若隠居と合同合宿(2)
肉を調達するために行くのは、無論、ダンジョンである。
「牛肉を三十キロだったよね。ちゃんと狩っていかないとね」
「うむ。食べ盛りだし、運動もするのだからな。多い方がいいのではないか、フミオ」
「それもそうか」
「そうでやんす。足りないよりは多い方がいいでやんすよ」
「そうじゃの。余れば分ければいいしのう」
「そうだね。じゃあ、最低三十キロで、できればもっとたくさんにしよう」
「がんばって見つけてくるー」
僕たちは張り切って、いつもの慣れた港区ダンジョンのミノタウロスのいる階へと急いだ。
どこかな、どこかな。
「いたー」
ピーコが言いながら、飛んで帰ってくる。その後ろから、ズシンズシンと足音を響かせてミノタウロスが追いかけてきている。
「何か怒ってるでやんすか?」
ミノタウロスの顔付きが、どうにも不機嫌そうで、怒りのオーラがほとばしっている。
「ピーコ、何をしたのだ?」
チビが訊くのに、ピーコが澄まして答えた。
「こっち来いって、頭を突いて天辺の毛をむしってきたー」
どうだ、と言わんばかりに胸を張る。
「まあいいか」
「よし。肉は生で持って行くから、いつも通り、火は厳禁だぞ」
チビが言うと、ピーコたちが「了解!」と答え、戦闘を開始した。
ガン助が岩をミノタウロスの目にぶつけるとミノタウロスは両手で目を覆い、チビがミノタウロスの足を凍り付かせて留め、ガラ空きの胸に僕が魔力弾を撃ち込むと、内部で冷凍の魔術が広がり、瞬時に心臓が凍り付いて即死した。
それを空間収納庫にしまってから、ふと気付いた。
「待てよ。牛はともかく、一般人にこれは食べにくいかもしれないなあ」
人に近い形である。トラウマを植え付けてしまうかもしれない。
「ふむ。もっと普通の牛の形の方がいいか」
「スペインやインドのダンジョンのウシ、美味しかったでやんすよね」
「そうだね。インドは混みあってたからスペインまでちょっと行こうか。内緒で」
密出国に密入国だが、こそっと行ってこよう。
「せっかくだから、美味しいウシを食べさせてあげようよー」
「美味しい物を食べて練習にも熱が入るというものじゃな」
話は決まった。
僕たちは誰も目撃者がいないことを確認し、素早くスペインのダンジョンへと転移した。
スペインのダンジョンの、人が少ないところは覚えていた。薬草は生えているもののもっと浅い階にも生えているので、植物の採取をする新人や専門の探索者は来ないし、ベテランはこんな薬草に見向きもしない。
「誰もいないな」
それでも誰もいないことを祈りながら転移すると、やはり誰もおらず、安心した。
「よし。では、牛だな」
「いくでやんす」
「ついでに何頭か多めに狩っていくよねー?」
「うむ。せっかくだ。そうしよう」
「じゃあ、素早く探してさっと狩っていこうね」
僕たちはうきうきとウシの魔物を求めて走り出した。
数時間後、再び転移で港区ダンジョンへ戻ってからゲートを通って外へ出て、人気のない物陰から転移で合宿場に近い駅まで行き、ここからは仕方なくタクシーで合宿場へと行った。
転移ができるというのは大っぴらにできないので、時間も無駄だし面倒だが仕方がない。
そしてこれも面倒だが、魔素のないところでは収納バッグも使えないことになっている。だから、空間収納庫からウシの魔物を取り出して、チビやガン助やジイと協力して持ち上げた。
「ただいまー」
入っていくと、ちょうど皆は入り口前のグラウンドで休憩しているところだった。
「あ、史緒君、お帰り。悪かった──え?」
「え? ああ、ギュウ、多めに狩ってきましたよ! 食べ盛りだし、運動してたくさん食べるかと思って!」
雑談していた全員が、無言でこちらを凝視している。
あれ?
「ギュウ?」
雅彦さんの友人の一人が言う。
前回、同じくエビ釣り隊になった人だ。
「はい。最初はミノタウロスにしたんですけど、あれは見た目で嫌がるかなあと思ったので」
「……ミノ……」
「これ、美味しいんですよ」
ニコニコとして答えると、師範の一人が呆然としながら雅彦さんに言った。
「おい。なんて言ったんだ?」
「ギュウを買って来てくれと……」
「はい。狩ってきました!」
「《《かう》》が違うわけか」
誰かが言うのに、別のひとりがぼそりと言った。
「牛だけに?」
それで幹彦がプッと噴き出して、その場は笑いで収まった。
あれ?




