召喚の神殿 2
……あれ? オレ、死んだ?
いや、死にかけた……が正しいか。
気がついたら、オレは地面にぶっ倒れていた。
森の中だ。木漏れ日がまぶしい。
「……は?」
オレは勢いよく起き上がると、思わず自分の装備を確かめた。
右手にはエグセクター。コランダムシールドも近くに転がっている。
どっちも、魔王城で使ったはずだ。
「……ってことは、ここどこ?」
あたりを見回すと、すぐ後ろにあった。
白い大理石の柱が並ぶ荘厳な建物──そこに絡まる緑のツタ。
中央の門には、女神の紋章。
「ああ……召喚の神殿じゃねぇか……!」
最初に来たときと景色が一緒すぎて不気味だ。
まさか、ここからもう一度やり直し?
1年近くかけて、やっと魔王城にたどり着いたのに。
「てことは……また振り出しかよ?」
そのときだった。神殿の中から、ひとりの若造が現れた。
背負ってるのは、ピカピカのコランダムシールド。
服も新品。剣は……初期装備のままだな。
肌の色は青白く、体つきは細い。
表情は、期待と不安がないまぜになって、こっちが心配になるくらいだ。
なで肩、黒髪、地味な顔。
……どこかで見たようなヤツだ。
「っていうか……オレじゃね? あれ。1年前の」
オレは確信した。
そこにいるのは、トラックに跳ねられて目を覚ましたばかりの、かつてのオレ。
勇者になるなんて夢にも思ってなかった、1年前のオレだ。
神殿の中で女神に使命を告げられ、頭がまだポワポワしてる頃だろう。
こっちはと言えば、装備はボロボロ、服はヨレヨレ。
日焼けして、だいぶ黒くなっているし、さっきまで魔王の攻撃にさらされていた。
何より1年がかりの冒険で、見違えるほどたくましくなっているのが自分でも分かる。
だがしかし──
(コレは、オレじゃない。別人としてここにいる)
今、目の前にいるのは過去のオレ。
こいつは、今のオレではない。
あの時のオレに戻ったわけじゃなく、"並列"にもう一人の存在として戻ってきてる。
……つまり、これって──
「タイムループってやつだよな、やっぱり」
納得しかけたそのとき、オレ──いや、過去のオレがこちらに気づいた。
「……あの、すみません。ここって……?」
きたきた、困惑ボイス。
オレはゆっくりと立ち上がって、言ってやった。
「……よく来たな……勇者よ」
「へっ?」
「今ちょうど、神殿で女神から命じられたところだろ? "魔王を倒してこい"って」
「……なんで知ってるんですか?」
「わかってるさ。オレも、かつてその使命を授かった者だ。……オレのことは、勇者ワンと呼んでくれ」
「えっ……?」
「お前は2番目だから、勇者ツーだ。いいな?」
「ちょ、えっ、えっ、あの……?」
オレは、ツーの反応にお構いなしに力強くうなずいた。
「では、共に旅立とう。魔王を倒す冒険へ!」
「……ちょっと待って、情報量が多すぎて頭がパンクしそうなんですけど!?」
そう叫ぶツーの姿を見ながら、オレは確信していた。
──この戦いは、まだ終わっていない。
むしろここからが、本当の始まりだ。