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顔半分が、青黒くなったユリちゃんが布団の中で目を閉じていた。その枕辺で、男が泣いていた。
「罰があたった。オレが悪いことをしたから罰があたった」
何度も繰り返しては泣き、泣いてはまた後悔を口にした。ユリちゃんのお母さんは、ユリちゃんの枕元に座ったまま動かなかった。ただ黙ってユリちゃんの側にいた。
毎晩、ドアを見つめてお母さんを待っていたユリちゃんに似ていた。
ユリちゃんと私は、一度も喧嘩をしなかった。
ほとんど学校に通ったことがない私には一人も友だちがいなかった。母に連れられて行った先に大きな子や小さな子がいたこともあった。その家にいなくても近所にはたくさんの子どもがいた。
地元の子らの輪に紛れ込んで遊んだ。短い期間だった。数時間だけ、数日だけ。名前を覚えられる暇も、覚える暇もなかった。
夏休みの間、ユリちゃんと、眠るのも起きるのも、遊ぶのも何もかも一緒だった。ケイちゃん、ケイちゃんと何度も私の名前を呼んでくれた、ただ一人の友だちだった。
通夜の夜、知らない人がたくさん来た。片隅の私と母をいぶかしげに見る人もいたけれど、声をかける人は一人もいなかった。あれほど、母を見ていた男さえ一度も母を見なかった。
ユリちゃんを囲んで男とユリちゃんのお母さんが座っていた。その片隅で母と眠った。前の夜までユリちゃんと一緒に寝ていた布団だった。
葬儀の朝、母は、慌ただしく人が出入りする中、素早くタンスの引き出しから茶封筒をとると、中身をチラリと覗いて、自分のバッグに入れた。そして、来た時と同じように、私の手を引いて、誰に声をかけるでもなくふらりと外に出た。
他人の家から出て行く前に、母がタンスや引き出しを勝手に開けて、色々なものを持ち出している姿を何度も見ていたから、今回は封筒だけでいいのかと思った。