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小説家の俺が、自分の書いた世界に転生したら、主人公の運命が詰んでいた件 (Ink to steel :Rebirth of the novelist)  作者: Mas amba


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第2話 焼き肉の香り、街道の皮肉、そして待ち受ける街

 呪われた森を抜ける頃、空はゆっくりと橙色に染まり始めていた。

凛とレオモードは、森の外へと続く道を歩き続けている。

土の道には、木の根が露出し、濡れた石が転がり、時折「出会いたくない何か」の気配が風に混じっていた。

凛は小さくぶつぶつと文句を言きながら歩いている。

『アイアン フェイト クロニクル』の流れを思い出す限り……最初の街までの道はそこそこ安全なはずなんだよな。Dランクモンスターが少し出て、あとはクールなキャラ掘り下げ会話があるくらいで……」

疲れた顔のまま、どこか懐かしそうに空を見上げる。

「それで次は、お前――」

凛はハッとしたように口を押さえた。

危うく、自分が書いた物語のネタバレを口にするところだった。

レオモードが横目で睨む。無表情だが、疑念がはっきり浮かんでいる。

「……なぜさっきから独り言ばかり言っている。頭は大丈夫か?」

「今……人生のプロットを分析してる」

「人生の、プロット?」

「そう。お前の人生だけど、もうちょっと“ここまで酷くないバージョン”」

レオモードは小さく歯を噛みしめた。呆れと苛立ちが半々だ。

「……本当に奇妙な人間だ。お前の言葉は、なぜか背筋が寒くなる」

凛は皮肉げに笑う。

「高知能の副作用だよ。誰でも俺の思考を理解できるわけじゃない」

「……お前がそこまで賢いとは思えないが」

「おい! 俺はプロの作家だぞ!

まあ……今はノートパソコンもないし……異世界無職だけど……それでもだ!」

レオモードはしばらく黙ってリンを見つめ――

小さく、ほんのわずかに笑った。

ほとんど聞き取れないほどの微笑だ。

「……本当に、面倒な人間だ」

凛は目を回す。

「一人で生きて、孤独に死にたいならどうぞ。でも俺は付いていく」

「誰が付いて来いと言った」

「お前の心の声」

レオモードの肩がピクリと跳ねる。

「何だそれは。意味不明な――」

その時。

「ぐぅぅぅ……」

凛の腹が、盛大に鳴った。

レオモードは手で顔を覆った。

「……やはりか。人間は食事が必要だ。なぜもっと早く言わない」

「怒られると思って……」

「今、怒っている」

「ですよねー」

レオモードは深く溜息をついた。

「……仕方ない。俺も少し空腹だ」

凛が目を見開く。

「え!? お前も腹減るの!?

剣聖みたいなやつでも普通に空腹感じるんだな!」

「……俺を何だと思っている」

「えーっと……時々モンスター?」

レオモードは小石を蹴り、凛の足元に飛ばした。

「黙れ。狩りに行くぞ」

即席の狩り

レオモードは風のように森を駆ける。

凛は必死に後を追い、息を切らしていた。

(やばい……俺、こいつを強くしすぎた……

 スピード設定どうなってんだよ……!?)

数分後、彼らは獲物を見つけた。

フォレスト・ヘア。

山羊ほどの大きさの角付き巨大兎だ。

レオモードは剣を抜く。

「これで十分だ」

「マジかよ……俺、これ初心者用スナック枠で書いたんだけど……」

一閃。

フォレスト・ヘアは悲鳴すら上げずに倒れた。

「……確かにスナックだな」

レオモードはリンを見る。

「火は扱えるか?」

「徹夜してカップ麺食ってた作家に期待するな」

レオモードは目を閉じた。

「……連れてきたことを本気で後悔している」

焼き肉の香りと存在的な不安

しばらくして、小さな焚き火が起こされ、兎肉が焼かれていた。

凛は肉を見つめる。

空腹と恐怖が入り混じった目だ。

「……本当に、食べられるやつ?」

「問題ない」

レオモードは落ち着いた手つきで肉を返す。

「冒険者の間では一般的な食料だ」

「でも……リアルすぎる……」

「食べるか、食べないか」

凛は唾を飲み込む。

「もし俺が毒で死んだら……後世に語り継いでくれ……」

「死体を街まで運ぶ。それだけだ」

「……心が冷たすぎる」

レオモードは最初の一切れを差し出した。

「ほら」

凛は受け取り、匂いを嗅ぎ――

噛んだ。

目が見開かれる。

「こ、これは――!?」

「……苦すぎたか?」

「焼き肉の味そのまんまじゃねぇか!!」

「……つまり、美味い?」

「激ウマだよ!!

 ああああ!! 白米が恋しい!!」

レオモードは信じられないという顔で首を振る。

「……食べさせたことを後悔している」

だが、彼も黙って肉を口に運ぶ。

凛は横目で観察した。

戦闘時とは違い、静かで丁寧な食べ方。

凛は小さく笑った。

「意外と人間らしいとこあるんだな」

レオモードは噛むのを止める。

「……最初から人間だ」

終わらない街道と容赦のない世界

食事を終えた二人は、再び街道を進み始めた。

……が。

この世界は、凛の精神状態など一切考慮しない。

モンスターが出る。

容赦なく。

五分おきに。

Dランク。

Cランク。

そして――ゴブリンの群れ。

レオモードは一切の無駄なく、それらを斬り伏せていく。

冷酷で、正確で、ためらいがない。

一方リンは――

「レオモード!! ヒゲ生えたゴブリンいる!!」

「年寄りのゴブリンだ」

「レオモード!! 足が六本あるやつ!!」

「変異狼だ」

「レオモードォォォ!!

