召喚の神殿
気がついたら、オレは地面にぶっ倒れていた。
森の中だ。木漏れ日がまぶしい。
見覚えのある風景。
『……やっぱりだ』
オレはゆっくりと身体を起こした。
右手には、聖なる剣エグセクター。
左手には、コランダムシールド。
そして、腕にはガルヴァスの腕輪が──そのまま、あった。
(思った通りだった)
召喚の神殿と、ガルヴァスの腕輪は繋がっている。
勇者たちは、ループするたび、必ずこの神殿に現れる。
神殿は、ただの召喚の場所じゃない。
この世界の“運命の軌道”そのものに干渉する、すべての悪の始まりだ。
オレは魔王として、ここに何度も軍勢を送り込もうとした。
だが、神殿には結界が張られていた。
外側からはどうしても突破できなかった。
ならば、ガルヴァスの力でオレ自身がタイムループすれば……ここに到達できると、そう確信していた。
──召喚の神殿。
それこそが、すべての始まりであり、終わりだった。
『……ここで決着を着ける』
999人の勇者を見殺しにしてまで手に入れたこの機会。
本当にやるべきことは、もうわかっている。
この無益な召喚の連鎖を、オレが断ち切るのだ。
立ち上がって振り返った。
──あった。
白い大理石の柱が並ぶ荘厳な建物──そこに絡まる緑のツタ。
中央の門には、女神の紋章。
召喚の神殿が、今までと同じように、そこにあった。
そのとき、神殿から1人の若造が現れた。
真新しい装備、背中にはコランダムシールド。
表情は、期待と不安がないまぜになって、こっちが心配になるくらいだ。
昔のオレではない。だが雰囲気は似ていなくもない。
(また、勇者が生まれようとしている……)
若造が何か言いかけてきた。
『どけ』
オレはそいつを突き飛ばすと、神殿の階段を駆け上がった。