僕の担任は小さくて可愛い
自分で言うのも何だが、僕は優等生だ。
「成績は中の上、授業態度は上の中。そして俺の気分は上々!!」
こんな発言をしているが、僕は優等生だ。ちなみにここは職員室。
午前中の授業を全てサボったので担任に呼び出しを食らった。事の発端は昨日の夜、父さんと母さんと机を囲み夕飯を食べていた時だ。
「ねえ和樹。もう高3になるけど、彼女はできたの?」
「やめないか母さん、そう言うデリケートな話は。和樹は成績も良いし真面目だから、私達が無闇に口を出さなくても上手くやるさ」
「真面目だから心配なのよ。必要以上にルールに縛り付けられて高校生活を楽しめないのも良くないじゃない?」
ルールに縛り付けられている。俺は母のその言葉に強い衝撃を受けた。
「......田中君、聞いてる? どうして授業をサボったりなんかしたの?」
目の前にいる小さくて可愛い先生は、小柴冬子先生。我らが愛しき担任である。
担任が三年間小柴先生なのは、僕の小さな自慢である。
「先生、俺は気づいたんですよ。高校という空間は、学生たちを校則という糸で縛りつけているのではないかと」
「糸だとなんか細くて頼りないかな」
「だから俺はその縛られた世界から抜け出して、解放戦士になるんです!!」
「よく分かんないけど、反省文書こっか。普通に授業サボるとか意味わかんないし、田中くんもう受験生なんだからこういう事するとホント将来に響くよ?」
「......はい、すみません」
僕の解放戦士としての人生は、半日で幕を閉じた。
「つまり、田中君は彼女が欲しいの?」
「......え、いや、そういうわけもなくもなく」
「ウジウジしてないではっきり言いなさい」
「はい!! 欲しいです!!」
「よろしい。じゃあまずは身だしなみ整えたほうがいいかな」
「......え」
「ん? どうしたの?」
「いや、受験生なんだから勉強に専念しなさいとか言われるのかと」
「そりゃ勉強も大事だけど恋愛も大事だよ? 今のうちに経験しとかないとぜっったいに後悔するから」
「なんだかやけに感情こもってますね。もしかして先生の実体験とか、なんちゃって」
まさか、こんな愛くるしい先生に彼氏がいなかったなんてありえない。
「田中くん」
「はい?」
「先生はね、田中くんと同じ陰キャだったの」
「生徒になんて事言うんですか」
「違うの?」
「違いませんけど」
「太い黒縁のメガネをかけてて、いつもオドオドしてて。典型的な文学少女って感じだったの」
「なるほど?」
「つまり、そういうことよ」
「モテなかったんですね」
「......私を好きになった人が消極的な人ばかりだっただけよ」
「負け犬の遠吠えですね」
「田中くんは陽キャと陰キャ、どっちの味方なの!?」
「陽キャと陽キャは仲良いですけど、陰キャと陰キャって仲悪いイメージ無いですか?」
「仲悪いと言うよりは、お互いに干渉しない感じかな」
「不可侵条約でも結んでるんですかね」
「......よし、田中くん。私の高校生活の鬱憤を晴らすためにも彼女を作りましょう」
「突然ですね」
「いいえ、これは必然よ。狙うは高嶺の花!! 目指せ玉の輿!!」
「お、おー」