転生☆お嬢様育成ゲーム!プリンセス系になりたい私vsパンク系に育てたい転生プレイヤー
大好きだったお嬢様育成ゲーム「育てて☆お嬢様! メリーエルズガーデン!」の育てられるお嬢様に転生したミーティアは、ほんの少しだけゲームに未練があったものの理想のお嬢様になれるかも! と新しい人生に胸を躍らせた。 しかしミーティアだけではなく、ゲームのプレイヤーキャラも転生者だった! ひらひらふわふわなプリンセス系お嬢様になりたいミーティアと、ツンツンクールかわいいパンク系お嬢様に育てたいプレイヤー兼兄のオリビエ。 優雅でゆるふわ、愛しかない平和な戦いの日々。
────ここは、メリーエルズガーデン。
自然豊かな世界で、キラキラな魔法や不思議で魅力的な生き物たちに囲まれて楽しくスローライフ!
だけど、おやおや? なんだか天界が騒がしいみたい。
「うへぇ、この花全部から新しい天使が生まれるのか。今回はどれだけ無事に生まれるかな」
「いつも千体ほどですよ。生まれたからといって、百年生きられる個体は少ないですけどね」
「そう考えると、俺たちは強い個体だったんだなー」
どうやら、百年に一度の天使が生まれる日がやってきたようです。
世界樹にたくさんの花の蕾が膨らんでいて、今夜一斉に開花し、天使が生まれます。
さあ、花が開き始めました。
月光に照らされて、天使たちが生まれ始めましたよ。
花の蕾から羽の生えた光球が一斉に飛び立ちます。
この中から成体にまで育つ天使はとても少ないけれど、それも世の理。
「うじゃうじゃいるなー。でもさ、人間はもっとたくさん子どもがうまれるんだろ? 考えられないな」
「いつの世も、たくさん子を産むのは劣等種と決まっているのですよ。たくさん生まれないと、種として存続できないのです。我々天使よりもね。ああ、ほら。すでに命の宿らない天使の魂が落ちてきました。拾って廃棄に行きますよ」
「はーい」
先輩天使が後輩天使に指導しているようです。
魂が宿らず、羽の生えなかった光球が光を失って木の根元に落ちています。
そうした黒い球を次から次へと回収していくのです。
後輩天使は廃棄する魂を拾いながら言いました。
「強い個体だけ生まれりゃ、廃棄なんてしなくてすむのに」
「どんなものでも、ハズレとは多く用意されるものですから。けれどここ最近の人間はハズレでも大人になるまで生きられるそうですよ」
「ハズレでも大人になれるのか。天使より生き延びる可能性高いんだな。……ん?」
先輩天使が何かを見つけたようです。
拾ったのは、金色に輝く光球。
真っ白な輝きを放つ光球の中で、この一つだけが金色に輝いていました。
羽は生えているものの飛ぶほどの力はないようで、地面に落ちて必死に羽を動かしています。
「わ、綺麗……」
「ふむ。この子は生きていますが、異質ですね。廃棄しましょう」
「えっ? だって、こんなに綺麗なのに?」
「ええ。天使は穢れを持っていてはいけませんから」
どうやら、美しく輝いている魂であっても、色が混ざっているだけで廃棄となるようです。
天使は皆等しく銀の神と瞳を持ちます。
それ以外は「異質」となるのです。
先輩天使が廃棄用袋に放り投げた金色の光球を、後輩天使は複雑な表情で見つめました。
「これですべてですね。廃棄場へ持って行きましょう」
「あの、俺が行ってきます。場所は覚えているので」
「そうですか? まぁこのくらいなら一人で十分ですしね。ではお願いします」
「はい!」
廃棄場につくと、後輩天使はいまだ袋の中で必死に羽を動かす金色の光球を見つめました。
魂の宿らないからっぽな黒い球は平気で亜空間に捨てられても、穢れを持っているというだけで魂の宿っている金色の光球をどうしても捨てる気にはなれないようです。
「人間に宿ったら、生きられるかも」
後輩天使に、ふとそんな考えが過りました。
