魔王城 1
オレは、ついにここまで来た。
灰色の石畳を踏みしめるたび、ブーツ越しに伝わる重たい空気。
薄暗い壁に掲げられた松明が、巨大な広間を淡い光で照らしていた。
「……これが、魔王城の大広間か」
目の前の階段の上に、巨大な王座。そして、その上に座ってやがった。
漆黒のローブを羽織った影……いや、あれが魔王だ。
背筋がすうっと冷える。
この1年、どれだけのことがあったか──
信じた仲間の裏切り。
愛し合った君を犠牲にした絶望。
だが、ついにここまでたどり着いた。
『やっと来たか』
低く、地の底から響くような声だった。
漆黒のフードの下は影になって顔も体もよく見えない。
けれど、その輪郭の一部が赤黒く脈打つように光っている。
『……お前が新しい勇者だな』
魔王の眼らしきものが、ぎらりと輝いた。
その視線が、全身を貫いたような気がした。
『待っていたぞ』
その声に、ぞくりとした。畏怖……それとも、本能的な恐れか。
『だが、勇者ごときに何ができるかな』
その言葉とともに、魔王が立ち上がった。
大広間の空気が音を立てて割れた気がした。
「……うっせえんだよ」
オレはゆっくりと、剣を抜く。
聖なる剣、エグセクター。刃の中央には、神々の紋様。オレの信念──それに呼応するように、剣が白熱を発していた。雷光のような輝きに、大広間の影が退く。
左腕には、コランダムシールド。女神が与えてくれた月の盾。中央のサファイアが、静かに輝きを放っている。銀の紋様が、敵意を感じてか、淡くゆらめいた。
「オレは……お前を倒しに来たんだ。たった一人でな」
魔王は、フっ……と笑った。声に出してはいないが、その雰囲気だけでわかる。
『お前のような未熟者、1000人が束にならねば……ワシを倒すことなど、できぬ!』
魔王が右腕を掲げる。
そこには黒金のブレスレットがはめられていた。表面には、禍々しい紋様。
あれが魔王の証、ガルヴァスの腕輪だ。
見ているだけで、意識が引きずり込まれそうになる。
ドンッ!!
深紫と暗赤の閃光が、魔王の腕から解き放たれた。
オレはすかさず盾を構える!
「──ッぐうっ!!」
衝撃。コランダムシールドがキィィん、と音を立てる。
だが……防ぎきれない!?
まるで全身に、雷と炎を同時に叩きつけられたような感覚。
魔王の腕から発せられる閃光が激しさを増す。
なすすべもなく、視界がゆれて、オレの意識が遠のいた。