若隠居と合同合宿(3)
とんだ勘違いではあったが、美味しい肉をたくさん提供でき、皆も喜んでくれて満足だ。
領収書と言われたが、タクシー代以外はかかっていないし、お断りした。僕たちまで手伝いをするとはいえ、お世話になっていることだしな。
家庭科室のように広い調理場にウシを運び込むが、魔物ということで男子たちは目を輝かせているし、大人たちは値段を知っているので別の意味で目を輝かせている。
しかし、流石に解体の場面は中学生に見せるわけにはいかないだろうということで、僕と同じ雑用係の師範の家族の女性と探索者免許を持っている人の中の希望者だけが、解体に立ち会ってもいいということにした。
ここでもやはり、女性は強い。最初こそ及腰ではあったが、料理に慣れているということもあるのか、すぐに慣れて、手伝いをしてくれるようになった。
「うわあ、これ煮込みによさそう」
「これ、焼いて食べたら美味しそう」
「ここ、薄くスライスして焼き肉用に切りましょうよ」
「賛成。すじ肉ももったいないわ。すじカレーにしない?」
「そうね、それがいいわよ。でもちょっとだけ焼いてトッピングにしない? 食べてみたいわ」
「いいわねえ。いやだわ。合宿で太りそう」
「あはははは」
まるっきり平気だ。
「それにしてもたくさんねえ」
「ああ。余ったら分けて持って帰ってください。お疲れ様ってことで」
「いいの!?」
「やったあ!」
わいわいと楽しく喋りながら、食事の支度を進めていく。
僕もいろいろと、知らない料理のレシピを教えてもらったりして、合宿に付いてきてよかったと心から思ったのだった。
一日目の夕食はウシの魔物のカレーと、生野菜に元気草の春巻き、マンゴーの実だ。
残りのすじ肉は甘辛く柔らかく炊いてあり、大人の反省会という飲み会でつまめるようにしてある。
「おれ、魔物肉って初めて食った」
「高いもんな。うちだって、スーパーの特売品だぜ。量がいるから無理って母ちゃんが」
「うちは、誕生日にちょっとだけハンバーグを食べたことがあるわよ」
「やわらか~い。それに味が濃い~」
「カレーもちょうどいい辛さで美味しいわあ」
好評でよかった。スペインまで行ってきた甲斐があるというものだ。
「うむ。すじ肉のカレーもいいものだな」
「カレーの味もいつもと違うけど美味しいー」
「この春巻きを食べて、明日には元気復活でやんすね」
「合宿はまだまだ続くからのう。最初でバテるわけにはいかんからの」
チビたちも美味しそうにぱくついている。
「悪かったな、史緒。でも美味いぜ」
「よかった。スペインのウシが美味しかったと思い出してね」
「スペイン?」
「あ、何でも無い。お、おかわりもあるよー」
賑やかに夕食の時間は過ぎていった。
夕食後、就寝時間までの自由時間は好きに過ごす。話をしたり、携帯ゲームをしたり、素振りをしたり、様々だ。
そして就寝時間になれば、十人ずつ程度に分かれて部屋に入り、就寝する。
まあ、恋バナをしたり、怪談をしたりしているであろうことは明白だが、その程度は大目にみるらしい。というのも、二日目、三日目と進んで行くと、そういうことを楽しむ余裕は自然となくなるだろうから、とのことだ。
そして大人たちは、反省会という軽い飲み会だ。
今日の練習での感想、個人的に気になった生徒の指導方法などを打ち合わせると、今後の予定だ。
「明日は終日基礎訓練。明後日は山の頂上まで歩いて、夜はキャンプファイヤー。その次は実践形式で、どんどん打ち合いをしていこう。その次は師範のエキシビションマッチと生徒の勝ち抜き戦。予定は以上ですが、これでいいですか」
それで各々が「はい」と言いながら頷いたりして、反省会は終わった。ここから、ノンアルコールビールで軽く飲み会だ。
「すじ肉、とろっとろだな」
「お好みで辛子をつけてどうぞ」
「うちでもやろうかしら。普通の牛すじでだけど」
「こっちの春巻きもいいね、史緒君。これ、何の野菜?」
「庭に植えている薬草ですよ。疲労回復にいいので元気草と呼んでいるんですけど。二枚か三枚がいいと思うので、毎日夕食に使えばどうかと」
ノンアルコールでも、気分はアルコールである。何だか皆、酔い始めて楽しそうだ。
チビたちもすじ肉をもらい、師範達や奥さん連中にかわいがられて、ごきげんだ。
「俺も探索者になろうかなあ」
「おれは免許は取ったけど、あんまり行けてないなあ。久しぶりに行きたくなってきた」
「うちの子が探索者免許を取りたいって言うのよ。どうかって思ってたんだけど、許可しようかしら」
そんな会話をそこここでしているうちに、一日目は終了した。