天使が人間の世界に干渉することは禁じられています。
けれど、後輩天使は自分が罰せられるよりもこの金色の光球に生きてもらいたいと願いました。
後輩天使は金色の光球を抱えて、人間界を映す泉に飛びました。
泉を覗き、この金色の光球が宿ることのできる人間がいないか必死に探します。
「あ、あった。この人間の赤子には魂が宿ってない」
必死で探し続け、後輩天使はようやくちょうどいい人間を見つけました。
人間にとっては不幸なことに、その赤子は母体の外に出るほんの少し前に、魂が消滅してしまった個体でした。
出産直後らしい現場は、深い悲しみに包まれています。
赤子だけでなく、母親も命を失ってしまったからです。
「この子にしよう。お前、人間として元気に生きろよ」
後輩天使は金色の光球を泉に落とし、魂のない赤子に金色の魂を宿らせました。
突然、息を吹き返した赤子に気づいた人間たちは、急に慌ただしく動き始めます。
父親らしき人物が涙を流しながら赤子を抱き締めていました。
後輩天使はほっと安心したように息を吐くと、静かに泉を去りました。
しかし、後輩天使の行いはすぐ神様にバレてしまいました。
「オリビエル。禁忌を犯しましたね? 廃棄する天使の魂を、ましてや死ぬ運命だった赤子に宿らせるとは」
「だ、だって! そうすればあの天使もあの人間の子も、どちらも生きられると思って!」
「はぁ、オリビエル。貴方の心は美しい。けれど、人間の命に干渉した罪をないものにはできません」
覚悟はしていました。
後輩天使ことオリビエルは大人しく両膝をつき、両手を組んで頭を下げます。
「これから貴方の力を預かります。貴方は人間として地上に降り、あの子どもを守り育てなさい。幸せな生を送れるように。あの子が天寿を全うすれば、天界に戻れるでしょう」
「守り育てる……!?」
「これは罰です。さぁ、行きなさい」
「う、うわぁぁぁぁっ!!」
これは大変なことになりました。
天使オリビエルは堕天使となり、人間界へと落ちていきます。
天使特有の銀の髪と瞳が、どちらも淡い灰青色に変化してしまいました。
ですが、オリビエルはほんの少しだけワクワクもしていました。
あの子どもを、育てられるんだ。
この素晴らしい、メリーエルズガーデンで────
ちゃら~~~♪ ららら~~~♪
ちゃらららら~~~ん……♪
……んはっ!
見覚えのあるオープニングムービーと聞きなれたBGMが勝手に脳内で再生されている。
そうだ、ログインしなきゃ。ログインボーナスがもらえなくなっちゃう。
「き、奇跡だ……! 旦那様! お嬢様が息を吹き返しました!!」
「なんだと!? ああ、神様。娘だけでも返してくださりありがとうございます……!」
んん? なんだか騒がしい。なにを言ってるのかはわかんないけど。英語かな? 違う気もする。
それよりなんだか、寒い。
うう、寒い、寒いよぉ……。
「ふ、にゃぁぁ……ほにゃぁぁ……!」
「ああっ、弱々しいがちゃんと泣いている、生きているのだな……!」
待って、今の泣き声、私? あれ、どういう状況?
「ミーティア。お前の名はミーティア・セイラ・キングスコートだ。母の名も背負って幸せに生きてくれ、ミーティア」
今ちょっとだけ聞き取れたよ?
ミーティアって言った。言ったよね!?
この私が我が子の名前を聞き間違えるわけない。
ミーティア・S・キングスコート。
公爵家のお嬢様の名前で「育てて☆お嬢様! メリーエルズガーデン!」というゲームで育てるお嬢様のデフォルト名だ!
本当はかわいい名前を自分でつけたかったんだけど、私ってネーミングセンスがないからさ。
それに、ミーティアって名前がかわいかったからそのままにしたの。
お嬢様のことは自分の好みに育てられる。
見た目はもちろん、性格とかもね! それによって将来お嬢様がどんな風に育つかルートが別れていくんだ!
