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 誰にも咎められず遊び呆けていた日々の中、ユリちゃんが、夏休みの宿題を心配しだした。私には宿題などなかったから、ユリちゃんが、宿題に気を取られるのが腹立たしかった。何とか宿題から気をそらそうと一層熱心に遊びに誘った。

 結局、宿題は終わらなかった。ユリちゃんの夏休みも終わらなかった。

 

 週に二回通っていたソロバン塾からの帰り道、ユリちゃんは、車に撥ねられた。即死だったと大人たちが話していた。

 私たちが来てから、ユリちゃんのお母さんがしていた塾への送迎の習慣が微妙に崩れていた。


 最初の頃、私はユリちゃんに未練がましく着いて行っていた。たった一人の遊び相手がいなくなるのが寂しくて、塾など休んで遊んでくれないかと期待を込めて、一緒に歩きながら遊ぼうと誘い続けた。

 けれど、ユリちゃんが毎回、またあとで! と手を振って塾へはいって行くのを見て、短い距離を一緒に歩くだけのあっさりした見送りに変わっていった。


 ユリちゃんには塾にも友だちがいるのだろうと思うと悔しかった。塾までの道の途中で、さっさと帰ろうとする私を見て、心細そうな顔をするユリちゃんに、遊んでくれないから悪いのだと思った。

 けれど一人になった途端、周りから、色も音も消えて、ユリちゃんの心細そうで悲しそうな顔で頭の中がいっぱいになった。

 こっそりと離れて後を追うこともあった。もしユリちゃんが振り返って私を見つけたら、どんなに喜んでくれるだろうと思うとワクワクした。


 結局、振り返らなかったユリちゃんが、塾の中に入っていく姿を見届けて、今度は出てきた時にどんな顔をするだろうと胸を躍らせて待った。

 もう公園で遊びたいとも、遠くまで歩きたいとも思わなかった。ユリちゃんの側が一番楽しかった。

 やがて、子どもたちが出てくるのが見えると、慌てて道を戻り、今、来たばかりという顔でユリちゃんを迎えた。ユリちゃんが、満面の笑みで駆け寄ってくると胸が痛いくらい嬉しかった。笑ってくれるなら、何時間でも待っていられると思った。


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