 でかすぎる虫ぃぃぃぃ!!」

「ただの甲虫だ。臆病者」

数え切れない死体の山を越え、凛は大きく息を吐いた。

一方、レオモードは淡々と剣を拭いている。

その視線が語っていた。

――なぜ俺はこの人間を連れている?

だが、凛は気づいていた。

レオモードの動きが、微妙に変わっていることに。

少しだけ速く。

少しだけ前に出て。

まるで――

凛を庇うように。

(……完全な氷人間じゃない、か)

そんなことを考えた、その時。

見えた街

夕陽が沈みかけ、森が途切れた。

視界の先に――

高くそびえる石壁。

王国の旗が風に揺れ、

街の灯りが黄金色に瞬き始める。

石畳の道が、巨大な門へと続いていた。

凛は足を止める。

「……あれが……

 俺の物語の、最初の街……」

レオモードは、観光客のように固まるリンを見た。

「子供みたいだな」

「感動してない!!

 ただ……いや、ヤバい……

 想像と一緒すぎる……!」

レオモードは凛の肩を軽く叩く。

「行くぞ」

「レオモード……」

「何だ」

「ここまで連れてきてくれて、ありがとう」

レオモードは顔を背ける。

「……森で死なれるのは困るだけだ」

「それでも」

横目でリンを見る。

「……後悔させるな」

凛は満面の笑みを浮かべた。

そして二人は――

街へと足を踏み入れた。

彼らはまだ知らない。

この瞬間から、

世界の運命が静かに狂い始めたことを。

ブリンドルの街

門をくぐった瞬間、

凛は完全に固まった。

「……う、うわ……」

『アイアン フェイト クロニクル』 最初の街――

ブリンドル。

石畳の大通り。

色布で飾られた木造の露店。

焼きたてのパンの香り。

呼び込みの声。

荷を運ぶ人々。

走り回る子供たち。

すべてが――

生きている。

凛は震える声で呟く。

「……フェザーズ・レスト……

 俺が書いた宿屋……」

中央広場の噴水を見る。

「天使像、半分冗談で書いたのに……

 なんでこんなに綺麗なんだよ……」

香辛料屋を見て――

「ティアーズ・オブ・フレイム……

 商人、設定よりイケメンじゃねぇか……」

そして、遠くの小さな礼拝堂を見た瞬間。

「第14章で、あそこ――」

ゴン。

レオモードが容赦なく頭を叩いた。

「変なことを言うな。注目されている」

凛は周囲を見回す。

……完全に観光客扱いだった。

「……いつもこうなのか?」

「俺の世界だぞ!?

 そりゃ感動するだろ!

 子供が生まれるの見た気分だ!!

 街だけど!!」

「最悪の例えだ」

「誇らしいんだよ!

 心を込めて書いた街なんだ!」

「やめろ。本気で寒気がする」

その時、レオモルドが足を止めた。

「……あ」

老人ランゾール

白髪で長い髭。

灰色の外套、木杖。

薬草店の前に立つ老人が、レオモルドを見て目を見開いた。

「おい!!

 俺のお気に入りのクソガキ剣士じゃないか!!

 レオモード!!」

リンは固まった。

(クソガキ……?)

レオモードは溜息をつく。

「敬意はどこだ、ランゾール爺」

「そんなもんねぇ!!

 全然顔見せねぇじゃねぇか!!」

肩をバンバン叩かれ――

次に、老人の視線がリンへ。

「……ほぉ?」

上から下までじっくり見て、

深く眉をひそめる。

「レオモード……

 隣の若造……」

凛、嫌な予感。

「……なんで、そんな人生に疲れた顔してる?」

――沈黙。

レオモードの肩が震えた。

「……笑ってない……俺は……」

ランゾールはリンの顎を掴み、哀れむように首を振る。

「辛い人生だったんだな……

 顔に全部出てる……」

凛の心が死んだ。

「ち、違う!!

 俺は普通だ!!」

「大丈夫だ……

 神は試練を与える……

 顔には……恵まれなくても……」

レオモード、完全に笑い死に寸前。

「や、やめて……

 腹筋が……」

「笑うなぁぁぁ!!

 被害者は俺だ!!」

ランゾールは優しく肩を叩く。

「男前オーラの薬……

 作れなくはないが……保証はせんぞ?」

「俺は正常だ」

「うん、うん……

 諦めるな……」

――精神的ダメージ:致命傷。

レオモードは凛を引っ張って去った。

「もう十分だ。泣くぞ」

「もう泣きそうだよ!!」

「感謝しろ。あれは最大級の同情だ」

「高度な侮辱だ!!」

レオモードは肩をすくめる。

「顔が……個性的なんだ」

「褒めてない!!」

そして――

レオモードは初めて、心から笑った。

凛は溜息をつきながらも、

なぜか怒れなかった。

新たな旅の始まり

市場を歩き、店を覗き、

凛は街のすべてを目に焼き付ける。

これは――

彼の想像が生んだ世界。

だが今は、

想像を超えて生きている。

凛は胸に手を当てる。

『アイアン フェイト クロニクル』は……

 もう、物語じゃない)

レオモードが言った。

「置いていくぞ、旅人」

凛は笑う。

「置いていかれないさ」

――旅は、ここから始まる。


――つづく

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