私は昔からずっとプリンセスが大好きだったから、お嬢様にかわいいドレスを着せて、ふわふわの金髪にして、くりくりの青い目にした。
すっごくかわいいの。少ないお小遣いでちょこっとずつ課金して、毎日着せ替えて、心の優しい天使に育てた大事な我が子。
そんなかわいい我が子ミーティアちゃんの名前を……なんだか私が呼ばれている気がする。
だがしかし! 眠い!
むずかしいことはわかんない! 考えるの苦手!
というわけで、私はこのまま寝ちゃいます。
夢なら覚めておいてください。おやすみ~。
*⋆꒰ঌ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ໒꒱⋆*
私、赤ちゃん! 生後……半年くらい?
ずっと泣いて、おっぱい飲んで、寝て、寝て、泣いて、の繰り返しだったからよくわかんない。
おすわりと寝返りはできるようになったよ! 私すごい!
はー、いまだに信じられないよ。あれが夢じゃなかったってことが!
たぶんだけど、転生ってやつだと思う。ラノベで千回くらい見た。
うわあああん! 私の育てたミーティアちゃああああん! 連続ログボ記録ぅ~~~!
……って、今でも思い出しては大泣きしちゃうんだけど、悲しいことばかりじゃないって気付いたんだ。
私がミーティアになったのなら、私自身がふわふわプリンセスになれるんじゃない?
やば、最高。そんなことに思いつくなんて私、天才!
「まぁ、ミーティア様。今日はごきげんですねぇ」
私におっぱいをくれる女の人、乳母っていうんだっけ?
乳母さんがふんわり笑いながら私を抱っこしてゆらゆらしてくれる。
メリーエルズガーデン、通称メリエルのこと思い出してギャン泣きしてる時も、このゆらゆらがあればすぐ眠れちゃう。
「ふふ。これなら、あの方を連れて来ても大丈夫でしょう」
えへへ、なんて言ってるのかわからないけど、この人は優しいから好き!
きっと私がかわいいって言ってくれてるんだろうな。
そうでしょう、そうでしょう。
ミーティアはかわいいんだよ! 私も見たい! 鏡とかないのかな? あってもまだぼんやりとしか見えないけど。
「ミーティア様、少しここで待っていてくださいね。会わせたい方がいらっしゃいますからね」
乳母さんは私をそっとベビーベッドに寝かせると、にこにこしながら部屋を出て行く。
あれー? もうゆらゆらおしまい? でも忙しいよね、乳母さんだって。
大丈夫、私はとっても良い子だから静かに待てるよ! どこに行くのかわからないけど、いってらっしゃーい!
はぁ、もう少し言葉がわかればいいんだけどな。
けどわかる言葉もちょこっとだけあるよ。
まんま! ねんね! おじょーさま!
三つも覚えてるなんてすごくない? やっぱり天才かも。前世の知識があるからかな。
でも前世での自分の名前とか、どんな生活していたかとかはほとんど覚えてないんだよね。
覚えているのは、試験さえ受けに行けば合格する高校に通っていて、オラつく男子ときゃぴつく女子に囲まれながらアニメや漫画やゲームに夢中のオタク女子グループにいたってことくらい。
せっかく転生したんだから、前世の知識を使って成り上がる! みたいなラノベで一万回くらい見たやつをやりたかったのに。
でも成り上がれるような知識もないし、どのみち無理だったかもね。
ってか、憧れのメリエルの世界に転生したんだもん。チートなんてなくても最高じゃない?
しかも育てられる側のお嬢様になっちゃったんだよ?
はー、幸せ。今は赤ちゃんだから毎日似たような服しか着てないっぽいけど、もう少し成長したらかわいい服をたくさん着られるかも。
ゲームの設定と同じでこのお家はかなりお金持ちみたいだし、きっと娘の私はたくさんのドレスを買ってもらえる! はず! たぶん!
わがままばっかり言ったりはしないよ。悪魔女王ルートにいっちゃうもん。
悪魔女王なお嬢様もきれいでかっこよくて素敵だよ? ゴスロリ系とかパンク系のクールスタイルも否定はしない。
ただ、私はやっぱりプリンセスみたいなかわいいお嬢様になりたい!
