若隠居と合同合宿(1)
僕たちは日本の家で、宿泊の準備をしていた。
いつもなら空間収納庫や収納バッグに着替えなどもたくさん入れているし、必要に応じて転移で家へ戻るので、こういう旅支度というのは久しぶりだ。
エルゼの事件も気にはなるが、今回、幹彦のお兄さんである雅彦さんの剣道教室や雅彦さんの友人の道場など数か所が春休みに合同で合宿をすることになり、僕たちも手伝いを頼まれたのだ。
場所は少し離れた山の中で、こういうスポーツ団体の合宿によく使われている施設らしい。
「旅行、楽しみー」
「今度は山でやんすね」
「山桜は見頃かのう」
「うむ。なら、花見だな」
チビたちも顔を寄せ合って楽しそうに相談している。
合宿は剣道の練習がもちろん中心だが、それだけではない。師範によるエキシビションマッチや、オリエンテーリングなども予定されている。
食事の支度は各道場の師範の妻や姉妹が中心となって行うらしい。
だが雅彦さんのところは、雅彦さんの奥さんは現在妊娠中であり参加できず、小母さんは妊婦を放っておくわけにもいかないと残ることになり、代わりに僕が手伝うことになっている。
幹彦はもちろん、指導の手伝いだ。
「そうだ。山には動物がいるだろうけど、狩ってくるのは禁止だからね」
チビたちは不満そうな顔をするが、仕方がない。鳥獣保護法というものがあって、まずいのだ。
「ダンジョンで合宿すればいいものを」
チビがチッと舌打ちをして言う。
「いや、中学生とかもいるんだぜ。仕方がねえよ」
幹彦は苦笑する。
「チビたちのおやつも持って行くし、散歩ならしてきてもいいよ」
それでチビたちは、気を取り直したらしい。
「森林浴も気持ちいいよねー」
「木の実は採ってもいいでやんすよね」
「山菜を探してみるかのう」
「それはいいな。よし。山菜ご飯か山菜の天ぷらだな」
楽しそうで何よりだ。
そうして翌日、雅彦さんや以前会ったこともあるご友人たち、道場に通う生徒さんたちと集合し、貸し切りバスに分乗して合宿場に出かけたのだった。
しかし、問題が起こったのは、その数十分後のことだった。
麓の小さな店が食料品を配達してくれ、先に一人が行って納品確認していたらしいのだが、手違いで肉が少ししか入っていなかったと連絡が入ったのだ。
「今からメニューを変えるにも、もう届いた食材が無駄になるし、メニューの変更とか食材の変更とか大変だし。近所の店をまわるにしても、元々人の少ない地域だから、そう大した量を置いていないらしいんだ」
雅彦さんが頭が痛いという顔付きで言う。
「何しろ食べ盛りの子ばっかりだろ。牛肉を三十キロでも足りるかどうかって言ってたのに、集められるのはせいぜい数キロらしい」
それは大変だと、僕たちは顔を見合わせた。
「じゃあ、僕がかって持って行きましょうか」
僕がそう言うと、彼らは一斉に顔色を明るくした。
「悪いけど、頼めるか、史緒君」
「ええ、もちろんです」
「じゃあ、牛肉を三十キロ頼む。カレーはチキンとかに変えてもいいけど、焼き肉は皆楽しみにしているからな。どうしても必要だ。頼む。かってきてくれ」
「わかりました。牛肉三十キロ、かってきますね」
ニコニコとして僕たちはよかったよかったと言い合い、電話の向こうで店主はホッと安堵した声音で、
「すみません、すみません」
と何度も言っていた。
「フミオ、我も付いて行こう」
「手伝うー」
僕とチビたちは一緒にトイレ休憩のために止まったサービスエリアからタクシーを呼んで乗るふりをして、家へと転移した。




