危機は続く
家から一番近くの一番よく行くダンジョンへ朝から潜っていた。
ワイバーンという空を飛ぶ大型の魔物の次の階は足の下から飲み込もうとしてくる大きなミミズで、足元が揺れ、割れ、そこから口を開けたミミズが出て来るという、ワイバーンとは別のやり難さがあった。
それでも主に幹彦が奮闘してミミズを片付け、何事もなかったかのように整った地面を恨めしく眺める。
「さっきの穴ぼこだらけでグラグラ揺れる地面が嘘みたいだな」
「この、ピタリと戻る整地の凄さ!ダンジョンってのはどうなってるんだろうな」
「ダンジョンのことわりは誰にも読み解く事ができん」
言い合いながら階段を下りると、一面の砂場が現れた。
「鳥取砂丘は行った事があるけど、ここ、砂漠かな?」
「おお、これが砂漠か!巨人の砂場みたいだな!」
足を踏み出すと、軽く砂に足が沈み込み、小さく「キュッ」と音がする。鳴き砂と呼ばれている現象だ。石英が多く、且つ綺麗な砂浜でのみ起こるものだ。その為環境のバロメーターと呼ばれており、その仕組みはいくつか考えられているが、まだ調査中らしい。
「面白い!」
よたよたとしながら、砂山に登って行く。
チビは半ば呆れたように、
「気を付けろよ。砂漠が面白いのか?」
と言うが、僕も幹彦も、砂がキュッと鳴くのが楽しくて、歩いていた。
その時、足元が抜けるような感じがし、地面が流れるように動いた。
「え?」
我に返った時には、足元には大きな穴が開き、そこに砂が滝のように流れ込んでいくところで、一緒に自分も流れ込んでいっていた。
「史緒!?」
「フミオ!!」
幹彦とチビの焦ったような声がし、顔が見えたが、すぐに砂の壁に隠れてしまった。
「砂の中?うわあ。
あれ?息ができるぞ?」
空洞に砂諸共流れ落ちたようで、生き埋めという感じではなかった。
とはいえ、安心できるかと言えばそうではない。穴の中に砂と落ちたら、地面が無くなって下に向かって現在落下中なのだ。
底がどのくらい深いのかは知らないが、墜落死するかもしれない。
これが単なる自然現象ではないらしいのは、穴の上、天井に当たる部分が砂で塞がれて行くのが見える事から明らかだ。罠、だろうか。
真っ暗な中、何かこのピンチを脱する魔術は無いかと慌ただしく考えた。重力軽減をかけ、風を下向けに撃つ。
体がふわりと浮くような感じで落下スピードが弱まり、地面に足が付いた。
「固いな。砂じゃないぞ。
ああ。また、穴の底かあ」
僕は周囲を見回し、そこが地下室の底に似たところだと見て取った。
しかし違いはある。ここに祭壇のようなものはないし、宝箱も無いし、螺旋階段も無かった。代わりに、こちらを捕食しようとして待ち構えていた魔物がそこにはいた。
ウスバカゲロウの幼虫、アリジゴク。丸いテントウムシのような形の体に、ニョキッとした手足と頭がついているような形で、茶色と赤のまだら模様という毒々しい色合いと見た目だ。
「風の一撃は防いだって事か」
じりじりと逃げながら、それに気付く。
火はどうかと思うが、この密閉空間で火を付けるのは、こちらにも危険が及ぶ。
水攻めか、凍り付かせるか。
考えた時には、想像より早い前足の攻撃を避けて地面に伏せ、一転飛び起きて横っ飛びに逃げていた。
何か液体を吐いたのだが、それが当たった地面から煙が出ていた。
そう言えば、アリジゴクはフグの持つテトロドトキシンの130倍の毒を持ち、それと消化液を獲物に注入して、体液を啜るのだと聞いた事がある。
当たるわけには行かない。
しかし、逃げ道も見当たらない。このアリジゴクを倒さなければ、どうしようもないという事か。
氷の槍を突き立てようとしてみるが、魔術無効を持っているのか効き目がない。
「接近戦!?」
泣きたくなった。
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