若隠居と神谷さんへのお誘い(1)
いつもの如く神谷さんに報告書を渡す。
「神谷さん、長期休暇ですよね、そろそろ」
神谷さんは突然何を言うのかと言うように眉を上げたが、大人しく答える。
「ええ、そうですね。年末年始は役所も休みになりますね」
僕と幹彦は、コーヒーカップを置いて、ワクワクとした目を神谷さんに向けた。
「実は、俺たちこれからちょっと不定期に遠いところまで行かなきゃならなくなって」
「そうなんですよ。それで、もしよければその前に一度旅行をご一緒したいなあと思いまして」
神谷さんは胡散臭いという感情を隠すことなく両目に表しながら、僕たちを怪訝な表情で見た。
それは、三日前にさかのぼる。
神谷さんへの報告時期であると思い出した僕たちだったが、ちょうど幻獣が出たという知らせもなく、一度日本へ戻ってもらうことは可能だった。
「でも、この先もこう上手くいくとは限らないぜ」
「そうだよな。もう、全部説明して報告を待ってもらうとかできないかな」
そう僕と幹彦は考えた。
「でも、信じるでやんすかねえ」
UFOだもんな。宇宙人だもんな。僕だったら、信じないかもしれないな。
するとあっさりとチビが言った。
「ならば、一度、短い期間だけカミヤを連れて来ればよかろう?」
皆、チビの顔を見て考え込んだ。
「いや、政府の役人なのだろう。子細を見せるのは許可が下りるかどうか」
ハルヤがまずそう意見を述べる。
「そうでっせ。科学技術をどうにかして持ち帰ろうとかしはりませんか」
尤もな意見ではある。だが、その心配はないだろう。
「大丈夫だよ。どうせ今の地球人にこれが理解できるわけもないしね」
悲しい理由だが、間違いない。
「それに、いつも僕たちが好き勝手に暴れて変な称号を増やすって怒るじゃないか。こっちは目の前の問題をコツコツと片付けているだけなのに。今回は宇宙だよ。何かおかしい称号が絶対に増えるに決まってるよ」
僕は不安に思っていたことを口にする。
「まあな。知らねえうちに称号が増えたり変わったりしてるだけなのに、『派手な称号を増やして、これがバレても言い訳できないでしょう。これ以上は庇いきれませんよ』だもんな」
幹彦も同じように口を尖らせた。
「一度、見てもらえばわかってもらえるかもしれんのう」
「うむ。カミヤを乗せるか」
「でも、政府の許可を取るとか言い出したらどうするのー」
「心配はいらんぞ、ピーコ。忘れたか。これはUFOだ。UFOと言えば拉致だからな」
チビが自信満々に言い、なぜかピーコ、ガン助、じいが納得する。
そうして、短期間だけ神谷さんを乗せることをハルヤが一応お伺いを立てると無事に許可がおりたのだった。
今度は、大ミミズの皮と発酵物の処理だ。宇宙船のミサイルもビーム攻撃も受け付けないほど丈夫なことが確認されている。これにいろんな魔術を付与し、発酵物でコーティングすれば、最高の一品となるだろう。
だから、日本に戻ったその足でエルゼに転移して、特急仕上げで発注をかけた。
この先の幻獣との戦いで、仕立てておいた方が安全だという判断からだ。
そして、現在、日本の我が家である。
「何を企んでいるんですか」
「嫌だなあ、企むだなんて。なあ、幹彦」
「そうだぜ。親睦と理解を深め合いたいなあ、と思っただけだもんなあ」
チビたちも神谷さんのそばへにじり寄る。
「カミヤ、一緒に旅行に行こう」
「楽しい楽しいドライブー」
「二度とチャンスのない珍しい体験でやんすよ」
「めくるめく星空体験じゃのう」
神谷さんは、かなり揺れているらしいのがわかる。
「ま、まあ、明日から休みの予定ではありますし、取り立てて何かする予定もありませんが……」
「決まりだな。神谷。動きやすい格好をして来いよ」
こうして神谷さんはよくわからないままに旅行に行くことに同意したのだった。




