魔王城 2
オレたちは、ついにここまで来た。
灰色の石畳を踏みしめるたび、ブーツ越しに伝わる重たい空気。
薄暗い壁に掲げられた松明が、巨大な広間を淡い光で照らしていた。
「ここが……魔王城の、大広間」
勇者ツーがぽつりとつぶやいた。その声には、緊張と、それからほんの少しの決意が混じっていた。
ああ、戻ってきちまったな。
オレは左肩に触れる。そこには、自ら刻んだタトゥーが、ひとつ浮かんでいる。
オレの主観では2年が経っていたが、前と同じ景色──違うのは、隣に一人、もう一人のオレが立っているってことだ。
ここまでの冒険は、2人がかりでも苦労の連続だった。
盗賊のエドウィンは、ツーの説得で仲間にしたが、やっぱり裏切りやがったし。
白魔道士のエミリーとは、勇者ツーと三角関係になって、あやうくパーティが壊れそうになった。
だが結局、彼女の犠牲がなければここまで来られなかっただろう。
ツーはたくましく成長した。
オレも2回目の冒険でさらにしたたかになっていた。
「──行くゾ」
「おう」
2人で、王座に向かって歩き出す。
目の前の階段の上に、巨大な王座。そして、その上に、座ってやがった。
黒のローブを羽織った影……いや、あれが魔王だ。
背筋がすうっと冷える。
『やっと来たか』
低く、地の底から響くような声だった。
漆黒のフードの下は影になって顔も体もよく見えない。
けれど、その輪郭の一部が、赤黒く脈打つように光る。
『……お前たちが、新しい勇者だな』
その声に、ぞくりとした。畏怖……それとも、本能的な恐れか。
『だが、勇者らごときに何ができる!』
その言葉とともに、 魔王が立ち上がった。
大広間の空気が音を立てて割れた気がした。
「……うっせえんだよ」
オレたちはゆっくりと、2本の聖剣、エグセクターを抜く。
剣が熱を帯びてきた。雷光のような輝きに、大広間の影が退く。
左腕のコランダムシールドが、敵意を感じて淡くゆらめいた。
「オレたちは……お前を倒しに来たんだ。たった2人でな」
魔王は、フっ……と笑った。声に出してはいないが、その雰囲気だけでわかる。
『お前たちのような未熟者、1000人が束にならねば……ワシを倒すことなど、できぬ!』
魔王が右腕を掲げる。
そこには黒金のブレスレットがはめられていた。表面には、禍々しい紋様。
あれが魔王の証、ガルヴァスの腕輪だ。
見ているだけで、意識が引きずり込まれそうになる。
ドンッ!!
深紫と暗赤の閃光が、魔王の腕から解き放たれた。
オレたちは、すかさず盾を構える!
「──ッぐうっ!!」
衝撃。コランダムシールドがキィィん、と音を立てる。
だが……2人がかりでも防ぎきれない!?
まるで全身に、雷と炎を同時に叩きつけられたような感覚。
魔王の腕から発せられる閃光が激しさを増す。
なすすべもなく、視界がゆれて意識が遠のいた。