデリア! ナイトブルームだ!」

 アーデリアは頷く。

「場所は知ってる。でも注意して。あそこはCランクモンスターが出る」

 夕暮れの光の中、三人は目的地へ辿り着いた。

 青く淡く光る花々――ナイトブルームが静かに揺れている。

 凛は息を呑んだ。

「正しく抽出すれば……この世界最強クラスの抗菌薬になる」

 手を伸ばした瞬間――

グオオオオオッ!!

 巨大な牙を持つ魔物、ボア・ファングが姿を現した。

 レオモードは即座に剣を構え、

 アーデリアも剣を抜く。

 凛は叫んだ。

「おい! ここで死ぬな! 俺はその素材が必要なんだ!」

「今は慌てる場面じゃない!」

 アーデリアが叱る。

 レオモードは薄く笑った。

「久しぶりだな……こうして一緒に戦うのは」

 三人は連携し、激闘の末に魔物を討伐した。

 なお凛は後方で石を投げていた。

 ――本人曰く「戦術的支援」。

 戦闘後、凛は慎重にナイトブルーム樹脂を採取した。

「完璧だ。これで……天然抗生物質を試作できる」

 用意された即席研究室で、凛は休むことなく作業を続けた。

 粉砕、蒸留、加熱。

 苦く鋭い匂いが部屋に満ちる。

 アーデリアは器具を滅菌し、

 レオモードは湯を用意し、凛の奇妙なメモを管理する。

 凛はまるで――

 医学生であり、錬金術師であり、疲労困憊の研究者だった。

「……よし。あと一工程」

 ホログラムが表示される。

【システム】

【初期治療薬完成予測:成功率78%】

【警告:軽度の副作用が発生する可能性があります】

 凛は背筋を伸ばした。

「――行こう」

「今度こそ……ギネヴィア レガネスを治す」


――つづく

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