んふぅ、前世の自分のことは覚えてないけどゲームのことはたくさん覚えているのだ!
「んあ!」
大変、大事なことを思い出した。
本来、ミーティアは死ぬ運命だった。
魂が消滅してしまった赤ちゃんの体に、天使の魂を宿らせた堕天使オリビエル。
その堕天使オリビエルこそがプレイヤーなんだよね。
やっぱ、ここにもいるのかな。
天使には性別がないから、地上に降り立った時に性別を選べる設定だったっけ。
男だったら兄のオリビエ、女だったら姉のオリビア。
本来は存在しないはずの兄か姉が、天使だか神様だかの力でキングスコート家に昔から存在しているという体でこの屋敷にいる設定だった。
まー、家族でもないと守り育てられないからね。
さて、まだ見ぬお兄様かお姉様はプレイヤーとしての能力を持っていたりするのかな?
「あぶぅ……」
「ミーティアお嬢様、ただいま戻りました」
考えごとをしすぎてうとうとしていると、乳母が部屋に戻ってきた。
おっぱいの時間かな、と思って目を向けるとそこにはもう一人の人影が。
んはっ!
よく見えないけど、背が低いかも!
まさか、プレイヤー来た!?
「今日はミーティア様の下のお兄様をお連れしました。ずっと会いたがっていたのですよ」
乳母の後ろからひょこっと顔を出したのは、ものすごくキラキラした人物だった。
くぅ、よく見えないこの目が恨めしい! 赤ちゃんって本当に不便!
これでは兄なのか姉なのかさえわからないよー。ぐぬぅ。
『ああ、かわいい。スリスリちゅっちゅしたい。リアルでお世話できるなんて!』
えっ。きもちわるっ。
ぞわっと鳥肌が立ったよ。赤ちゃんのもち肌になんてことなの。
「ぷぇぇぇ……」
思わずぐずってしまうほど。
……あれ、ちょっと待って。
なんで今、この人の言ったことがわかったんだろ。
もしかして私、急に言葉がわかるようになった?
今になって覚醒しちゃった?
「あらあら、人見知りかしら。大丈夫ですよ、ミーティア様。お兄様はとっても優しいですよ」
いや、わからない。乳母がぐずる私をあやしてくれてるけど、なにを言ってるのかわかんないや。おかしいな……?
『泣いててもかわいいなんて最高! でもはやく慣れてほしいなぁ。ミーティアたーん! お兄様ですよー!』
んはっ! お兄様、ですと?
わかった。こ、これ……!
日本語だぁぁぁぁぁっ!?
えっ、まさか堕天使オリビエルは転生者なの!?
「オリビエ様? 先ほどから何か違う言葉をお話になっておられます……?」
「あ、ごめん。これはね、俺が考えた暗号なの。誰にもわからない言葉!」
「ふふ、そうでしたか。また面白い遊びをお考えになられたのですね。素敵ですよ」
「でしょう?」
あ、またわからなくなった。
すごい、オリビエルったらどちらの言葉も使いこなせるんだ。
転生者特典? ずるい。私にもほしかった!!
『ああ、本当にかわいい。ミーティアたん。俺が必ずやパンク系美少女悪魔っ娘に育ててあげるからね!』
……待て。い、い、今。
こいつ、日本語でなんて言った?
パンク系美少女悪魔っ娘ぉ!?
そんなっ!? ひらひらドレスは? かわいいプリンセスのドレスは!?
「ミーティア、今日はプレゼントを持ってきたよ」
オリビエルは一歩近づくと、いまだに混乱中の私の前に赤地に黒のタータンチェック柄リボンを差し出してきた。
初期特典でお嬢様に渡せる、選べるプレゼントだ!
オリビエルめ、パンク系を選んだな……?
「だぅっ」
ぺちーん。
「あっ」
オリビエルの手を払いのけた拍子にリボンがひらひら床に落ちる。
「んきゃーーーーぅ!!」
やだっ! プリンセス系のピンクリボンじゃなきゃいやーーーーっ!! パンク系は好みじゃないやい!
この日、私は人生で最も大きな叫び声をあげた。