第12話 七日後に死ぬ騎士
崩壊した鍛冶工房の外。
グレッグは対魔力特製の鎖に縛られたまま、地面に座らされていた。
アーデリアとレオモードは周囲を警戒しながら、荒くなった呼吸を整えている。
そこへ、
トーグラムがゆっくりと歩み寄った。
肩には、あの巨大な鉄槌を担いだまま。
――コツ……コツ……
その足音に反応し、グレッグがゆっくりと目を開く。
「……ふん。まだ生きてたかよ、鍛冶屋の親父」
グレッグは小さく鼻で笑った。
トーグラムは、かつての弟子の正面で足を止める。
「……なぜだ、グレッグ」
低い声だった。
怒りではない。
疲労と後悔が滲んだ声。
「なぜ、こんなことをした。
俺を……この工房を、襲う必要があったのか」
グレッグは歯を強く噛みしめる。
――沈黙。
だが、やがて――
彼は視線を落とした。
「……あんたが、俺たちを置いて行ったからだ」
アーデリアとレオモードが、同時に目を見開く。
グレッグは続けた。
「俺と……ランセルと、エリオ……
俺たちは皆、あんたみたいなソードマスターになりたかった」
「なのに……あんたは突然やめた。
理由も言わず、何も残さず、姿を消した」
拳が震える。
「俺たちは何を信じればいいか分からなくなった……
そして、二人は死んだ。
あんたの戦い方を真似して……馬鹿な選択をしたせいでな……!」
長年抑え込まれてきた怒りが、言葉となって溢れ出す。
「俺は……理由が知りたかっただけだ!
なぜ去った!?
なぜ、俺たちに“影”だけを追わせて、壊れるまで放っておいた!?」
トーグラムは、ゆっくりと目を閉じた。
強面のその顔は、どこか一気に老いたように見えた。
「……すまなかった」
グレッグの動きが止まる。
アーデリアが息を呑み、
レオモードは尊敬の混じった視線でトルグラムを見る。
トーグラムは大きく息を吸った。
「俺が剣を捨てたのは……
任務中に、仲間を殺しかけたからだ」
「力を制御できなくなった。
このまま続ければ……いつか、弟子さえも斬ると思った」
「……俺は臆病者だ、グレッグ。
恐怖から逃げた卑怯者だ」
声が、最後にかすかに震えた。
「……そして、その代償を、お前たちに背負わせた。
本当に、すまなかった」
長い沈黙。
グレッグは、ただ俯いたまま。
やがて――
力なく、吐き捨てる。
「……ちくしょう」
「結局……今でも、あんたは俺の師匠みたいなこと言いやがる……」
トーグラムは、苦く笑った。
そして――
グレッグの肩に、そっと手を置く。
「お前は王都で裁かれる。
だが……変わりたいと思うなら、まだ道はある」
グレッグは顔を背け、感情を隠すように呟いた。
「……勝手にしろ」
アーデリアが一歩前に出る。
「彼は私が王都の牢へ連行します。
西の森もまだ安全とは言えません。私は先に戻ります」
鎖を引かれ、グレッグは立ち上がる。
トーグラムは頷き――
次に、レオモードへと視線を向けた。
「レオモード。剣を出せ」
レオモードは、折れかけた剣を差し出す。
「まだ直せる。
新品同然……いや、それ以上にしてやろう」
アーデリアも、へこんだ鎧を差し出した。
トーグラムは胸を叩く。
「三日で仕上げる。
今日のお前たちは……化け物みたいに戦った。
その価値はある」
レオモードは満足そうに微笑み、
アーデリアは深く頭を下げた。
――そして。
篤原 凛は?
工房の隅で膝を抱え、まだ半死半生だった。
トーグラムが彼を見る。
「……お前も、ありがとうな。坊主」
凛は力の抜けた笑顔を浮かべる。
「へへ……
助けなかったら、アーデリアさん死んでたかもしれませんし……
そしたら、タイムライン崩壊しますし……」
「……何?」
「あ、いえ!
つまり……俺、良い人なので!」
アーデリアが顔を赤くして舌打ちした。
「この変態……
でも、今日は役に立ったわ」
それから三日後。
トーグラム叔父の鍛冶工房は、ほとんど変わっていなかった。
熱を帯びた金属の匂い。
炉から飛ぶ火花。
カン、カン、と響く槌音。
篤原 凛、レオモード、アーデリアは工房へ入る。
凛は一瞬、安心した表情を見せ――
「……ええええっ!?」
工房の隅を指差す。
そこには、
筋肉質で、ボサボサ頭の男が炉の送風機を動かしていた。
――グレッグ。
「ちょっと待って!?
牢屋は!?
なんでまだここに!?
なんで送風機持ってんの!?」
グレッグは舌打ちしたが、以前のような殺気はなかった。
トーグラムが低く笑う。
「ははは! 驚いたか?
あいつは自分の意思でここにいる」
アーデリアが腕を組んで説明する。
「正式に騎士団へ出頭しました。
動機が個人的で、深く反省していると判断され……
監視付きの労働奉仕刑になったの」
グレッグは深く頭を下げる。
「刑期は一年。無給だ。
その間……過去の過ちを、ここで償いたい」
凛は瞬きを繰り返す。
「……でも、ご飯は出るんですよね?」
トーグラムは豪快に笑った。
「出さなきゃ一年持たんだろ!
安心しろ、俺は鬼じゃない」
レオモードは静かに微笑んだ。
新しい武具
トーグラムは長机の布をめくる。
そこには――
・レオモードの新しい剣
・強化されたアーデリアの鎧
剣は、淡い青光を帯び、生きているようだった。
トーグラムが言う。
「レオモード。
軽量ミスリリウムを重ねた。もう簡単には折れん」
レオモードはゆっくり剣を抜く。
「……美しい。ありがとうございます、トーグラム叔父」
アーデリアも鎧を確認し、微笑む。
「……全然違う。ありがとうございます」
「はは!
あれだけ突っ込むなら、これくらい必要だ」
「ち、違います!
任務です!」
凛は笑いそうになるのを必死で堪えた。
トーグラムは凛を呼ぶ。
「坊主、来い」
「え、俺も無給労働ですか?」
――ゴン。
軽く頭を叩かれる。
「違う。これはお前のだ」
黒い革手袋。
背には赤い魔力結晶。
「これは……?」
「イグニス・チャネラーだ。
火属性魔術師用。
正直に言うが……昨日のファイアボール、倉庫が半分燃えかけた」
「すみません……!」
「だからこそだ。
お前は、道具がないともっと厄介になる」
アーデリアがそっぽを向きながら呟く。
「……変態だけど、役には立った」
「俺変態じゃない!」
レオモードが肩を叩く。
「今のうちに受け取れ。褒め言葉は貴重だ」
凛は深く息を吐き――
心から、嬉しかった。




